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ライラは、獣が倒されてから子供たちの元へと戻った。
「大きかったね~」
「ね~。びっくりしたね~。」
ララとリリーは、びっくりしたと言いながら、お茶と菓子を食べている。
逞しく育っているらしい。ライラの方が驚いてしまう。
「お母さま、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。フーカ様が矢を射っていましたわ。命中率が高くて驚くわ。」
「フーカさんやっぱりすごいね。」
「そうね。」
わかっているのかしら?
放った矢が2本は耳に行っていたけど、それ以外が目に刺さるって、たぶん恐ろしい命中率なのよ?
少しすると、少年2人も着替えて戻って来ると、お茶と菓子を食べ始めた。
空が急に暗くなり、ガードの中に大きな鳥が下りてきた。
嘘でしょう?
こんな大きな足で狙われたら終わりだわ。
ああ、どうしましょう。
ガードがあるからって安心していたわ。
ガードの効果がない獣がいるなんて…ライラの足が竦んだ。
フーカ様が速足で近づき、大鳥を撫で始めた。大鳥は、その大きな体を丸め、頭をフーカ様へ擦り付け始めた。
え?
よく見ると、ピンク色の首掛けを付けていて、ヒシ家の紋章が入っていた。
あ…グリフォン隊の大鳥なの?
ガードの外側にも、同じような大鳥が10羽以上降りてきていた。
この大鳥だけが、ガード内に降りられるのね。
グリフォン隊は、フーカ様へ敬礼をしてから、先ほどの獣を検分しているようだった。
それらが落ち着くのを見計らい、フーカ様は彼らにもお茶を振る舞い始めた。
お茶を受け取るのが慣れている様子なので、いつもの事らしい。
そのうちに、ヒシ侯爵閣下までお越しになられた。どう見ても美少年のような青年なのに47歳という初老らしい。
こう見ていても、そうは見えない。
氷の…という異名をお持ちのようだが、フーカ様へ向ける視線は温かく、そのような方には見えない。
楓花は、スマホから敬一郎にLIMOを送っていた。
写真を撮るのも、名称も書くのも憚られるので「WJが出ました」とだけ送った。
だけど、サクラを呼んだので、グリフォン隊もついて来てくれた。
検分をし、周囲の確認をし、その間に簡単な聞き取りもされていた。そして、ホワイトジャイアントも持って帰ってくれた。
素早い対応で助かる。
あんな大物は、いろいろと困るのだ。
ケイさんは後でこちらに戻ってきて、しばらく行動を共にすると言っていたので、状況を確認したいのだろう。
ここに来てどう過ごすつもりかわからないけれど、ベッドはある。
リリーとサナを1階で寝かせる都合上、私がルーフで寝ることは承知してもらうしかない。幼い子を梯子で登らせるのは、難しい。
楓花は、一通りの片付けを終わらせると料理を始めた。
大和で収穫したトマトやキュウリは、春玉ねぎと和えて甘酢をかけておく。
冷蔵庫から取り出した木の実ウサギの肉は、食べやすい大きさに切り袋に入れた。白ワインと塩コショウをして、生のローズマリーを入れる。袋のまま揉むとボールに入れて置いておく。
常温放置は怖いけれど、冷蔵庫は冷えた後は時間停止になっているので、入れても味はしみこまない。冷凍庫から取り出した氷を2つの小袋に分けて、それをボールに乗せた。
鍋に水とコンソメを入れて外へ運ぶ。
まな板と包丁を持ち、外に出るとリリーさんに焼き野菜の切り方を教えた。
長机では高すぎるので、キャンプ用のテーブルを使う。
腰を屈めて見ているのはきついので、楓花は椅子に座った。
「リリーさん、手はこうやって親指を入れて軽く丸めて食材に乗せるでしょう。この指の背にナイフを当てて、包丁の先はまな板に置いたままよ。こうやって動かすとケガをしないわ。」
リリーは、楓花に手を添えてもらい包丁の動きを教わった。切っているのは、皮をむいて厚さをそろえた人参だった。それを短冊切りにしていた。
「私もしたい!」
「それなら、ララさんはこちらで大根を切ってもらおうかしら。リリーさんと同じよ。包丁を持っている時には、振り向いたり腕を伸ばしたりしないでね。刃物を持っているのですから、人に刺さったら危ないわ。」
「うん、気を付ける!」
一般的な料理人の包丁使いは、刃先を上下させるか、平行に動かすものだが、楓花の包丁の動かし方は独特だった。楓花に料理を教えた人は、大量調理を行う料理人だったので、その影響が大きかった。刃先を下ろしたまま、包丁を上下させていた。沢山の野菜を安全に切るための工夫がある。
「サナは、こっちね。」
楓花は椅子に座り、足の間にサナを立たせていた。
後ろからサナの手を握り、一緒に野菜を切る。サナに使わせるための子供用の包丁を用意していた。刃先が丸く刺さりにくい。
「これはナスよ。丸くて転がりやすいから、気を付けてね。」
「うん」
「ナスは丸いおててでは、転がるからこうやって押さえて、そして指の間から縦に切って反対に向けてもう一回切ろうね。ほら、半分になったわよ。」
「わー、サナが切った!」
「そうね。上手よ。そうしたら、今度はこうやって手を丸くして端を抑えて、斜めに途中まで、切りましょう。そうそう上手。そうしたら今度は縦にして同じように切ると、ほら鹿の子になったでしょう。これを食べやすい大きさに切りましょう。」
楓花の料理教室を大人たちは、見ていた。
その説明を聞きながら、ハナやテンたちも長机で切っている。彼らの方が背は高いので、そちらでも大丈夫なのだ。
指にケガをしたら、すぐにルーシーが手当をしてくれるので安心だ。
楓花は、そんな彼らを見守っていた。
見守っている間に、アーサーは焼き台に火を入れる準備をしていく。
ある程度の準備ができたところで、アーサーに呼ばれて火をつけた。ロングライターを使うのだけれど、彼らは魔法でも見ているような顔をしていた。
焼き台には金属のバーが1/3部分に乗せられた。これは鍋や薬缶を乗せるための台だ。そこにコンソメ入りの水の入った鍋が乗り、ニンジンを先に入れた。
焼き台の残り2/3のスペースには、鉄板が載せた。
木の実ウサギの肉をアーサーに焼いてもらう。
脂がたっぷりと出てくるので揚げ焼き状態になる。ある程度表面を焼いたら、ナスとキノコを並べた。木の実ウサギの脂を吸ったナスは、背徳の美味しさになるはず。
楓花は、アーサーが焼いているのを見ていた。
様子を見てほんの少し醤油をかける。
ふわっと醤油の焦げる匂いが立ち上がった。
そうしていると、グリフォンが舞い降りてきて敬一郎もやってきた。グリフォンは、敬一郎を降ろすと、すぐに飛び去って行った。
楓花は、お皿に甘酢につけた野菜を盛り、焼けたお肉と野菜を乗せる。
味見をして、微笑むと待っていましたとばかりにルーシーたちが、盛り付けていった。子供たちもそれを手伝う。ワイワイと作業をしているなか、ライラは何も出来ずに見ていた。
そうしている間に、食卓が整ってしまう。
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