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ライラは、緊張していた。なんとか、服を脱ぎ、用を足した。
本当に、この美しい陶器の椅子にしてしまっていいのかと不安になる。
中には窪みがあり、少しの水が溜まっている。でもしていいというから、覚悟を決めて排泄した。とても背徳感のある行為だった。
そして、確かに椅子の横には薄い紙があった。それを手に巻き取りちぎる。なるほど蓋にギザギザがついていて、ちぎれやすくなっているのね。柔らかくて気持ちのいい紙だわ。あの口の周りを拭いた紙と似ていた。
レバーを引く?
あ…これかしら?
椅子の後ろにある箱のレバーを引くと、ジャバーっと音がして水が流れ、汚物と紙を消し去った。
まぁぁぁ!!!
何よ、これ、これも魔法なの?
すごいわ!
どうなっているのよ。
ライラは、大興奮だった。
国内有数の商家といえども、厠は厠だ。
外にある臭い場所だった。
自室でする時には、おまるを使っていた。
それをメイドが運んでいく。最近でこそ専用のおまる部屋を作ったけれど、それまでは衝立の奥でしていたから、部屋に臭いが残ることもあった。
「お母さま、出たらここで手を洗ってね。右側の出っ張りに手を翳せば水が出てきて、左側の細いところに手を翳せば石鹸が出てくるわ。」
「なんですって!まぁ!温かいわ。石鹸が!まぁぁぁ!!!」
ライラは、大騒ぎだった。
石鹸がどれほど高価で、貴重な物かを知っているからこその大騒ぎとも言える。
ライラは、外に出てライトフラワーの花弁を摘み始めた。
時折、立ち上がって背中を伸ばした。
フーカ様が体操という物を始めると、皆がそれを真似して動く。最初は、あっけにとられて眺めていたのだが、ララに誘われて真似てみた。
それをすると、不思議と体が楽になった。黙っているよりも動いたほうがいいと知った。そして、また採取をした。
ケントとアーサーは、出来る限り楓花たちのいない側に獣を誘導して狩りをしていた。
そうすることで、解体の現場を見せないで済む。
しかも、ガードの中であれば、テンとダンにも普段できない丁寧な説明をしてやる事ができる。またとない機会なのだ。
「いいか、血が残っていると生臭くて食べられない。こうやって吊るして首から血を出させる。」
獣が木に下がっている様子は、生生しい。
さすがに、子供や商家の奥様達に見せるようなものではない。
「皮を剝ぐ時には、こうやって毛を丸めながら肉に毛がつかないようにする。」
「毛がついたらどうなるの?」
「臭くて食べられたものではなくなる。ウサギぐらいなら、お湯につけてから剝ぐ方法もあるが、こういう場所には向かないな。」
「へぇ…」
「そうだ。うまいぞ。そのまま肉と皮の間にナイフを進めろ。」
獣の皮を剥ぎ、内臓を傷つけないように肉をそぎ取る。肉は筋肉の部位ごとに剝がしやすいので、できるだけそう切り取る。
何度も説明してきたことだが、今日はガードの中で余裕があるため、集中して教えられるし実践もできる。ガードの中で解体をさせるのは、2度目だった。
楓花がいない時の周囲を警戒しながらの作業とは異なり、丁寧に教えられた。
ダンもテンも問題なく進めているので、ケントとアーサーは狩りに集中することにした。
春になったばかりの獣の身は痩せていて、秋とは大違いで美味しさは異なっていた。だが、増えすぎても困るので、ガードから離れない獲物は狩るようにしていた。
それでも、それなりの数が寄ってくる。解体しているから周囲には、血の臭いがしているのだろう。
腹を空かせた春の獣たちにとっては、魅力的なようだ。
楓花は、疲れたので休憩することにした。
ブルーシートを敷き、キャビンで沸かした湯をポットへ入れた。
今日は、紅茶のティーバックと個包装の菓子にした。
手を拭くための濡れティッシュも用意する。
皆も慣れてきたのか、1枚ずつ取って手を拭いていた。
「これは?」
「これはティーバックです。袋の中に茶葉が入っていて、少し浸けてから振るとお茶が出てくるの。今日のようにティーポットを使うのが面倒な時に便利です。」
「まぁぁ!それはいいですね。」
ライラは、見慣れないティーバックに目を輝かせた。商売になる!
よく見ると袋は薄く少し透けているけれど、茶葉が出てこないほどに目が細かい。
「紙を使っているので、商売に使うなら、茶こしのほうがいいかもしれませんね。」
「茶こしですか?」
「ええ、ちょっと待ってください。」
フーカ様は、車から半円形の目の細かい茶こしを持ってきた。
「こうやって引っかけて茶葉を入れても同じことです。これなら作りやすいでしょうし…。」
「なるほど…これはとても精密ですね。」
残念だった。これを作れそうな職人に心当たりがない。
「布で作ってもよろしいのですよ。木綿糸や麻でこういう網を作って…もしくは小さな巾着にして…」
「なるほど、それならできそうです。」
大魔導士様なだけあって、博識だった。
なんにでも答えてくれるというのは、こういう事なのかと実感する。
「サナ、リリーさん足は閉じましょう。はしたないわ。」
2人を見ると、膝をげんこつ2つ分ほど開いていた。淑女としてはだらしのない姿勢だったが、注意を受けて膝を閉じた。
楓花の注意を聞いて、ハナも膝を閉じた。
フーカ様も私も足を斜めにして座っているのは、スカートの時にも足の間を見せないためだ。たとえスカートでなくても、淑女の作法というものがある。
フーカ様は、そういうことも気を配ってくださる方のようで安心した。
「うわぁぁ!!!」
大きな声が、車の後ろから聞こえた。
フーカ様とルーシーが駆け出した。
ライラは、ララに皆で一緒に固まっているように言い含めてから、車の後ろへ向かおうとして顔を上げた。
大きな獣が、車の後ろに立っていた。
ガードがあるのに?
いえ、ガードの奥にいるの!?
それでもあんなに大きいの!?
あまりの大きさに足が震える。
フーカ様は、向かいながらどこからか弓と矢を取り出し、構えていた。
そこから何本もの矢を連射し、大きな獣の両目を潰した。
大きな獣が暴れようとして、斜めに崩れ落ちる。
そこにケントの大剣が振り下ろされた。
首が胴体から離れ、獣の手がガードの中へと落ちてきた。
こんな獣までいるの?
フーカ様が弓を仕舞い、動いたのでライラも動いた。
ケントとアーサーは、怪我しているようだけれど、生きている。
車の側では、ダンとテンが抱き合っていた。
フーカ様が2人を見て、頭を撫でてから服を渡していた。
なるほど、失禁でもしてしまったのか。
あんな物を見たのだから、それは仕方のないことだ。
私は、済ませておいてよかった。そうでなかったら、今頃恥ずかしいことになっていたかもしれない。
フーカ様が、ケントとアーサーの治療を始めると、ルーシーも手伝っている。
子供たちは大丈夫だろうか?
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