↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第9章 旅行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/259

3



 ライラが驚いている間に、テーブルの上には大皿とカップが並べられた。

 

 「え?え?」

 「お昼ご飯よ。さあ、いただきます!」

 「いただきます。」


 この世界に「いただきます」という食前の挨拶はない。

 信心深い者は神に長い祈りを捧げるが、それとは違う短い挨拶だ。

 天龍のメンバーもリリー達も、もう慣れた様子だ。一緒に「いただきます」と言って食べ始める。


 ライラは、目の前に置かれた一皿に戸惑っていた。

 少しずつ盛り付けた美しい料理ではなく、結婚前の個人商店の娘だった頃の食卓に似ていた。

 娘時代の実家の食事は、一皿に盛り付けパンを添えていた。そうでなければ、スープとパンだけだった。あの頃を少し思い出す。

 今実家に戻っても、沢山のお皿に分けて盛られて出てくるので、このような物ではない。

 懐かしさはあっても、このお皿はあの頃とは違う。とてもボリュームがある見たこともない料理だった。


 「ん~この肉はオーク?」

 「ええ、秋に獲れた物だから、美味しいですね。」

 「うん、うまい。でも肉っていうか、このソースがうまい。この茶色いソースは初めて食べる。」

 「ハヤシソースと言って、焦がした小麦粉にバターを入れて茶色くなるまで炒めて、ブイヨンで伸ばしてトマトと煮込んで作ったソースです。あとは、香辛料とかいろいろ入っていて、たまに食べたくなるの。」

 

 ライラは、周りを見ていた。白い物を掬って茶色いソースと一緒に食べているようだ。

 初めて見る料理、おいしそうには見えないけれど、ララもリリーも美味しそうに食べていた。ライラは思い切って口へ入れた。

 

 ナニコレ…。

 食べたことのない濃厚な美味しさ。

 白い粒粒と滑らかなソース、それに力強い肉の旨味と香辛料の香しさが、一気に押し寄せてきた。

 夢中になって、半分ほど食べた。

 あ…サラダもある。生の野菜なんて食べ慣れないけれど、フーカ様が手ずから作ってくれたのに、残すわけにもいかない。

 一口食べて驚いた。

 チーズだ!

 この白いソースには、チーズが入っている。

 チーズなんて、旦那様が晩酌している時に、偶にひと欠片頂ける高級品だ。

 それをこんな…外で食べる野菜にかけるの?


 信じられない…。


 フーカ様は、どうなっているのよ。

 何度か遊びにいらしたけれど、いつもその衣装に驚かされていた。ネル生地のドレスは、見たことのない色で染められていて、美しい輪郭を描いていた。

 履いている靴も美しく、宝石や金が散りばめられていた。

 成金の品のない華美さではなく、美しさを引き立てる上品な美しい品だった。

 いや、成金だって靴に宝石など付けられないけれど…。


 私とそう変わらない年齢だと思うけれど、手は美しく働かない貴族らしい物だ。

 私は…嫁ぐまでの家の手伝いで、指が少し曲がってしまった。店の者たちよりはましだけど、そんな私とは全然違う美しい指だ。思わず再確認のために手先を見てしまう。

 あんな美しい指なのに…採取をして、料理をするの?

 自分のことも一通り出来るとララは言っていたけれど…。

 いいところの奥様の気まぐれにしては、気合が入りすぎている。

 それとも、実はただの庶民?

 いや、それはあり得ない。

 フーカ様は、大魔導士様なのだ。空間術を使った魔導車を動かし、あっという間にこんな山の中腹に飛んで来られるのだ。

 私には、考えられないほどのお勉強と訓練をなさったはずだ。

 フーカ様のお持ちになるポーションの質は、とてもいいものだと旦那様もおっしゃっていた。

 ララが作ったと持ち帰ったポーションだって、今まで市場に出回っていた物と比べたら、雲泥の差の本物だと感動していた。

 旦那様は、ララがいれば、我が家は安泰とまで言ってくれたのだ。

 男の子を生むまで針のむしろだったのに、娘のララを優秀だと褒められていた。それで、少し気が晴れていた。

 それだって、フーカ様のおかげだ。

 その旦那様が褒めたポーションであっても、フーカ様が薬師と認めるには届かないという。


 教わったのは、フーカ様のお知恵のほんの一部だとララは言っていた。

 それほどの訓練もして、料理なんてするの?

 こうやって見ていると、ロラーナの街にもいる少しいいところの奥様だ。

 気さくで人当たりがいい。

 貴族特有の人を見下すような態度は、なさらない。


 「サナ、お口の周りが大変だわ。」

 「ん~」


 フーカ様が、薄い白い布のようなもので、サナの口元を拭っていた。そんな白い物でこの汚れを拭いてしまっては大変だ。白についた汚れは落ちないのに、勿体ない。


 「どうしました?」

 「いえ、その…白い布で拭いては洗えないと思って…」

 「ああ、これですか?1枚どうぞ。使い捨てるための物ですから、大丈夫ですよ。」


 渡されたのは薄くて軽い柔らかい布だった。


 「これは、紙なの。このまま捨てるのよ。」

 「紙ですか?これが?」

 「ええ、だから気にしないで大丈夫です。」

 「まぁ!」


 やはり、大魔導士様の持ち物だ。

 私のような者には理解できない物をお持ちだ。ライラは、妙な納得をした。


 食事を終えると、片付けを始めた。テーブルなども魔導車へ戻された。

 

 「この辺りの採取は終わったので、少し移動しましょう。」

 「そうですね。」

 

 周囲の杭を外し、皆が乗り込むと車がゆっくりと動いた。先ほどの場所が見える程度の移動をした。それから、また降りて採取をする。


 「お母さま、厠は大丈夫ですか?入っておいた方がいいですよ。」

 「厠なんてどこにあるの?」

 「ここです。」


 我慢していたのを気が付かれてしまった。

 ララについて魔導車へ戻る。私たちの部屋の奥にある小部屋に案内された。

 確かに、天龍の人たちが入っていた気がする。


 「男女一緒なの?嫌だわ。」

 「そんなこと言っても、外よりは絶対にいいから。」

 

 ドアを開けて、ライラは止まった。

 真っ白い椅子しかない。

 厠って言っていたはず…。思わず後ろにいるララを見た。


 「お母さま、その椅子の蓋を開けて用を足してください。終わったら、椅子の横にある紙をちぎってお尻を拭いて、中へ捨てます。椅子の後ろにあるレバーを引けば、中の物は全て水で流れていきます。」

 「え?」


 ライラは、娘の説明の意味が分からなかった。

 蓋を開けて用を足すのは分かった。

 蓋を開けると、真っ白な陶器で、上等な食器に使われている白磁に見える。

 

 「ここにするの?本当に?」



読んでくださりありがとうございます。

リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。