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翌週末、楓花はポーション工房と調合工房を訪ねた。
ポーション工房では、合格できなかった8人が、見習いとして薬草の洗浄などの手伝いをしていた。そうやって作業をしながら、優を作り出す者たちの作業を見て、自分との違いを見つけて改めていく。
見習いとして手伝っている者たちは、午後からの1時間だけ学び舎でのポーション作りが認められていた。そこで毎日1回だけ練習をすることが出来ていた。
見習いたちの作ったポーションを確認し、手順も立ち会って確認してから3人に薬師としての許可を出した。
ケイさんの手配で、作られたポーションが、優以上であるかどうかを見極める事務官が置かれた。
事務官は鑑定レンズを使い鑑定する。
薬師と認められても、基準に満たない製品が1割以上になると、見習いに落とす事になったようで、彼らは必至なようだ。
21日毎に楓花が確認し、見習いから薬師になるチャンスが与えられた。
調合工房では、下級ポーションだけではなく、初級ポーションと中級ポーションを使った3種の薬も作られるようになった。
初級・中級のポーションは、楓花の作った物だ。こちらに卸す薬は、1Lのガラス容器を使う事にしていた。
大瓶に入れて降ろした物を、調合師がポーション用のパック詰めにしたり、各種薬にしたりとしてくれていた。
基剤となるワセリンと消毒用エタノールは、ケイさんが用意してくれている。
楓花が用意するのは、癒し水と初級・中級ポーションだった。
癒し水については、楓花が持っているだけで変わるのだけど、その理由がよくわからない。とにかく、楓花が持っていたらいい事なので、2Lの水容器を箱買いして持っていることにしていた。
敬一郎さんは、ヒシフォート領内8か所と王都、ヒシ家と仲のよい領の領都3か所、合わせて12か所に治療所を設けたらしい。
今までは、王都や領都などでしか治療を受けられなかったので、ヒシフォート領内の8か所は、どこも治療を受けたい人で溢れたようだ。
王都と他領3か所は、治癒士のいる治癒の館が近くにあることで、同じ街に治癒士と治療師がいることになった。患者たちは、それぞれの違いも見比べる事が出来た。競合する部分もあるが、得意範囲が少し異なった事でお互いの良さを感じられるらしい。
楓花としては、最低限の下級ポーションを教えたので、ここからはゆっくりでよい。
楓花は、月曜日と水曜日の退社後は泉の家で過ごし、火曜日と木曜日の退社後は自宅で1日を過ごすルーティーンへと変更した。月曜日は休みの事も多いのでその場合は、イルルジオーネでの滞在日数を増やす事にした。
お盆前の週には、夏休みを取得した。
夏休み3日と有給を2日使うと前後の土日も併せて9連休だ。
イルルジオーネの時間にすると27日だ。かなり長い休みが取れる。
冬が終わって、春を迎えたばかりのイルルジオーネはまだまだ寒い。
天龍の6人と、ララさんと母親、リリーさんとサヤを連れて11人になる。
最初は、ライトフラワーの採取をするとして…。
ん~ララのお母さんをキャビンに入れるのは…不味いかな?
楓花は、外2階の個室2つに2段ベッドを入れる事にした。
そこで、ララさんと母親も過ごしてもらえばいいだろう。
楓花は、アートンへ行き天龍のメンバーを乗せると、それから大都市ロラーナのカリシア商会へ向かった。
お店での待ち合わせにしたのは、ヒシ家からの使いとして、薬を届ける必要があったからだ。
ケイさんに行くから、ついでに預かりますよと申し出たのだ。苦笑いをしていたけれど、どうせ行くのだからと思ってしまう。
「これは、これはフーカ様ようこそお越しくださいました。」
「会頭さん、こんにちは。こちら、ヒシ閣下からの預かり物です。」
「フーカ様がお持ちに!?ありがとうございます。確かに受け取りました。」
楓花は、商品を渡し納品書にサインを貰う。
終えた後は、お店を回り、調味料類や珍しい食べ物を購入した。
「フーカ様、娘と妻がお世話になります。こちらはそのつまらぬものですが、当店人気の品となっております。ぜひお持ちください。」
「ご丁寧にありがとうございます。ありがたくいただきます。」
楓花は、遠慮なくプレゼントを受け取ると、奥から出て来たララとその母に笑いかけた。
「ララさん、ララさんのお母様は…今更ですが、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「これは失礼しました。ライラと申しますの。」
「ライラさんですね。では、改めてよろしくお願いします。今日は申し訳ないのですが、こちらの梯子を上がってもらいます。手をよろしいですか?」
「はい。」
「ララさんも」
「はい。」
楓花は、2人の手首にシールを張り付けた。
梯子を上ったところで、2人に荷物を渡した。
「これどうぞ。それでは、このタイマーが鳴ったら出発します。」
タイマーを渡した楓花は、運転席に戻り、車を走らせた。
ロラーナの門を出ると、楓花は空間移動を使い、先週から通っているライトフラワーの咲いている場所へ移動した。
ライラは、初めて乗る魔導車に興奮していた。
梯子を上った先には、広い場所があった。
広いと言っても外から見たよりはという意味であって、屋敷の部屋とは比べようもなく狭い。
廊下には、細長い棚があり、その前には大きなガラス窓があった。
街並みが見え、カリシア商会本店がしっかりと見えた。路面でここまでの高さから見るのは初めてだった。高いところから見ても、うちの店はやはり一番立派で美しい。
「こちらの部屋を使ってください。」
天龍のルーシーに案内されたのは、奥にある部屋だったが2段ベッドだった。
2段ベッドは、初めて見た。従業員の部屋だって、平置きなのに…。
「私は、2段目でもいいですか?」
娘が上を使うというので、了承した。
「でも、2段ベッドなんて初めてだわ。窮屈ね。」
「そう言っても、もうひとつもこの部屋と同じで、他はもっと狭いよ?」
娘が困った顔で言う。娘についていくと、小部屋の間にあったのは4つの口の開いたスペースだった。中には薄いマットらしきものが敷かれていた。
そこに少年2人が、頭をこちらに向けて転がっていた。
「え?これベッドなの?」
「うん」
少年たちの満面の笑みを見て、なんとも言えない気持ちになった。
確かに、廊下に面したベッドの部屋と小部屋の2段ベッドの選択肢なら、小部屋のほうが遥かにましだった。
小部屋に戻り改めて部屋を見た。
衣装入れは、狭くあまり入りそうもない。トランクを持ってきてよかった。トランクなら、開いて引き出しとして使える。
車が動き出したようで、廊下に見えるガラス窓の向こうには、街中の景色が流れていく。
「メイドもいないようですし、本当にフーカ様はご自分でなさるの?」
「そうよ。お母さま、言ったでしょう?フーカさんは全部自分で出来るの。」
「貴婦人が、そんなの信じられないわ。」
「お母さまはそうおっしゃるけど、フーカさんを見ていたら、全部自分で出来た方がいいと思うの。その方が効率的で、何かあっても生き延びられる。」
ライラは、娘の言葉に驚いてしまう。
メイドを付けて、蝶よ花よと育てたのに、人攫いに会ってからすっかり変わってしまった。
10才を迎えてからは、家庭教師をつけて淑女教育をさせていたので、自己主張も控えめになっていたというのに、母に対しても意見するようになってしまった。
ライラは、今回自分が強引についてきた事は棚上げにして、ララの自由さはフーカ様の影響と考えた。
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