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ポーションの見学に回った者のほとんどは、指導者である楓花の作業を見ていた。
それが終わったので、他の7人の作業を見に行く。
楓花の作業は終わっていたのに、他の7人は作業中だった。
薬研で乾燥した物を砕いている者、水で戻して擦っている者など様々だった。煮詰めている者もいる。
先程の楓花の作業が、あまりにもシンプルだったので、他の者たちが格闘している様子に驚いてしまう。
だが、誰もが真剣に作業をしていた。
ケチをつけた者たちは、薬師として1人前の自負があり、思いあがっている女を正そうとしたに過ぎない。まさか作業を終えているとは思っておらず、そちらへ視線を向けることもなかった。
赤髪の男ファイには、下級ポーションを作り、人を助けてきた自負があった。自分の薬は、ほとんどの症状に効果があり、作って3日も持つのだ。自分は本物なのだ。
ポーションもどきが、多く出回っている事を腹立たしく思ってもいた。
そんな中、ヒシ家から出ているポーションや薬が素晴らしいとの噂を聞いた。そのヒシ家が、薬師ギルドを立ち上げると聞いて、参加を決めたのだ。
効果が補償された薬だけを取り扱うという内容には、同意しかなかった。怪しい薬を売る事のない、そんな当たり前の薬師ギルドに所属したかった。
それなのに、来てみたらヒシ家の大魔導士がポーション作りを教えるという。どう見ても、その大魔導士を名乗る女のための事業だった。
正直がっかりしていた。
なんだ…女に箔をつけるためのギルドか。
しかも、癒し草とリリカだけで作るなどと、嘘を並べている。
こいつが、あの効果のないポーションをばらまいている奴に違いない。
ポーション作りはそこまで簡単ではないし、適当に作れる物でもない。先ほどのポーションの効果は強かったが、あの女が作った証拠などない。いくらでもそう言って、装うことは出来るのだ。
7人の男たちが、3時間かけてぎりぎりに仕上げた。
瓶に入っているポーションの色は、濃い緑色から薄い緑色まで様々だ。
ファイは、出来上がったぞとドヤろうとして、顔を上げて驚いた。
指導者だという女は、椅子に座って本を読んでいた。
「お前、本当に作ったのか?」
「は?はい、作りました。皆さん御覧になっていましたね?」
「はい。俺は作っているのを見ました。」
「私も、最初から出来上がるまで見ていました。その後で皆さんが作るのを見ました。」
「では、出来上がったポーションをこちらの鑑定レンズで確認してください。」
敬一郎が、口を挟む。近くにいる受講生に鑑定レンズを渡した。
受け取った受講生が、出来上がりを読み上げる。
「こちらは、下級ポーション:可です。」
「こちらは、草とベリーの汁です。体力向上の効果あり」
「これは!毒です。」
「これは、下級ポーション:可です。」
「次は…草汁です。体力向上効果があり。」
「おぉっ、下級ポーション:良です。」
受講生からどよめきが起きた。作ったのは赤髪の男性だ。
当然だといわんばかりに胸を張っている。
楓花は、それを見ていた。
態度はいただけないけれど、裏付けのある自信ってことね…。
「あと2つと、大魔導士様の物ですね。」
大魔導士様と言いつつも、どこか嘲笑を含んでいた。
「これは、毒です。」
「これも…下級ポーション:可です。」
受講生たちの視線が、赤髪の男へ集まった。
作っていない受講生たちは、最初から見ていなかったことを悔いた。
下級ポーション:良を作れる腕のある薬師の作業だ。講師の女を優先して見てしまった。下級ポーション:良を作れる薬師は多くない。師事するならこの人だと思い、顔を覚えようとした。
「わかりましたか?俺の腕はまともだ。これ以上の品を作れるのは、本物の大魔導士様だけだろう。」
ファイが、「本物の」とわざわざ念押しした。
7人のうち、初級ポーションは4人しか完成していなかった。
他の3人は、少し治せる程度の薬であり、完成しなかったうちの2人はマイナスの効果しかなかった。
受講生たちは、もうこれ以上の物などないと思った。
しかも、最初から見ていた者たちは、生の癒し草と水、リリカの汁しか使っていないのを見ていた。
やっていたのは、道具を全部煮るという訳の分からない呪い(まじない)だった。
薬研も使わず作っている様は滑稽ですらあった。
「閣下には、大変申し訳ないのですが、この人は道具を煮るという呪いはしたが、薬研も使わずに、奇妙な道具と癒し草と水、リリカしか使っていなかった。」
「ああ、それは俺も見た。」
「ふむ。では、楓花さんが癒し草と水だけで、作っていたことを証明しますね。」
「見ていたから、それは断言します。」
「そうだ!俺も断言できる!」
見ていた全員が、糾弾でもするかのように癒し草と水、リリカの絞り汁しか使っていないと証明した。
「では、教壇の品を見てもらいましょう。この部屋の道具を使い、材料を使ったのは誰もが認めている。さあ、見てみなさい。」
鑑定レンズを手にした受講生は、レンズを覗いて前のめりになった。
「下級ポーション:最高級。」
「なんだって?貸せ。」
「下級ポーション:最高級。日持ち180日ぃぃ!?」
「俺にも見せろ!」
そして、楓花のポーションを鑑定して、驚きの声を出す。
赤髪の男性は、鑑定レンズを奪い取り見る。他の受講生たちもそれを見てから、皆のポーションを見て回った。
鑑定レンズは、見たいと思った物と見る人の知識量により、見える物が異なる。
赤髪の男性が、知識があり日持ちにも興味があるのだろう。
「は?最高級だと?」
「180日も保持期間があるなんておかしいだろう。」
「何か特別な操作をしたのではないのか?」
「いや、作業を見ていたけど、普通に作っていたよ。道具は違うけれど、作り方はおおむね同じだった。」
同時に作業をしていた受講生たちは納得出来ないと口にするが、楓花が作業して出来上がった品であることは、見ていた受講生たちがよくわかっていた。
そして、「やっぱり、師と紹介された人の作業を見ていてよかった。」と思っていた。
なぜなら一番早くに出来上がり、一番作業量が少なく、材料も少なく見えた。
つまり、これを覚えたら、楽にそして材料費を抑えてポーションを作れる。
講習を受け、お礼奉公としての期間が過ぎたら独立し、自分の店を作って利益をがっぽりと得ることもできるってことだ。
下働きから、一気に薬師様と崇められる存在になれる。受講生たちの夢は、膨らむばかりだ。
「納得したか?講習を受ける気がない者は、すぐに立ち去れ。」
敬一郎の声が、冷たく響いた。
2人の受講生が出ていく。
遅れて足の悪い男性が、立ち去ろうとした。それを楓花が呼び止めた。
「ちょっとお待ちください。」
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