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今日も少し長めです。
楓花は、最初の講習のための教材を泉の家で作っていた。
持ち込んだコピー機を使い、中央を綴じて半分に折った。
第1巻から5巻まで、それぞれ約20ページの冊子を各20冊ずつ作った。
これで試して不都合があったら、訂正しようという心積りの試作品だ。
こういう事をしていると、夫の事を思い出してしまう。
こうやって冊子を作ることがあった。自宅で仕事をする時もあったので、それを何度か手伝った事があった。
敬一郎さんのお城のお屋敷の裏手にある森の中、薬師のための宿舎と学び舎が建てられていた。
「お仕事が早いですね。たった3週間です。」
「楓花さん、2か月少々ありましたので…」
敬一郎さんが、耳元で囁いた。
「そうでした。そうだとしても早いですね。」
「領の事業ですからね。」
敬一郎と楓花の様子を屋敷の者たちは、微笑ましく見ていた。
少年期を過ぎたばかりのような敬一郎と落ち着いた楓花が並ぶと、年の離れた姉弟か叔母と甥のようだった。2人とも薄い顔立ちで、よく似ている。
見た目はともかく、年齢が年齢なのだから微笑ましい事もないのだが、あまりにも奥手な主人の春を歓迎していた。
容易された薬師の学び舎は、3階建てだった。各フロアには、騎士の詰め所と教室、作業室、準備室があった。
1階の教室では、敬一郎と楓花が教壇へ立っていた。
敬一郎は、長い挨拶を終えると楓花を紹介した。
「薬師志望のみなさん、こちらが皆さんの師となる大魔導士の楓花様です。」
「皆さま、私は楓花です。皆さんがポーションを作れるようになるよう、お教えしたいと思っています。」
「女?」
「大魔導士だと?」
「フーカなんて大魔導士いたか?」
「聞いたことがない名前だ。」
「それに若くはなさそうだ。」
教室内が、ざわついていた。
「静粛に!」
それを本当に言う人いるのか…。
楓花は、自分事なのに呑気に、敬一郎の言葉を聞いていた。
楓花は深呼吸をして、次の言葉を発した。
「皆さま、ポーション作りの前に基礎の基礎である衛生について、これから1週間をかけて学んでいただきます。」
「は?ポーションのレシピじゃないのか?」
「本当に女なんかに、ポーションが作れるのか?」
「作れないから変なことを教えるのでは?」
ざわつきが収まらない。
言葉もなかなかのものだ。
楓花は、下級ポーションを取り出した。
「こちらが、私の作ったポーションです。怪我のある方はいますか?お返事は、はいでお願いします。」
「はい!私は、足を怪我しまして、歩くときに足を引きずります。」
楓花は、首を傾げた。
それは、下級ポーションで治せるものではない。
「あなた達、下級ポーションでそれが治ると思いますか?」
敬一郎の怒りを含んだ声が響いた。
楓花が困ったように答える。
「下級ポーションでは、難しいと思います。」
「エリクサーでもあれば治るのでは?」
クスクスと悪意のある騒めきが起こった。
「ふむ…」
敬一郎が、冷たい視線を投げかけ騒めきが収まった。
楓花が声を大きくした。
「失礼。申しわけないですが…下級ポーションで、治る程度の怪我の方いらっしゃいますか?」
「フーカ様、私でもよろしいでしょうか?」
警備担当の騎士が、手を挙げた。
彼は上着を脱ぐと、腕に巻いた包帯を取る。
かなりざっくりと切れていた。
「これは痛そうですね。なぜ治療をしていないの?」
「この程度ですので…」
薬なら十分にあるはずだ。つまり…これは、念のための仕込みなのだろう。怪我をしたのを、あえて治療をせずにいたようだ。敬一郎さんは、こういう事態を見越していた?
「では、こちらを傷に掛けて、半分は飲んでください。」
「はい!ありがとうございます。」
皆が騎士の周りに集まってきた。
傷口に薬を掛けると、早くはないけれど、目に見えるスピードで傷口が塞がっていく。
「え…効いている。」
「下級ポーションってこんなに効果があるのか?」
「これは、下級ポーションの効果ではないだろ。」
「最近、噂になっている初級ポーションか、初級のなんとか薬ではないのか?」
「このポーションの材料はなんですか?」
「それは、これから…」
「ケイさん、大丈夫です。」
敬一郎が講習生たちを窘めようとしたので、楓花が止めた。
「こちらの材料は、癒し草と清水にリリカのみです。配合や作り方はまだお教えできません。」
「はぁ?嘘だ!それだけで作れるはずがない。」
「俺が作る下級ポーションはヒールベリーを使う!」
「オレは癒し草と露草を使う。」
「薬師によって違いがあるが、癒し草と別の薬草や特別な果物が必要だ。それを癒し草に、どこにでもあるリリカだけで作れるなどと、嘘を…」
嘘つき呼ばわりも本当に失礼だ。
楓花は、教える前からこれでは、やる気が出ない。
もう帰ってもらいたいくらいだ。
「わかりました。では、皆さんお隣に作業室があります。腕に自信のある方は、そちらで作って見せてください。十分な品質であれば、この講義を受ける必要はありません。新規で立ち上げる癒しの薬師ギルドへの登録が出来るよう、閣下に進言しましょう。」
「いいだろう。認めさせてやる。」
「では、出来上がった物を鑑定レンズで鑑定してもらいます。私も、一緒に作ります。出来上がった品質が私以上であれば、私の講義を聞く必要はありません。そのままギルドへ登録できるでしょう。」
「言ったな。その言葉必ず実行してもらう。」
「お好きな作業台を使ってください。作れない方は、皆さんの作業を見るとよろしいでしょう。お時間はどのくらい必要ですか?」
「3時間だ!それで完成しなくても泣かないでくれよ。」
受講予定者の言葉に、楓花が頷いた。
敬一郎は、薬草を数種類運ばせ、水も数種類用意していた。
楓花は、手動式のチョッパーと鍋を2個、布と漏斗にお玉、トングと瓶を5本持ってくる。
薬草は、フレッシュな癒し草とリリカを選び、ビーカーに清水を汲む。鍋には井戸水を汲んだ。
「準備は出来ましたか?一度持ってきた物を見ましょう。材料の確認です。皆さん覚えていてくださいね。」
突っかかってきた赤髪の男は、乾燥させた癒し草とヒールベリーを皿に山盛り。それに清水と鍋、薬研だ。
別の茶髪の男は、乾燥させた癒し草を皿に山盛りと乾燥させた露草を皿に小盛りにしてあった。それに井戸水に鍋、薬研だ。
他に5人の男たちも作成に入ったけれど、皆乾燥させた癒し草や露草を大量に用意していた。使うのも鍋と薬研だ。
作業開始になると、楓花は鍋に井戸水を沸かし始めた。
講習生たちは、すぐに薬研に材料を入れて潰し始めた。
楓花は、沸騰した湯にチョッパーを入れて煮沸消毒を始めた。煮ている間に薬草を洗う。
10分煮てからトングで湯を切るようにして取り出した。それを自然冷却させている間に薬瓶を煮る。
自然冷却したチョッパー容器に、薬草を入れてチョッパーで砕く。入れた癒し草は25本ほどだ。
そこに清水を入れてよくかき混ぜた。
その間に薬瓶を取り出し、横向きに置いて自然冷却させる。
鍋の湯に漏斗と布、お玉を入れて煮込む。
もう1つの鍋に、チョッパーの中身を移して煮た。
沸騰して10分ほどで火から下ろし、漏斗に布をかけた。鍋の湯を捨て漏斗を手に持つと、もうひとつの鍋の中身を漏斗の中へいれていく。
濾した汁を再度煮込む。沸騰直前でリリカの絞り汁を加えた。
お玉で混ぜていると色が変わった。
楓花はすぐに鍋を火から下ろした。瓶に漏斗の口を入れてお玉で掬った汁を入れ、瓶に蓋をした。
5本を作り終えたので、道具を洗い座って待つ。
まだ1時間しか経っていないので、本を開いて読み始めた。
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