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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第8章 ギルド

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9


 楓花は、仕事を終えるとすぐに泉の家へ向かった。


 「おかえりなさいませ。ご主人様。」


 エルの出迎えにいつもなら癒されるのだが、今日ばかりは気が付いた事の重大さに顔色が悪い。


 「エル、ただいま。」

 「ご主人様、何かございましたか?お体が優れないのであれば、ご予定よりゆっくりお休みになられたほうが…。」

 「残念だけど…そんな時間は無さそうよ。」

 「ご主人様、お風呂のご用意をしましょうか?」

 「ううん、シャワーを浴びたらすぐに寝る。起きて翻訳しないといけないのよ。」

 「翻訳でございますか?」

 「ええ」

 「それは、パソコンなる魔導具で書いている物を、この国の言語にするということで合っていますか?」

 「ええ、合っているわ。100ページ分を急ぐ必要があるの。」

 「それでしたら、私にお任せください。」

 「エルに?」

 「はい、ご主人様。私は、大和言葉は読めます。文字の翻訳であれば大丈夫です。絵の自信はありませんが…。」

 「文字だけで大丈夫なの。絵は貼り付ければいいよ。それなら、次に来る時に印刷してくるから、それを翻訳してくれる?」

 「はい、お任せください。」

 「よかった。それなら安心だわ。」


 楓花は、安心出来ると眠くなってきてしまった。

 急いでシャワーを浴びて、ベッドへ横になった。


 泉の家で、続きの入力を行い。

 朝の7時に着くように大和の家へ帰った。


 楓花は、パソコンを立ち上げると、書き上げた物の100ページまでをプリンターで片面印刷した。

 それとは別に、薄い線を入れた用紙も印刷する。

 清書用の用紙だ。そちらは200枚用意した。

 書き直しできるように、シャープペンシルと消しゴムと替え芯も用意する。

 

 これで、エルが清書できるなら最高に良い。

 冷静になると、急いでやらなくてもいいかと思い当たった。

 

 講習に来た人たちには、閉じるためのファイルとコピーを渡して、書き込んでもらえばいいのだ。

 コピーか…家のプリンターでは、きれいな印刷にはならない。

 出来れば業務用のプリンターが欲しいけれど、それは厳しい要望だろうか?

 ケイさんに相談しても良い?

 薬師が育てば、ケイさんの利益になるからどうにかなる?

 輪転機や帳合機までは求めないから、コピー機が欲しい。

 ダメ元で交渉してみよう

 

 でも…エルっていつも完璧なのよね。教えた事は一度で出来るようになる。一度に100枚渡したら、休まずに翻訳しそうだ。

 ずっと実態でいていいのかもわからない。消えてしまうほどの頑張りはないと信じたい。そこまででなくても、無理はして欲しくない。

 どちらにしても、あと2週間ある。1日で5枚翻訳してくれても、少し間に合わないけれど、1冊だけ出来ていれば、少し戻って来て続きの翻訳が終わり次第で作ればいい。

 1回に20枚渡していれば、十分だろう。それで様子を見て、渡す頻度を考えよう。

 

 「エル、これの翻訳をお願いね。次に来るまでに半分くらい進んでいたらうれしい。」

 「かしこまりました。お預かりします。」

 「それと、これが翻訳を書くための紙とシャープペンシル。消すための消しゴムはこれね。紙は、これを使って欲しいの。」

 「かしこまりました。」


 楓花は、エルに依頼をすると安心して打ち込みをしていた。

夢中になっていたがふと白い物が視界の端に映った。顔を上げるとエルが来ていた。


 「ご主人様、そろそろ休憩を取りませんか?」

 「そうね。ありがとう。」

 

 エルと一緒にコーヒーを飲み、ケーキを食べた。

 ここのところ、毎日ケーキを食べている。あまり動いていないけれど、不思議と太る気配がない。


 「ご主人様、こちらを翻訳してみました。」

 「確認しても?」

 「はい、お願いします。」

 

 エルの文字は、しっかりと整っていて読みやすい。

 しかも、絵を入れる隙間を作りつつ、文字のバランスも悪くならないように考えてくれていた。これなら、挿絵をそのまま貼り付けても良さそうだ。

 それにしても早い。この1時間で1枚出来るなら、毎日5枚以上は出来上がりそうだ。

 

 「いいわね。ありがとう。この感じで進めてくれると嬉しい。」

 「はい!ありがとうございます。このまま進めさせてもらいます。」


 楓花は、エルが下がるとパソコンで続きを入力していった。

 


 

 金曜日は、仕事を終えると車庫の中で、タイヤを交換してからヒシフォートへ向かった。真珠宮を訪ねて、敬一郎と薬師講習会の相談をする。


 「コピー機ですか?」

 「はい、難しいでしょうか?あちらで手に入れたいのですが、無理であれば家庭用プリンターでコピーします。」

 「いえ、無理ということはありませんが、楓花さんのご自宅に届く手配で、よろしいですか?」

 「はい、そうしていただけると助かります。」

 「わかりました。では、手配に1週間ほどかかると思います。」

 「はい、それは大丈夫です。」

 「あとは…紙ファイルですが、ファイルはやりすぎですので、綴り紐と厚紙か板の手配をしましょう。」

 「わかりました。」


 コピー機の相談は、終わった。問題は次だ。

 楓花は敬一郎の様子を伺いながら、話し始めた。


 「あと…お願いというか…ご相談がありまして…。」

 「なんでしょうか?」

 「この金の魔石をあちらで、現金化することはできませんか?」

 「なるほど…いろいろと物入りですし、そうですか…。」

 「何かルートをお持ちでしたら…無理はしなくても…」

 「それであれば、純金のアクセサリーをご用意します。頻繁に売ると目立ちますから、お気をつけて。」

 「わかりました。」

 「それと…そうですね、薬師養成講座の報酬については、紙幣でお支払いします。」


 紙幣?

 この世界に紙幣は存在しないようだ。つまり大和のお金ということだろう。楓花は、頬を緩めた。


 「いいのですか?そうして頂けると助かります。」

 「相談してくれて良かったです。それにしても…最近何かありましたか?」

 「え?特には…どうかしましたか?」

 「いえ、楓花さんが明るくて安心しました。」

 「そうですか?」

 「はい、今日のドレスもよくお似合いです。」

 「ありがとうございます。ピンク色って、少し恥ずかしいですけどね。」

 


 敬一郎は、楓花の姿に目を奪われていた。

 くすんだサーモンピンクのドレスは、冬用の厚みのある布地で作られていた。差し色としてグレーの腰布が使われている。上から羽織るボレロもグレーであり、人形のようなラインを描いていた。

 楓花の白い肌と黒く長い髪によく映えていた。

 大和では一回りの年齢差があるというのに、それは全く感じない。

 単に自分の方が、精神的には年月を過ごしているけれど、それだけでは説明がつかない感覚があった。


 「よくお似合いです。」


 敬一郎が、楓花を見つめている。

 その後ろでは、ギルバートと他の使用人たちが、二人を見守っていた。



読んでくださりありがとうございます。

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