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「それでは、お先に失礼します。」
「橘さん、お疲れ様、よい週末を。」
「ありがとうございます。皆様もよい週末を。」
楓花は、正社員より30分早く定時になる。挨拶をして、職場を出ると家へ向かった。
家へ到着すると、お風呂に入る。
濡れた髪をタオルで巻いて、服に着替えた。
昨日収穫した野菜を冷蔵庫から取り出し、袋に入れた。
それをキャンピングカーの冷蔵庫に入れて運転席へ移動した。
庭側のシャッターを開け、走らせればあっという間にイルルジオーネの野原に出る。
とりあえず、いつも通りに虹湖に行こう。
楓花は、その日に限って間違えて押したことのなかったボタンを押した。
『かしこまりました。〇×▽へ空間移動します。』
「へ?」
次の瞬間、楓花は見知らぬ森の中にいた。
森の中だけど、整備されているし車が停まっている場所は、広場になっていた。
「ナビ、ガード10m」
『周囲500mはガード内のため不要です。』
「え?」
楓花は、改めて周囲を見回した。
少し離れたところに家が建っていた。
まだ星空の輝く空を見ると、周囲にはうっすら輝いている膜が見えた。
なるほどガードだ。それなのに私は中に入っているの?
寝静まっている時間なのだろう。
家から少し離れた場所に車を停めさせてもらう。
人のガード内というのも申し訳ないけれど、私はもう眠いし動きたくない。
大和時間で17時32分だけど、イルルジオーネ時間で朝の1時30頃だ。
大和にいても眠いけれど、お風呂に入って寝る気になっているから、もうダメ…。
とりあえず車に鍵をかけて、1階のベッドに横になった。
目が覚めて、いつもと違う場所にいると思い出した。
見知らぬ場所に戸惑う。
でも、空間移動のボタンを押したのだから、登録している場所だと気が付いた。
人様の土地だとしても、登録しているならいてもいい場所?
それに、ガードが300mの範囲で展開されているなら、もしかして…この車と同じ?
「ナビ、ここはどこ?」
『魔の森にある泉の家です。』
「泉の家?」
そういえば、鍵がいくつかあったような…。
楓花は、3階の主寝室に入ると引き出しを開けた。
どこだったかな?
でも、この引き出しのどこかに鍵はあったはず。
楓花は、石の中に鍵を見つけ、それを取り出そうとしたはずみで紫色の石に触れ意識を飛ばした。
「う~ん…また?一度どこかで検査を受けた方がいいかもね…。」
40才にもなれば、どこかが弱ってきていても不思議ではない。
目覚めた楓花は、職場の健康診断ではなく人間ドックでも受けようかと思い始めた。
ふとベッドを見ると、ベッドに金色の光が舞っていた。
え?なんの光?
『癒しの光:ベッドに寝ると6時間で完全回復できる。多少の病は治す。』
「え?」
今まで、物については意識して鑑定することはできたけど、この光は何?
急に見えて戸惑うけれど、そう気にすることもなかった。見えたからといっても不便はなかったのだ。
実際のところ、楓花にかかる情報量は何も知らない頃の3倍ほどになっていた。
普通ならば、情報処理が追い付かずにパンクしてしまう。しかし、今までに触れた石の中から受け取った能力で情報処理能力は10倍ほどになっていた。楓花はそんなことを知らないので、最近衰えつつあった暗算能力が復活したくらいにしか思っていなかった。
改めて、見つけた鍵を並べた。鍵は3つある。
どれが泉の家の鍵?
『泉の家の鍵』
『%“#”!』
『&‘&$%$“』
文字化け?
とりあえずこれが泉の家の鍵ね。
楓花は、斜め掛けバックと剣を携えマントを着て車を降りた。
キャンピングカーは念のためにバックに収納した。
家へ向かって歩くけれど人が出てくる気配はない。
家の周辺も散策する。家の前には広場のようなスペースがあったが、その周辺には針葉樹の林があり、その奥は鬱蒼としていた。
「見通しは悪くないのね。」
家の裏手を進むと、畑がありその奥に開けた場所があり泉があった。
小さいけれど、結構深そう。
忍野八海のような透明な青さをしていた。
ここもガード内のようだ。
もしかして300mって家を中心に300m?そうじゃないとこの広さの説明ができない。
泉からは2本の川が出ていた。1本は森の中へ入っていて、もう1本は林沿いに迂回していた。その途中に小さな小屋がある。小屋の大きさは2㎥ほどだ。
「この小屋何?」
『水上げ小屋:家へ水を送る装置。』
「へぇ…ここから家に引き込んでいるのね。」
周辺を確認し、家の玄関に立った。
ベルがあるので鳴らしてみるが、反応はない。
楓花は、ポケットに入れていた鍵を手に鍵穴へと入れた。
カチャリと開く音が響く。
そっとドアを開けた。
『おかえりなさいませ。ご主人様。』
「え?」
『鍵をお持ちの方は、ご主人様です。おかえりなさい。』
「ただいま?」
反射的に挨拶をして家に入るけれど、声の主はいない。
頭に響くような声だった。
「どこにいるの?姿を見せて欲しいのですが…。」
「かしこまりました。ご主人様がご希望のため姿を作ります。」
「ご主人様?貴方は誰?」
「聖なる泉の家の妖精です。」
妖精なんているの?いやでも、本人そう言っているし…返事をするとふわりと空気が動き、メイド服を着た三角長耳の娘が姿を現した。
「かわいい!」
『えっ…』
思わず楓花は声を上げた。
メイドは、顔を真っ赤にしてもじもじとし始めた。
『この姿はお嫌ではありませんか?』
「かわいくて好きよ。どうして?」
『いえ、お好みであればよかったです。』
「この家は何?」
『こちらは、泉の家でございます。裏にある聖なる泉の水は、聖水です。』
「聖水?聖水なんてあるの?」
『聖水が沸く場所は、この世界には2か所しかございません。こちら以外は、聖教会本部のみとなります。』
「へぇ…」
それって、ちょっと怖いよね?
聖教会って初めて聞いたけれど、宗教関係は面倒なイメージしかない。
だって、信じるものが違うだけで戦争が起きる。おそらく宗教を起こした人は、正しい行いをして争いを減らしたかったのではないかと思うけれど、残念ながらそうはなっていない。
『万能ポーションの材料でもあります。汚れないように結界で守られています。』
「なるほど、それならあなたは泉の家の妖精であり、聖なる泉の管理人かしら?」
『御冗談がお上手です。ご主人様が聖なる泉の管理人ではありませんか。』
「ええ?それって何をしたらいいの?」
『結界の保持です。』
「私、魔法は使えないわよ?」
『結界はすでに展開されています。このままでも100年は保ちます。』
「ああ、そう…それならよかったわ。」
『ご主人様、ご主人様お持ちの魔石の中に透明な物はありませんか?』
「魔石?ちょっと待って…」
確かホワイトジャイアントの魔石は透明だった。
その1つを取り出した。
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