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「それでは、お先に失礼します。」
「橘さん、お疲れ様、また明日よろしく。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
橘楓花は、いつも定時で帰る。
正社員よりも30分ほど定時が早い。
職場を出るとそのまま家へ帰った。
自宅までは、車で30分だ。通勤に使っている赤い軽ワゴン車は、結婚してすぐに購入した物だ。
家へ到着すると、車を一番端に停める。朝、車に置いておいた大きなボールを手にそのまま、車を降りて庭へ行く。
畑になっていて、5月に植えたミニトマトやきゅうり、ナスなどがものすごい勢いで育っていた。
1人には多すぎる量の実を楓花は慣れた手つきで収穫していく。
ベビーリーフの種は、そのまま大きく育っており、ベビーではなく立派なレタスになっていた。
リーフレタスやロメインレタスなど、食べごろサイズに育ったものを収穫していく。芯を残しているので、だんだん上へと伸びていた。
カボチャはそのまま地面に転がして育てているが、ズッキーニはネットに結び付け持ち上げて育てていた。その方が色むらなく育つ。
ピーマンは大量にできているので、それらも収穫していく。
ボールが収穫物でいっぱいになったら、車に戻って通勤バックを取り出し、家へと入る。
玄関で靴下を脱ぎ、裸足で歩いてキッチンへ向かうと、ボールを置いた。それからそのままバスルームへ向かい浴槽にお湯を貯めつつ、その間に身体を洗う。
ジッパー袋に入れたスマホを持って浴槽につかり、ネットニュースを読む。
お風呂から出て、髪を乾かしてからキッチンに立つ。
職場に持っていったお弁当箱を洗った。
玉葱をフードプロセッサーにかけてみじん切りにし、ボールへ取り出す。そこにオーク肉を入れてミンチにした。
ボールの中に玉葱とオーク肉を入れ、塩コショウをしてワインを入れる。卵とパン粉も入れて良くこねる。しっかりと捏ねたら、収穫したばかりのピーマンをよく洗ってから半分に切っていく。
今日収穫した7つのピーマンを半分にすると、茶こしに小麦粉を入れてピーマンの内側に振り、種は取らずに今捏ねた肉種を詰めた。種は食べても問題ないし、肉詰めなら取らなくても美味しく食べられる。
肉の表面にパン粉をつけて、容器に入れてから冷蔵庫に入れた。
次に残った肉種を丸めて楕円形にし、中心を押してミニハンバーグを作っていく。表面をフライパンで焼いていき、表面が固まったら、冷ましてからラップで包んだ。それを袋に入れると冷凍庫に入れた。
今週と来週のお弁当4回分のおかずになる。残りを大き目に焼いてそれもラップで包んで冷凍庫に入れた。
生肉に使った道具を肉用のスポンジで洗い、一度リセットする。
手をよく洗ってから、レタス類を洗った。
一度に食べきれないので、キッチンペーパーで包む。4枚ほどを残して冷蔵庫へ入れる。
きゅうりをよく洗い、斜めに切り分けてから袋に入れて、塩をたっぷりとまぶしてから、空気を抜いた。それを汁が出てもいいように、器に入れて冷蔵庫に入れた。
それから、ナスをよく洗ってからそのままロースターで焼く。その間にミニトマトのヘタを取ってよく洗った。
ナスが、焦げ気味に焼けた。氷水につけながら、皮を剥いた。それを食べやすく切りしょうゆをかけて鰹節をトッピングした。
ミニトマトのうちよく熟していた5粒を夕食用に小鉢に入れた。
フライパンを取り出し、オークの脂身を1欠片焼いて脂を出してから、冷蔵庫に入れたピーマンの肉詰めの半分を肉の側から焼き始めた。
じゅわーっといい音がしている。
フライパンに蓋をして、冷凍庫からごはんを取り出して電子レンジに掛けた。
フライ返しで肉詰めをひっくり返していく。
また蓋をして、2分ほど待つ。
その間に、きゅうりを袋から取り出し、残りは空気を抜いて冷蔵庫へ戻した。
ダイニングテーブルにランチョンマットを敷き、小皿を並べていく。
大皿にレタスをちぎったものを乗せて、焼きあがったピーマンの肉詰めを乗せた。
ごはんをお茶碗に移し、箸置きと箸をセットする。
汁物までは作らなかったので、お茶を淹れた。
「いただきます。」
畑があると収穫物があるから、食卓が華やかになるね…。
ピーマンの肉詰めとレタスの乗った大皿と小鉢にミニトマト、きゅうりの漬物、焼きナスがある。それにごはんとお茶。1人のご飯としては十分な品数だろう。
明日の朝、もう一度ピーマンの肉詰めを焼いてお弁当にほぼ同じ物を詰めるけれど、食べるのは自分だから構わない。朝ごはんに納豆を食べれば、続いた感じもないし平気だ。
「今日も美味しそうですね。」
「今の家、小さな畑があるから野菜を買わなくて済むので…」
「そういえば、引っ越したって言っていましたね。」
「はい、岡野宮です。」
「いいですね。最近、開発が進んできたから住みやすそう。」
「そうですね。スーパーも近いので助かっています。」
昼休憩は、正社員に交じってお弁当を食べていた。
お弁当を覗かれるのもいつもの事だった。
楓花は、見られてもあまり気にしない、遠慮することもない。
「楓花さん、お菓子どうぞ。母の手づくりです。」
「木原さん、お母さんプロでしょう。お店の品ですか?」
「そうですけど、失敗作らしいです。形が悪いの。」
「ありがとうございます。どこが失敗かわからないですよ。うれしい。」
木原さんは若いけれど、しっかりとした研究者だった。形が悪いというけれど、細長い棒状でこういうものだと言われればそう思える物だ。
表面を覆っているパラフィン紙を外し、口に入れると芳醇なチーズの風味はプロセスチーズやクリームチーズだけではなく、ブリーチーズとブルーチーズが少し入っているようだ。癖が強いけれど、ほのかな柑橘の香りがそれらを良いものへと引き上げていた。
「え…なにこれ濃厚…チーズと…レモンじゃないですね。ほんのりゆず?」
「そうです!楓花さんよく気が付きましたね。私なんて、レモンって言って怒られました。」
気安い会話をして、職場のポットのお湯でコーヒーを淹れる。
コーヒーをお供に、お菓子を味わった。
「最近、いい事ありましたか?」
「いい事ですか?あったかも…」
「何々?どんな事?」
「可愛いい子と会ったの、知り合いのお家にいて、遊びに行くと駆け寄ってきてくれるの。」
「あ~、そっちでしたか。楓花さんとろけていますね。」
「はい、だってかわいいのよ。」
「ほら、だから違うって言ったじゃない。」
目の前の同僚2人が、突きあっていた。
「なに?」
「だって、てっきりいい人が出来たかと思って…。」
「残念ですけど、そういう人はいませんよ。そんな気にもならないし、今更面倒でもあるし…」
「そうですか?」
「そうですよ。男の人って男女平等って言いながら、全然平等じゃないもの。家の事は出来ないとか言って、まともにしてくれないし…」
「それはあるかも、うちの旦那なんて…」
そこからは、旦那の愚痴大会になり、男性陣はそそくさと休憩室から逃げて行ったようだ。
楓花は、夫が亡くなって悲しい。だが、それとは別に不満はたくさんあった。多分夫にもあったと思うけれど、それはそれ、これはこれだ。亡くなったからといって不満が消えてなくなるわけじゃない。
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