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楓花は、接遇のプロであるギルバートに茶を淹れることに少々緊張していたのだが、ギルバートは気が付いていなかった。
「これは、素晴らしいお茶でございます。」
「お口に合って良かったわ。よかったらこちらもどうぞ。」
旦那様とフーカ様の間にある皿と同じ物が、リハルドとの間に置かれている。
野営であるので、皿の共有は当然ではある。
「では、失礼して。」
先日のクッキーより、かなり大きいクッキーだった。黒い粒が入っていて、美しくはないのだが、サクサクとしてところどころに濃厚なおいしさがある。なるほど、この黒い粒の味か。これは素晴らしい。
「これは大変おいしゅうございます。このサクサクとした食感がまず素晴らしいのですが、この口に広がる甘味と油、それからこの黒い粒と…」
ギルバートは思いつく限りの言葉を尽くしてこのおいしさを表現しようとするが、出来ていない気がしていた。
「楓花さん、ここで採取をしていたらホワイトジャイアントが来たのですね?」
旦那様がフーカ様へ問いかけられたので、ギルバートは口を閉じお茶の味を堪能することにした。ギルバートが熱弁している間に、皿のクッキーが4枚から1枚になっていた。
リハルドは、しっかりと半分食べてしまっていた。
ギルバートは、残った1枚を味わって食べた。
「はい、1日目に見た時にはあまりにも大きくて…ブラックベアーとは比べ物にならなくて焦りました。そういえば…ここはブラックベアーが出るから、通常なら護衛依頼では進められないと天龍の皆さんから言われていました。私だから案内できると…。」
「そうですね。通常はブラックベアーが出る場所であると思っていました。」
この山はブラックベアーが多く住んでいるため、ブラックベアーの毛皮が欲しい者が来る場所だった。
ギルバートも若かりし頃は、ここで獣狩りの訓練を受けた。
騎士団にとっても、ここはそういった訓練を兼ねた狩場であった。
先日は、野角ウサギが大量発生し150羽を超える集団を結成していたと報告があがっている。
「この山にホワイトジャイアントが住み着いたから、山裾でのブラックベアーの目撃報告が増え、野原の野角ウサギが増えたということはありませんか?」
リハルドの言葉に、旦那様が頷いた。
「それは、ありそうだな。時折大量繁殖することがあるとはいえ…ブラックベアーもオークもウサギも同時というのは考えにくい。生息地を追われてと考えた方が自然だろう。」
「それなら、ホワイトジャイアントは、どうしてここに来たのかしらね?ホワイトジャイアントが増えたのか、それとも彼らが逃げ出すほどの何かに生息地を奪われたのか?」
「いやいや、あの巨体のホワイトジャイアントですよ。あれを追い出すほどとなると龍でもでなければ逃げ出すこともないでしょう。さすがに考えすぎですね。」
「そうです。さすがにありません。龍などは物語の話ですよ。」
旦那様とリハルドが笑いながら否定なさった。
当然だ。
龍は古い御伽噺に出てくる空想の怪物だった。
そのような物がいたという物証などないのだ。
「ガードに何かが来ましたね。落ち着いて戦闘準備をなさってください。」
フーカ様の言葉に、休憩を終わらせ戦闘準備をする。
少々ゆっくりしすぎた。
そこから狩りが始まった。
最初に来たのは、通常のオークよりも大きなビックオークだった。
オークと異なりピンク色をしている。
その後、ツリーホーンという大鹿が来たので、狩っているとホワイトジャイアントがやってきた。体長5mほどで通常よりも1回り大きい。
フーカ様は、旦那様とリハルドたち騎士が戦っている最中、のんびりと露草の採取をなさっていたが、ホワイトジャイアントが来ると車へ戻られた。
それを見て安心し、リハルドと騎士3名が立ち向かったが、厳しいので助太刀に入った。
反対側にもホワイトジャイアントが来て、旦那様と天龍が向かった。
2体が、守護壁を叩き続けている。
このままでは、破られるのも時間の問題だ。
だが、残っている者のバランスが良くない。
ルーシーはアイスジャベリンを使えるというので、攻撃手段はある。
だが、ここにいる騎士たちは皆剣士だった。フーカ様を守ることを前提にしたため、このような配置だったが、これはよくなかったようだ。
旦那様は魔術も使えるが、どちらかといえば剣士寄りだ。しかも、人数の少ない天龍側にいる。
ギルバートも魔術を使えるが、小さなナイフに魔力を纏わせ、数m飛ばせる程度だ。それでも、攻撃手段はそれしかないため、膝回りを狙いナイフを刺していく。
足元にしか攻撃を出来ず、まともな攻撃を出来ずにいるとホワイトジャイアントが、目を覆った。それにより頭部が下がってくるが、手は届かない。
目をよく見ると、矢が刺さっていた。
そこから続けざまに矢が目や耳へと刺さっていく。
ホワイトジャイアントの足元が、覚束なくなり倒れたので、一斉に攻撃を仕掛けた。
リハルドが、ホワイトジャイアントの首を落とすまで、十数分長い闘いだった。
沈黙したホワイトジャイアントは、体中が傷つきあちこちから血を流していた。
守護壁が光ると拡張し、さらに大きくなった。
「皆さんお怪我はありませんか?」
「はい、守護壁のおかげで無傷です。」
「それは良かったわ。天龍も終わっているから…」
旦那様がやってきた。
リハルドたちは、誇らしそうに旦那様へ報告をしていた。
そして、天龍の倒したホワイトジャイアントを見て、その差に愕然とした。
頭部と片足は切り落とされているが、それ以外の傷はなかった。
切り落とした側の足はめった刺しであるし、頭部も傷だらけだ。だが、それ以外の傷が少ない。
「美しい狩りだ…」
「ははっ…俺たちは、毛皮を売って生活しているようなものですから…。」
「なるほど、やはり貴殿たちには力がある。」
リハルドは、天龍を称えていた。
そこにホワイトジャイアントが、もう1頭やってきた。
少し小さめのそれに矢が刺さった。
そうだ。誰がこの矢を…これがなければ今も苦戦していただろう。
矢を放ったのは、フーカ様だった。
普段の柔和な表情ではなく、目を見開きしっかりと見据え、連続で矢を放つ姿に思わず魅入ってしまう。矢を構える形は、見たことのないものだった。
矢を受けてよろめいたホワイトジャイアントに、アイスジャベリンが撃ち込まれた。
そこにアーサーが飛び上がり首元へ剣を刺した。倒れたホワイトジャイアントに大剣を構えたケントが振 り下ろし、首を落とした。
鮮やかな連携に目を奪われた。
これは…そう簡単に真似できるようなものではない。
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