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天龍が狩っている獣は見慣れない大きさで、私たちの腰の辺りまでの背丈があった。ウサギらしいけれど、角うさぎとは違う品種らしく、お腹に丸い甲羅のような物がついていた。
「ルーシーさん、あの大きなウサギお腹に甲羅のようなものがありますね。」
「ああ、あれは凸甲羅と言って薬になるのよ。」
「あれが凸甲羅なの!?欲しいです!」
「うん、そう言うと思った。ちゃんと回収しているから安心して。」
「わぁ…楽しみですねぇ…お肉は食べられますか?」
「もちろん。角うさぎよりも脂がのっていておいしいのよ。特に今の季節は最高に美味しくなっているわ。」
「まぁ!それは楽しみですね。あれはなんていう生き物なの?」
「木の実ウサギよ。」
「木の実ウサギですか…」
「森の恵みが大好きなのよね。今の時期は本当に肥えていて、食べるのが楽しみだわ。」
いつも角ウサギの肉を入れているバケツは、空にしてある。それを木の実ウサギ用に使ってもらうことにした。
採取に飽きた楓花は車へ戻り、後ろのドアを開けてバーベキュー台を下した。
それを見て、リリーさんとサナもやってくる。
そもそもサナは飽きていて、採取中も楓花の背中へとよじ登ったりしていたくらいだった。
「ごはん?」
「そうよ。お昼に軽く食べましょう。」
「それなら、あれたべたい!」
ケントたちが、バケツを持って帰ってきた。
サナはそれを指していた。
「あれ?」
「うん」
「いいけど…」
チャレンジャーというか、遠目で捌いているのを見ていただろうに、怖くないのだろうか?
「楓花さん、肝がすごくうまそうだ!」
ケントさんが笑顔で言ってくるということは、食べたいのだろう。
うん、今日のお昼はウサギのレバーとお肉ね。
どうやって食べようか。
炭火焼にしようかな?
薪が沢山あるのはわかっているけれど、炭で焼くとまた違って美味しくなる。
バーベキュー台に網を乗せ、火を熾した。
鮮度がいいお肉とレバーなら、素材の味を楽しんだほうがいいだろう。
お野菜は何がいいかな?
日本は6月下旬で温かくなり始めている。
夏野菜のピーマンやナスが、美味しそうな色合いになっていたので買ってある。
生椎茸も持ってきていた。
でも、ナスなら脂を吸った方が美味しいし、ウサギ肉もパッと見た感じは、鶏もも肉に似ていた。皮はないけれどさしがはいっているので、脂は強そうだ。
鉄板かフライパンの方がいいだろうか?う~ん…悩む…。
フライパンを出そう。
ナスはフライパンで、ウサギ肉と焼くことにしよう。
そう思って、肝を見て驚いた。
白っぽい…脂肪肝?
触った感じも柔らかい。
フォアグラ状態なのだ。
う~ん…網ではなかったなと後悔した。
仕方がないので軍手を付けて網を外し、鉄板を乗せた。
フライパンも片付けた。
ウサギ肉を食べやすい大きさに切り、塩コショウをする。肝は1㎝ほどの厚みに切り塩コショウをして小麦粉をまぶした。
薄くサラダ油を塗って、熱くなったところで木の実ウサギの肉を焼いた。ワインを振りかけて焼いていると脂が染み出てくる。
そこに小麦粉をまぶした肝を焼く。
脂を吸ってきつね色に焼けたところでひっくり返した。
輪切りにしたナスと椎茸を焼くと脂を吸っていく。
うん…脂を吸って美味しそうだけれど、脂を取りすぎのような気がする。
ここでは動いているし、その分のカロリーは消費出来るはず…。
楓花は、心の中で食べるための言い訳をしていた。
「フーカさん、変わろうか?」
「ありがとう。」
鉄板に脂が回ったので、もう誰でも焼けるだろう。
交代を申し出てくれたアーサーさんに生肉用のトングを渡し、最初に焼いた物をみんなのお皿へ分けた。
「おいしー!!」
サナの声に、他の子どもたちも食べ始めた。
大人たちもそれを見て、食べ始める。
野菜は脂を吸っていて、美味しさが倍増していた。
木の実ウサギの肉は、鶏もも肉のような食感で脂と肉汁がじゅわっとして美味しい。
肝はフォアグラそのものだけれど、味が濃くて美味しい。
これは、癖になる味。少し時間停止させて持っていたい。
「フーカさん、この食べ方うますぎる。」
「そうね。私も美味しくて驚いているわ。」
ケントさんが、耳元に顔を近づけた。
「フーカさん、肉の保存ってどのくらい出来る?」
「結構な量は置いておけるわ。期間も長く…」
「この脂ののった味は、今時期だけだ。冬になるとだんだんと筋肉質になって、春からまた太っていくけれど、ここまでではない。」
「なるほど…それは悩ましいですね。」
「半分ほど売って、残りは置いておきましょうか。私も食べたいですし、食べつくすかもしれないけれど、何回かは渡せると思うわ。」
「よし!それでいこう。俺たちは、保存出来ないからな。」
お肉も肝も美味しすぎて、みんなでお腹いっぱい食べてしまった。
みんな食べ過ぎて動けない。
ちょっと食べすぎてしまった。
「食べすぎましたね。」
「ええ、ちょっと苦しいわ。」
「車で少し休みましょうか。」
「そうだな。」
「そうしよう。」
「では、2時間くらい休みましょう。」
楓花はサナとリリーを連れて、キャビンへと戻った。
「おひるねはいっしょ!」
「え?」
「いっしょにねよーよ」
「ん~いいですけど、目が覚めてもここから出てはだめよ。約束出来る?」
「あい、やくそく~」
「リリーさんは?」
「はい、フーカさんが起きるまでここにいます。」
約束をして、服を脱いでパジャマ用のTシャツに着替えた。
ベッドに川の字になって仮眠を取った。
川の字で寝るのは、いつ以来だろう。
重い…。
楓花の目が覚めた時、サナの頭がお腹に乗っていた。
あらら、この間までお行儀よく寝ていたと思ったけれど…リラックス出来るようになったのかな?
起き上がってリリーさんがいないことに気が付いた。
サナをお腹からそっと下ろして、ベッドを降りてみるとリリーさんは、ソファーに座っていた。
「リリーさん、もう起きたのね。」
「はい、サナに蹴られて、目が覚めちゃった。」
「あらら、私もいつの間にか枕になっていて…重くて目が覚めたわ。」
「クスクス…」
二人で笑い合う。
「フーカさん…私、目が覚めてもお腹いっぱい。」
「あら、リリーさん。私もよ。」
二人でクスクスと笑い合う。
サナが起きないように、声の大きさに気を付けながらおしゃべりをした。
「お屋敷では、どんな事をしているの?」
「午前中はお掃除をします。お部屋のお掃除はしていなくて、廊下とか広間とか…。」
「そうなのね。」
「午後からは、メイド長がいろいろな事を教えてくれます。数の数え方とか、姿勢とか…。」
「姿勢ね。たしかに姿勢は大事よね。姿勢よく動き方も優雅に見えた方がいいもの。」
「あとは…」
お屋敷の掃除がメインだけれど、2人は真珠宮ではなく、屋敷でメイドの見習いとして過ごしているらしい。
いろいろと聞きだした。
子供を働かせるのは如何なものかと思ったけれど、リリーの話を聞いているとほぼ行儀見習いだ。
掃除もやり方を教わり実行しているものの、それは自分が小学校で教わったレベルのものだった。特別な物はなく、窓を磨くなど大掃除を毎日やっているようなものだった。
寧ろ役割を与えられていることで、午後の作法や基礎学問も仕事のためと、頑張っているようだ。
内容を聞く限り、仕事に生かす内容というよりも、生きていくために必要な教育の範囲だろう。
よかった。搾取的な労働ではなさそうだ。
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