12
楓花は、木曜日になると大荷物をキャンピングカーのキャビンに詰め込んだ。
金曜日の仕事を終えたら、すぐに向こうへ移動する。
最大で向こうで過ごせるのは5日、大和時間で日曜の昼には日本に戻らないとならない。
ララは連れ出せないだろうけれど、リリーとサナも連れて行こう。
楓花は、3人へのプレゼントとして子供服店で、かわいらしい服を購入していた。
イルルジオーネは、秋の終わりごろになる。中級ポーションの材料である露草の採取が、出来るらしい。
楓花は、事前に敬一郎へ予定を伝えていた。
渡ってすぐにヒシフォートのお城へと向かう。
ヒシフォートの街の入り口からお城手前の門までは、スムーズに通してくれる。
ここまで素通りに近くて大丈夫なのかと思ってしまう。
お城の掘りを渡り、城門に入る。
さすがにお城の門では、窓を開けて顔の確認はあった。
「大魔導士フーカ様、ようこそいらっしゃいませ。中へお進みください。」
「ありがとうございます。」
「楓花の車が、門の中へ入った」と城の奥にある真珠宮へと連絡が届いた。
敬一郎は、楓花を出迎えるために外へ出た。
執事のギルバートもついてくるのは、楓花の顔を見たいのだろう。
リリーとサナは、楓花さんが以前着せていたTシャツを着ていた。
屋敷にいる間は、お仕着せを着るしかなかったが、出かけるので自由にさせた。
「よろしいですか、フーカ様は大魔導士様です。礼儀正しく接するように。」
ギルバートが、言い聞かせているがおそらく無駄だろう。
楓花さんが、それを好むとは思えない。
「こんにちは、ケイさんまでお出迎えに出てくれたの?」
「当然ですよ。それに容器も出来ましたからね。お渡しします。」
「ありがとうございます。それでは積み込みますね。リリーさんとサナは元気ですか?」
「ええ、もちろん。ほら、二人とも…」
「フーカさんだうれしい…」
「リリーさん、こんにちは。」
「こんにちは」
「フーカぁ」
サナは、楓花の前で泣き出した。
楓花は、そんなサナを抱き上げる。
なんだか、ついこの間もみた光景だ。
「どうしたの?」
「きてくれたぁ」
「そうよ。お約束したでしょう?」
「うん…ぐすぐす…」
「はいはい、泣き止もうね。これから4日は一緒に過ごすのよ。」
「ほんとう?」
「そうよ。ケイさんにはお伝えしているわ。」
サナが、楓花の腕に抱かれながら敬一郎を見た。
敬一郎は、サナに近づき頭を撫でた。
「本当だ。楓花さんと出かけておいで、リリーも一緒に行ってきなさい。」
「いいのですか?」
「もちろんだ。ところで楓花さん、どこに行くのですか?」
「露草の採取に行くの」
集まった使用人たちがざわつく。
露草の採取が出来るのは山の中腹だ。
山自体が、こんな幼い子を連れて行くようなところではない。
楓花さん一人ではなく、天龍が一緒にいるから行けるところなのだろう。
「無理はしないようにご注意ください。」
「はい…気を付けますね。」
「リリー、サナ危険な場所だ。楓花さんの言うことを聞いて、絶対に離れないように。」
「はい!」
「あい!」
サナの返事が「うん」ではなくなっているけれど、「はい」と言えず「あい」になっている。かわいいなぁと楓花は、とろけてしまう。
「さぁ、2人とも車に乗ってね。」
「はい」
「あい」
「ソファーにしっかりと座るのよ。」
「はい」
「あい」
楓花は、一度キャビンへ乗り込んだ。サナをソファーへ下ろす。
ペットボトルの麦茶を取り出した。
キャップを開けて、2人に1本ずつ渡す。
「ここを回すと開いて飲めるわ。移動中揺れるかもしれないから、飲むときに開けて直接飲んですぐに閉めるのよ。」
「はい」
「あい」
楓花は、棚から籠を取り出して外へ出た。
「ケイさん、こちらお約束のお薬3種とポーションが入っています。それとこちらは、干し肉ですのでお召し上がりください。」
「これは、助かります。」
敬一郎は、微笑を浮かべてそれらを受け取った。
使用人たちは、いつになく柔らかい表情の主を見て、やはりお似合いだと確信を持つ。
楓花は、敬一郎と集まっている人たちに頭を下げると車を走らせた。
ナビにセットし、王都との間にあるロラーナという街へ走っていく。
車を走らせて4時間で200㎞ほど走った。これはなかなかに遠い。
ステルスのまま道路から外れて、休憩を取ることにした。
キャビンへと移動すると、リリーさんとサナは居眠りをしていた。
「ん?着いたの?」
「まだよ。疲れたから少し休もうと思って…。」
「一緒に寝る…」
「それならベッドで寝ましょうか。」
「うん…」
リリーさんは目をこすりながら、ベッドへと移動した。
楓花は、寝入っているサナを抱き上げてベッドへと運んだ。
この世界の時間で10時だ。本当はお昼を食べてからの方がいいけれど、眠気が限界だった。楓花たち3人はダブルベッドで川の字で眠った。
楓花が目を覚ましたのは3時間後だった。結構疲れていたようだ。
とても中途半端な時間だ。
急いで起き上がると、炊けたご飯にわかめご飯の素を混ぜてラップで包んで握った。インスタントのお味噌汁も用意する。
「リリーさん、サナお昼ごはんを食べましょう。」
「うん…」
「たべる!」
リリーはまだ眠そうで、サナは元気だ。
お茶を飲んで、お味噌汁を飲む。うん、美味しい…落ち着く味だ。
「味が濃かったらお湯を足してね。」
「うん、少し欲しい。」
「このくらいでどう?混ぜて飲んでみて…」
「うん、おいしい。」
おむすびも食べているから、口には合っているようだ。
パンではないけれど、食べられてよかった。
「リリーさん、眠る時間がないくらい働いているの?」
「ううん、お手伝いは午前中だけで午後からはお勉強とか…」
「そっか。それならお勉強をたくさんしているの?眠すぎじゃない?」
「これは…その…昨日、明日会えると思ったらうれしくて…眠れなかったの…」
「そうなの?それならよかったわ。」
「閣下もギルバート様も優しくしてくれて…いいのかなって思っているくらい…」
「そう、それはよかった。」
「今日はどうするの?」
「今日はね、ララさんに会いに行きましょう。それからアートンに行って、アートンで天龍のみなさんと会うわ。」
「てんりゅう?」
「そうよ。とても良い方たちなの。」
「そう…。ララに会えるのはうれしい。」
「ララさんに会いに行くから、新しい服に着替えましょうか。」
「新しい服?」
「そうよ。かわいい服を買ってきたから、おめかししましょう。」
リリーには、青地に黄色と黒のチェック柄のワンピースと青い靴下を渡した。
サナには、紺色のワンピースを着せ、白い靴下を履かせた。
楓花は、白いパンツにリリーのワンピースと似た生地のブラウスを着ていた。その上から紺色のカーディガンを羽織る。
秋も深まっているらしく少し寒い。
楓花は、マントを着ると運転席に戻った。
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