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長めです。
楓花は、屋敷に到着すると圧倒された。
真珠宮は、当主の屋敷らしいけれどここも十分に大きく豪華だった。
真珠宮が名前の通り白い建物であるのに対し、屋敷と呼ばれている建物は黒とグレーの色合いで重厚な雰囲気だった。
屋敷の使用人たちに出迎えられ、中へ入る。
メイドに連れられてきたリリーとサヤが、楓花を見て目を潤ませた。
メイド用のお仕着せを着ていて、とてもかわいらしい。
「フーカさんだうれしい…」
「リリーさん、こんにちは。」
「こんにちは」
「フーカぁ」
サナは、フーカの前で泣き出した。
フーカはそんなサナを抱き上げる。
「どうしたの?」
「きてくれたぁ」
「そうよ。お約束したでしょう?」
「うん…ぐすぐす…」
リリーも涙ぐんでいるので頭を撫でた。
「まずは部屋へと思いましたが、談話室へ行きましょう。」
敬一郎は、そんな様子を見て談話室へと誘った。
「すみません。」
「いえ、かまいません。楓花さんが着替えを出来ないだけですよ。」
「あら…それもそうですね。マントのままだわ。」
「サナ降りなよ。フーカさん着替えられないよ。」
「いや」
サナが抱き着く腕に力を入れて、いやいやと首を振っていた。
「大丈夫よ。マントはバックに入れればいいの。」
今日は、お城に来るために一応ブラウスにロングスカートを履いていた。マーメイドラインのスカートは、かなり昔の流行りだけれどこの世界ならそう変でもないはずだと楓花は考えていた。靴もヒールだけれど、結婚式用に揃えた物で日常的に使うにはビジューで彩られていて華やか過ぎた。こちらの世界であれば、そうおかしくもないだろう。服装がブラウスとスカートとシンプルだから、靴だけは少し華やかにしてみた。
「サヤ、マントを脱ぐから一度下ろすわよ。少し待っていてね。」
楓花は、談話室に入るとカウチにサナを下した。
サナの前で、マントを脱ぎ簡単に畳んでバックへと入れる。あまりにも無造作な行動だった。
敬一郎は、大和であれば気にならないことだが、マーメイドラインから見える足首に視線がくぎ付けになってしまった。白い足首のくびれが後ろからしっかりと見えた。
イルルジオーネでは、床に着くロングスカートが主流だ。
そのために、足首から足の甲までが見える姿があまりにも新鮮に見えた。
それは、周囲に控えているギルバートたち使用人も同様だった。
目のやり場に困り、少々不振な動きをしてしまう。
敬一郎が移動したので、ギルバートたち執事も屋敷に移動してきたのだが、マントを脱いだ楓花の姿から目を離せなくなってしまう。
華やかなレースのフリルが胸元を彩り、ボリュームのある袖であるのに、手首の近くは細く締まっているブラウス。
ウエストから腰に掛けての流れるような曲線と足元に広がるスカート。
そこから見える細く白い足首。
貴婦人たちの胸元を大きく広げたドレスに比べ、露出という点では控えめなはずなのに、なぜか心と視線を掴んで離してくれない。
女性らしい美しいラインの靴には、宝石が光っていた。ドレスの中に履く靴ではないことに気が付いた。なるほど、これは見せるための靴なのか。今日は、いつもの指輪以外のアクセサリーは身に着けていらっしゃらない。その代わりに足元を華やかにするとは、とても常人ではできないおしゃれだ。やはり一般的な貴婦人とは違うらしい。
そんな視線の中、楓花はサナを抱き上げるとソファーに座り膝に乗せた。
楓花は、サナがくっついてくるのが可愛くてとろけてしまう。
「リリーさん、元気そうね。」
「はい、元気だよ。毎日ごはんも食べているし、きれいな服も着せてくれているの。」
「うん、メイド服も可愛いわ。ここに座りましょう。」
楓花は、カウチの腕置きのない側をポンポンと叩いた。
リリーは、執事長と敬一郎へ視線を投げかけ、頷いてくれたのでおずおずと座った。
メイドが座って良い椅子ではないのだ。
楓花に抱きついているサナは、幼すぎてそんなことも理解していない。
「リリーさんにお土産があるの。」
楓花は大きなクッキー缶を取り出した。
それと大きな袋もある。
「開けて見て。」
リリーが袋を開けると、大きなぬいぐるみが入っていた。でも、リリーにはこれが何かはわからない。
「これは?」
「これはねぇ、猫ちゃんよ。かわいいでしょう?ふわふわでぎゅっと抱きしめると少しだけ幸せになれるの。」
大きなぬいぐるみは、親元へ帰ることのできないリリーが、寂しさを紛らわすことができるようにと選んだ。足元に頭をのせれば、膝枕をしてもらっているみたいになれる。
「もちろん、私ともぎゅってしましょう。でも、いつもはいられないからね。私が居ない時には、サナと二人でお互いにぎゅっとしてみてね。サナもいない時にはこの子をぎゅっとするのよ。」
「うん…うん…」
リリーは、なぜか涙が溢れてきて恥ずかしいけれど、止まらなかった。
楓花が、タオルハンカチで涙を拭ってくれるけれど、とても収まらないのでそれを借りてしまう。
あまりに泣いているリリーに気が付いたサナは、楓花の腕からリリーの膝へと移動した。
サナの小さな手が、リリーの顔を撫でまわし、楓花の手がリリーの背中を撫でる。
「サナの手がくすぐったい…」
「なでなでしてるの!」
「首はくすぐったいってば…」
そうしているうちに2人で、キャッキャと遊び始めた。
楓花は安心して、敬一郎を見る。
「ケイさんこちらをどうぞ。それから、こちらはお屋敷の皆さんで召し上がってください。」
楓花は、敬一郎を通してギルバート達にも大きなクッキー缶を5つ渡した。
かなりの人数がいるようなので82枚入りが5つもあれば足りるはずという適当さだった。
その日は、敬一郎とリリーとサナと4人で夕食を食べ、談話室で遊び、楓花に用意された部屋でリリーとサナも過ごした。
翌日、楓花は挨拶をして屋敷をあとにした。
リリーとサナを連れ出したかったけれど、まだ馴染み切れていないようなので、連れ出すのは諦めた。やっと馴れたところで連れ出しては、かわいそうだからだ。
自分たちの帰る場所を認識できないままでは、辛くなるのはこの子たち自身だ。
私は、この子達の面倒を見てあげられない。出来ないことをしてはいけないし、協力してくれているケイさんにも迷惑だ
この屋敷で仕事をして生きていく生活は、一般的には幸せな生活のはずだからと、楓花自信に言い聞かせた。
「フーカ様からの心遣いです。ありがたくいただきましょう。」
「私たちにまでよろしいのですか?」
「もちろんです。フーカ様が皆で食べられるようにと旦那様へくださいました。よく味わいなさい。」
ギルバートは、真珠宮と屋敷のそれぞれで使用人を集めると、1人ずつに菓子を渡した。
大小はあるものの1人2枚も食べられる。
見たことのない高級そうな金属の缶に入っている、小さな板状の菓子だ。
ギルバートはできるだけ全種類が1つずつ残るように配った。
残った分を頂くくらいはいいだろう。それくらいの役得が欲しい。
自室へ戻ったギルバードは、缶に残った8枚を目の前にしていた。その内の1枚を手に取った。
小麦色と黒が互い違いに配置された柄をしている。
どんな味がするのか…一口食べてその甘さとサクサクとした食感に驚いた。
うまい!
なんという美味しさだ。
砂糖がたっぷりと使われている。それに、上等なバターの味だ。これはなんと味わい深い菓子だろうか。
旦那様が召し上がる菓子類と同等の物なのだろう。
これほどの物を使用人に用意してくださるとは…なんとありがたいお方か。
やはり旦那様にはこの方しかいない。
旦那様も47歳、直系のお世継ぎは欲しいが、このお年まで来たならばそれが無理でも致し方ない。
それよりも、あの旦那様がフーカ様のためであれば、いろいろと動いていらっしゃる。これは今まで見たことのないことだ。寄ってきた女性たちに視線のひとつも向けることはなかった。
フーカ様がいらっしゃれば、旦那様ももう少し楽しくなさってくれるかもしれない。
ギルバートは、使用人としては至極まっとうな野望を抱き始めていた。
そして、他の使用人たちの中にも「旦那様とくっついてくれたらいいよね」と菓子欲しさに思い始める者もいた。
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