それぞれの夜
迷宮の奥の転送装置で消えた魔族の密偵は、サルカンドやユウキたちのいた元の世界とはまた別の世界の、とある城の中に現れた。密偵がもたらした情報は緊急性が高いと判断され、順序を飛ばして最上部に届いた。金魔将ヘルパトミナがそこにいた。
「結界の中から大勢の住人が西の城塞に向かった。結界はこれ見よがしに厳重に重ねがけしておいて放棄・・・。なんとも臭いねえ」
ヘルパトミナは見た目は大柄で筋肉質の女性だ。鍛え上げた褐色の肉体を見せつけるためにビキニの水着のような鎧をまとっている。他に魔族らしい特徴といえば、頭に生えた2本のツノと背中にある大きな魔章紋だ。
「戦場になる事を見越して民を避難させた、という事でしょうか」
老参謀風の側近が言った。
「それは間違いないね。けど報告じゃその中で戦えそうなのはごく一部だ。精鋭は結界の中に残ってるんじゃないかい?」
「ありあえますな」
「民を逃がした上で精鋭が守る村の結界を厚くした。普通に考えれば『よほど大事なものがある』と見るべきだが、さてどうしてくれようか」
一方、マルボークではファムファテルから届いた連絡を元に対応を協議するため、ユウキを含む将官が召集された。
集団移住の受け入れは行政官に対応を指示、物資の準備も同様にした。議論の必要があるのは護衛の派遣だ。
合流までの速度が重要だということで騎兵のみ、その他の事情を考慮すると数も500が限度ということになり槍騎兵450に銃騎兵が50という編成が組まれた。機動戦にも対応できる騎乗技術があることが買われて、エイムもこの部隊に参加することになった。表向きは随伴するユウキの副官である。
ユウキとエイムは自宅へ戻ると、そのことについて話し合った。
「結局、亜人種全員で引っ越しすることになったんだね。聞いてたより話が大きくなってない?」
「まあそうだね。事が起きる前に動いたって感じだから戦闘にはならないとは思うけど」
「あー、出征する将官がそんなこと言ってたらダメなんですよー?」
「はーい」
長ソファーに座っていたユウキの隣にエイムが座って
「私ね、ユウキと一緒にマルボークへ来てよかった」
「うん?」
「私は、ずっと落ちこぼれだったの」
「うん、前に聞いてたね」
「でもユウキが来てから変わったの。新型の銃ももらえて、大事な出征にも選ばれて」
「それはエイムが努力を続けてきたからだよ」
「違うの、あなたがいてくれた」
「エイム・・・」
「私にはあなたが必要なの。ずっと一緒にいてくれますか?」
二人は見つめあう。
「うん、約束する。元の世界には帰らない」
「ユウキ・・・!」
マルボークから遥か東の空の下、亜人種の移民団は野営とは名ばかりの、身を寄せ合うだけの夜を過ごしていた。
セッカは、間延びした隊列の中を異常がないか見回りをしていた。そのセッカの前に、明かりを持ったナッシュが現れた。
「見回りですか?ご苦労さまです」
「ああー、ワタシ実質言い出しっぺのくせに何の役にも立ちませんから。これくらいは」
「少し、お話ししませんか」
二人は野営地から少し離れた丘の上に出た。
「サイファーさんに聞いていた通りでした。外の世界は素晴らしいです」
「ナッシュさんはこの景色の先に何を見ますか?」
「また、わかりませんね」
「マルボークは大きな町です。ナッシュさんのやりたいことも、きっと見つかります」
「そうだといいですね」
ナッシュはセッカに笑顔を見せた。
(ああ・・・ホント奇麗な人・・・。その時は私も一緒に・・・いやいや、何考えてるのワタシ・・・!)
マルボークまでの道のりはまだ遠かった。
アン「え、エイム先輩とユウキさん、マルボークで一緒に暮らしてたんですか?」
スカーレット「そうみたいね」
「あんなややこしい事になってたのにあっさりくっつくんかーーーーーーい」
「むしろ、あれがあったからあっさりくっついたと言うか」
「まあ、お互い血筋に縛られない上に優良物件ですからね。良縁とはいえましょう」
「そういう言い方はやめなさい」




