大移動の始まり
「住民投票か・・・。わしの一存で全てを決めてしまうよりは納得出来るかもしれぬな」
「今まで言ってた事と真逆の命令をするのだから当然ですよ」
「そうじゃな・・・。此度の事はわしも反省せねばならん」
「反対派にはワタシが移住の必要性を説いて回ります」
「うむ、頼むぞ」
ファムファテルの一行が亜人種の里に帰ると、早速各種族の代表が召集され事態の説明がされた。里の放棄もやむなし、という話が出ると当然激論になった。
その上で出た里の住人全員による多数決で決めようという案には、どちらの陣営も乗り気だった。
投票は10日後に行われることになり、急ぎ準備が進められる。
反対派の勢力はドワーフの3割とノームの6割。エルフとオークはほとんどが賛成派で、イカロスは日和見を決め込む者が大勢だ。この時点で賛成派の優位は確実ではあった。
セッカは反対派、特にノームの有力者と会い説得を続けた。実際に最前線を見てきた体験を述べて生き続けるための転進を説いた。セッカは自身なりの手ごたえを感じていた。
10日後に行われた投票の結果は、賛成4420反対79棄権462。圧倒的多数で里の放棄が決まった。マルボークへの出発は5日後に決められ、そのための準備がまた急ぎ進められる。
限られた数の馬車には5000人規模の亜人種たちがマルボークまでの旅に耐えられるだけの食料、水を積まねばならないため移動は全員徒歩で、どうしても着の身着のままの旅になってしまう。里から持ち出せるものは各自が自分の手で持てるものだけだ。
ファムファテルはこの時点でマルボークの騎士団に連絡を取る。内容は5000人規模の移民受け入れ準備と、旅程で不足するかもしれない物資の補給の調達と運搬の準備。それと万が一のための護衛部隊の派遣要請だ。
ファムファテルが中空に術式記号を描くと、その軌跡が光の塊になって西の空に飛んで行った。それを見ていたセッカが聞いた。
「今のは何をやってたんですか?」
「マルボークの騎士団長の執務室に今の光を受け取る装置があってな。わしの文が浮かび上がって読める仕組みじゃ」
「魔法メール!!すごっ」
「これも昔にこの世界に来た転移者の助言で出来たシロモノじゃよ」
そして亜人種、いや、大勢の転移者たちのマルボークまでの旅が始まる。
ファムファテルは、あえて里の結界を「何か重要なものを隠している」ように見えるよう大げさに補強した。
「騙されて壊すのに必死になって時間をかけてくれれば儲けものじゃ」
との目論見だ。
大勢の亜人種が結界を抜けて西に向かう光景を、はるか先の上空から見る黒い影があった。その影は「狭間の迷宮」へ向かい、その最奥にある装置で”消えた”




