第3話 過去
「お前って本当に霊なんて信じてるのな」
「…」
「なんとか言ってみろよ!」
これは中学の話だったかな…。俺はまだ自分がどんな存在か、それがはっきりと分かってきた時だった。
「お前の事が好きな人…優香だったっけな?」
「それが今、関係あるの?」
「お前の事を心配して、ここに向かってるらしいぜ?なんとも、お前の事が好きだからって、やめさせないとって。なんとも正義感の強い女子だな」
「お前らが何をしようと知ったことじゃない」
俺はこの時、既に何かから逃げていたのかもしれない。自分を分かろうと、それでも信じてくれないこの世界から。
「まぁそこで見とけって」
「なにを…」
そこで俺は思いっきり蹴られた。とてつもなく痛かった。俺はその痛みで失神してしまった。
「いや……やめ…」
俺はその時、この声で目が覚めた。俺の目の前で優香が俺を襲った男達に何かされている。制服はボロボロで、もう泣いている。だが、男達はその子の口を塞ぎ、声が漏れないようにしている。そこで察した。止めなければ、その子が危ない。精神的にも、人間的にも、彼女は…。そう思うと怒りがこみ上げてきた。でも、俺に力なんて…。だがどこからか声が聞こえてきた。
『その子を助けたいのだろう?』
それは体の中からだった。
「でも、今の俺にそんな事ができるわけないだろ!」
俺は心の中で咄嗟にこう答えていた。いくら心の中と言えど時間は進んでいるのだ。
『俺は、あえて言えばお前のもう一つの人格だ。そして、今のお前はあの子を助けたいと思っている。そうだろう?』
「そうだけど…」
『まったく…はっきりしろ!』
俺はその時にわかった。その子が好きなんだと。優香をいつの間にか意識していたんだと。
「そうだよ。助けたいよ!あの子の事をいつの間にか意識してたんだよ!」
『だったら充分だな』
「な、何が?」
『いいから、あの子を助けに行け』
その言葉を聞いた瞬間、力が溢れてきた。
「この力はどこから…」
それはわかった。俺の意識がない時。親に、
「こんなに怪我をして、どうしたの?!」
そう言われた時の事を思い出すと、何かと面倒なことに巻き込まれていた。確か、喧嘩のある度だ。という事は…。それは俺が二重人格だということだ。ともかく、それを深く考えるのは後にして、今やるべき事をした。
「その子を離せよ…」
『あぁん?弱っちいガキが何を言うかと思ったら…』
コイツはさっき俺を蹴った男だ。俺の身長の倍はあるだろう。リーダー格の男子は、俺と同じ中学の奴で、暴力団の組長の息子。だから、暴力団の組員を少しばかり使えるのだろう。それにしても、何か武器が必要だ…。周りを見渡すと、鉄の棒が転がっていた。しかし、あるのは女の子━優香━の前だ。俺は咄嗟にそこまで走り抜けた。
「お前、さっきまで気絶してたはずじゃ… 」
俺はそいつが言い終える前に鉄の棒を拾い、その横腹へと薙いだ。
「こ、この野郎!お前ら、もし失敗したらどうなるか分かってんだろうな?」
「は、はい!分かりやした!」
やはり、暴力団組長の息子はその分リーダー格として作用してるようだ。喧嘩は別として。次々と襲いかかってきたが、それをいなし且つ敵の隙を見てこちらも攻撃している。隙あれば急所に。小学生まで剣道を習っていて良かった。この時に役立つとは思ってもいなかったからだ。剣道は一応1段だが、その後すぐに辞めてしまった。そんな事を思い出しながらしていたが、リーダー格の少年以外は片付けた。この際同じ中学生と言う気はない。そいつはこの状況を見てすぐに分が悪いと判断したのかすぐに逃げていった。色々とされそうになっていた優香は、何が起きたか分からないという顔をしていた。
「大丈夫だった?」
「あ…う、うん。あの…助けてくれてありがとね」
「そんな事ないよ」
俺と優香はそんな事を言い合った。去り際に、
「バケモノ…」
と呟く声が聞こえた。そう優香の口からだ。俺はこれでやっと自分がどんな存在であり、どんな人間なのか理解した。そして、俺の恋心は砕けた。俺はその後、家族と共に引っ越したためどうなったのかは知らない。ただ、あいつがこの後厄介な存在になりそうなのは間違いない。




