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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二十二章 シャクナゲ舞う南部紀行
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サヴォンリンナ神殿への道行き26 密航者 四 -パーヴォット、推論する-

 パーヴォット視点の話はこの話までです。

「ここでわたしを密航に誘った人の名はまだ言えませんが、その人に自分が言ったこととパーヴォット様が言ったことのどちらが本当か問いかけます。そしてわたしに嘘を言っていたのなら名乗り出るように言います」


 エルマニはとうとう決心したように言った。


 パーヴォットはすぐに扉を開けて外で見張っている船員に、エルマニと密航の手引きをした船員を追求している一般船員食堂へ向かうと告げた。



「この人達は?」


 パーヴォットは一般船員食堂に入ると船員の集団に取り囲まれるようにして座っている四人の船員について聞いた。


「この四人の中に密航を手引きした者がいるんだ」


 後で何故四人に素掘り込んだかをユウジが説明してくれた。


 ユウジはパーヴォットが思ったように、巫術の力によって人間が発する光の変化で誰がエルマニの密航を手引きしたかはわかっていた。

 しかしいきなり指摘するワケにもいかないので、ユウジは状況証拠を積み上げた行くという形にした。


 まずどうしてエルマニを人に知られずに船倉に忍び込ませたかをユウジは探ることにした。


 ユウジが積荷は最終的にいつ積み込んだのかを積み込みの担当者であるルドヴィク航海士見習に問うた。

 大勢の者が作業している船倉に積荷を入れている間に船倉に隠れることは無理なことだからだ。


 するとルドヴィク航海士見習は出港の当日の朝に塩漬けのニシンの樽を五十樽追加で積みましたのが最後で、その後でルドヴィク航海士見習と複数の船員が荷がしっかり固定されているかを丁寧に見て回ったことがわかった。


 さらにソフィアネッテ語の出港の前夜まで、エルマニが”白鯨亭”で働いていたことが当夜”白鯨亭”に行っていた複数の船員の証言でわかった。


 そこでユウジは現在船倉にある塩漬けニシンの樽の中身が本当に塩漬けのニシンなのかを確かめることと樽の個数を数えて欲しいとインディフォンド船長に頼んだ。


 これにはルドヴィク航海士見習が指揮者となって数名の船員が当たったがすぐに空の樽が見つかった。そして帳簿に記載された樽より一樽多いことがわっかった。


 この事実を聞いてからユウジは樽は誰の所有物で空の樽は容易に手に入るのかを問うた。


 これについてもルドヴィク航海士見習が説明してくれた。


 それによると樽はヘルコ船舶商会の所有物で、ニシン漁をするマルトニアの漁村にシーズン前に貸し出してニシンを塩漬けの状態にして貰い引き取るとのことだった。


 そうしたニシンの塩漬けが入った樽を保管する倉庫には次のシーズンに漁村に運ぶ空の樽が置いてあるので上手く人目を誤魔化せば空の樽を得ることはできるだろうという話だった。


 これで密航の手引き者は空の樽にエルマニを入れて船倉に入れたことが推測出来た。



挿絵(By みてみん)




 また積荷の点検の間はエルマニは樽の中に隠れていて、出港してから樽から出てきてユウジが感づくまで船倉にいたのだろということがわかった。


 密航は船に忍び込むのが難しい以上に、船から人知れず出て行くのも難しい。


 その為に密航者が目的地についた時点でエルマニを樽に入れて何食わぬ顔で船外に逃がすことを考えたのだうとユウジは言った。


 次にユウジは出港当日の朝に樽の積み込み作業の方法と作業をした船員は誰かと問うた。


 さらにこれもルドヴィク航海士見習が説明してくれた。


 まず倉庫から手押し車を使って一樽づつ埠頭に運び、まとまったところで埠頭のクレーンで十樽ほどを纏めて船倉に降ろして船倉で待機している船員が所定の場所に置いたということだった。



挿絵(By みてみん)




 その説明の途中でルドヴィク航海士見習は埠頭には他船に積む色々な荷が置いてあったのでその陰で空の樽にエルマニを忍び込ませるのは容易だっただろうと付け加えた。


 祐司は説明を聞いてから、船倉ではニシンの塩漬け樽は二段になっていたので、エルマニが出てきやすくするには上段にエルマニが入った樽を置く必要があるので、樽を運ぶ仕事と船倉で樽を所定の場所に置くことを同時にした人間は誰かと問うた。


 これは細かい作業報告がないので、船員達の自己申告と記憶から七人が浮かび上がった。


 幸いなことにこの七人の中に祐司が密航の手引きしたと判断した船員が含まれていた。


 ただ七人ではまだ人数が多すぎるので、祐司はもう一段階選別することにした。


 祐司が目をつけたのは、エルマニが発見された時に彼女が食べかけていた食事の残りだった。


 パーヴォットが船倉で気が付いたように夕食にはアニスを風味付けにした鴨肉の燻製が出た。


 ただパーヴォットと祐司が食べた鴨肉はほのかにアニスの香りがする程度だったが、船倉ではその匂いをパーヴォットが感知したのであるか多めにアニスが使用されていたと祐司は推測してその多めのアニス入りの鴨肉を食べた当直班を知ろうとした。


 これについては司厨長のパンタレオが船倉で見つかった食べかけの鴨肉を吟味して、「アニスは産地によって差があります。総じてリファニア産のアニスは香りが強く、キレナイト産は控えめです。今日の料理はあまり香りを強くしたくなかったのでキレナイト産を使っていましたが、途中で切れたのでリファニア産をつかいました。ただうっかりキレナイト産と同じ量を使用してしまい香りが強くなりました。香りが強い鴨肉を出したのは第三と第四当直です」と証言した。


 これで七人が四人に絞られた。


 その時にルドヴィク航海士見習が「わたしはインディフォンド船長にわたしが職務の不履行を犯したことを報告します。船倉では空の樽を含めると帳簿より一樽多くの樽がありました。出港前に積荷の個数を点検するのはわたしの職務です。ただ樽の積み込みが終わった時に受取り証と作業終了報告書を書いていると一人の船員が左舷側の個数を先に数えておきますというので任せてしまいました。先程船倉に行った時にわたしが数えた右舷側の個数はわたしが出港時に数えた数と同数でした。左舷側は船員が報告した数より一個多く空の樽も左舷にありました」と言った。


四人の船員の内、祐司が目星をつけている密航の手引きをしたと思える船員が発する巫術の力により光が千々に乱れた。


 その時にパーヴォットがエルマニを連れて船員食堂に入ってきたのだ。



「この人達は?」


 パーヴォットは船員の集団に取り囲まれるようにして座っている四人の船員について聞いた。


「この四人の中に密航を手引きした者がいるんだ」


 祐司が言う。


「エルマニさんが説得するそうです。いいですか」


 パーヴォットはユウジとインディフォンド船長の方を見て了解をとると、エルマニに声をかけた。


「この四人の中に手引きをした人がいるのかいないのかは問いません。ここにいる全員に話してください。そうすることで貴女が単純な密航者ではないことを説明できます」


 エルマニはこくりと頷くとパーヴォットに話した内容に加えて、ソフィアネッテ号出港の前日の夜にキレナイトに行きたくなければしばらく身を隠すしかないので誰にも言わずに、朝一番で埠頭に来るように言われたこと。


 その時はどこかの隠れ家に案内してもらいしばらく行方をかくすと思っていたこと。


そしてしばらくすると手押し車で樽を運んで来た船員がもうしばらく隠れて居るよう言い、しばらくすると空の樽を運んで来てその樽の中に入るように言ったので言われたようにしたこと。


 樽の中に隠れていると何事かを話し声が聞こえてきたかと思うと手押し車で樽ごと運ばれたこと。


 しばらくすると樽が持ち上がるような感じを受けて、初めて船に積み込まれるのだということを悟ったこと。


こうしたことを話したあとで「わたしの浅はかな行動で皆さんに迷惑をかけてしましました。ごめんなさい」と言って頭を下げた。


 このエルマニの話を聞いている間に回転の速いパーヴォットの頭が再び動いて,自分で矛盾のない考察が組み上がっていった。


「この状況が本当でもエルマニさんが密航者と断定されますか」


 唐突にパーヴォットはインディフォンド船長に問うた。


「いや、違うでしょう」


 インディフォンド船長は気圧されたかのように返した。


「それからユウジ様と皆さんに少しだけお話をしていいでしょうか」


「何をかね?」


 インディフォンド船長が問うたことでパーヴォットは発言の許可が出たと判断してしゃべり出した。


「今のエルマニさんの話を聞いていて、わたしはとんでもない勘違いをしていることに気が付いたんです。お願いします。


 犯人が知れた後で今からわたしがする話を犯人はするでしょうが、それは言い訳としか聞こえないでしょう。

 だからわたしが先に話しておくことが、事後どうするかという判断をする為に大事だと思うのです」


「手短に」


 このインディフォンド船長の言葉をパーヴォットは具体的な話をしろという意味だと受け取った。


「わたしはエルマニさんの密航を企てた人、申し訳あえりませんが犯人と呼ばせて貰います。

 犯人はエルマニさんを連れだして、彼女の知らない土地で自分の女にしようと画策し、誘拐同然に彼女を密航させた思っていました。


 でもそれが間違いだと気が付いたのです。


エルマニさんは船倉でソフィアネッテ号備え付けのカンテラ、毛布等を使っていました。そして密航を手引きした人が食堂からこっそり持ち出した自分の食べ物を分け与えていました。


 犯人は悪巧みを計画していたのにしてはあまりにも行き当たりばったりです。備品をエルマニさんに使わせればその部品がないことを不審に思われます。

 実際に航海士見習のルドヴィクさんはランタンの個数が定数と違うことに気が付いて調べようとしていました。


 計画的なことならカンテラや毛布、そして食糧は先に犯人は自分で用意していたでしょう。


 こんなことになって今一番困っているのは、エルマニさんお密航を手引きした犯人です。


 犯人はエルマニさんに気があったのは確かでしょう。でも少々誘いの言葉をかけても”白鯨亭”の看板娘で毎日同じようなことを言われているエルマニさんには愛想よくではあるが受け流され続けていたと思います。


 しかしある時”白鯨亭”のご主人が客として来ていたエルマニさんのお父さんがエルマニさんをキレナイト総督府の主題する合同見合いにエルマニさんを送ってはどうかという提案をしていることを犯人は小耳に挟んだのです。


 犯人は中々自分と深い話をしてくれない、誘ってもはぐらかされる。そこでエルマニさんにこの話をして気を引こうとしました。

 話を聞いたエルマニさんは不安になってお父さんに、わたしをキレナイトに送るというのは本当かと聞きました」


 パーヴォットがここまで言うとエルマニに「間違いありませんか」と問うた。エルマニは深く頷いた。


「お父さんは”白鯨亭”の主人から言われたことなど聞き流していたので、曖昧な返事だけしました。


 ところがこれがかえって信憑性をエルマニさんに感じさせてしまいました。そこでエルマニさんはあらためて、キレナイトに行ったことがあるという犯人にキレナイトの合同見合いとはどういうものか。どうすればいいのだろうかと相談しました。


 犯人にすればキレナイトの合同見合いの話で、エルマニさんと話が出来るとあって、それこそ有ること無いことを話しました。

 ただ本当の話をすれば親孝行で家族思いのエルマニさんがそれならキレナイトに行って花嫁になると言い出すかもしれない。


 そこでキレナイトに女性を送るのは先住民を懐柔するためで、女性は強制的に先住民の妻となる。

 そして妻といっても何人もいる妻の一人で下女同然の扱いで二度とリファニアの地には帰って来れないなどと絵空事を吹き込みました。


 エルマニさんもこれを誰かに話して真偽を確認すればよかったのですが、思い悩んでそこまで頭が回りませんでした。


 犯人は調子に乗って臨戦態勢にあり、王立水軍の基地建設が進むカラシャの緊張した雰囲気を背景に王家がロカチコンド子爵家領に割り当てをしてキレナイトに送る女性を集めているのだという話をしました。


 ただ犯人とすれば話を広げすぎてどう収拾していいのかわからなくなっていきたでしょう。

 それにこの航海が近づいて来ていつまでもエルマニさんだけに関わってはいられなくなった。


 そこで出港の前日に犯人には『キレナイトに行きたくなければしばらく身を隠すしかない。明日の朝、埠頭に来てくれ』と言いました。


 これはまったくの推測ですか、犯人は航海で自分のいない間もエルマニさんが離れないようにキレナイト行きのことで怯えさせて自分を頼る様にしておきたかったと思います。

 

 で、埠頭に来させて『オレの掴んだ情報では一ヶ月ほどは大丈夫だ。ただキレナイト行きの話をされたらきっぱり断るんだ。ただ自分から訊けば藪蛇だからおっとうを含めて絶対に他人言うな』などと言うつもりだたのでしょう」


 ここまでしゃべったパーヴォットはユウジを見た。


 ユウジは犯人が発する巫術の力による光の変化を見ているので、パーヴォットの話の真偽が或る程度判断出来る。


 ユウジは軽く頷いた。


「さて埠頭に来いと犯人は言いましたが、埠頭はヘルコ船舶商会の専用埠頭ですよね。この埠頭にエルマニさんは立ち入れますか」


 パーヴォットはイルデフォンド船長に問うた。


「いいえ、関係者以外は入れません。荷主から預かった荷を入れる倉庫もありますし、埠頭の荷の管理、運搬では他人がいては危険があります。

 埠頭の手前に番屋を設けてそこで勝手に関係者以外の者が入らないようにしています。船員と人夫、それにヘルコ船舶商会の商方あきないかたでも割り符になった木札を持っています。

*ここでいう商方とは事務職


 木札無く埠頭に入れるのは誰もが顔を知っているギスムンドル総帥や息子さん、そして番頭さんだけです。


 門番は大体は顔を覚えているので木札を見せるだけで埠頭に入れますが、多少見覚えがない顔なら割り符を合わして間違いがないか確認します」


 イルデフォンド船長が説明した。



挿絵(By みてみん)




「そうですよね。わたしとユウジ様は乗客で見送りもありましたから、割り符など意識せずに埠頭に入ったの埠頭が誰でも入れるワケではないということを失念していました。


 犯人がエルマニさんに埠頭に来いと言ったのは、番所で自分を呼び出せという意味だったのではないかと最初は考えました。

 

そしてエルマニさんに埠頭の外で先程わたしが言ったようなことを言って帰らすつもりだととも考えました。

 番所の人間には昨日”白鯨亭”で忘れ物をしたが、エルマニさんが届けてくれたとでも言うつもりだったと。


 でも真相はもう少し違うのではと考え直しました。班員がわざわざ面倒なことをして第三者まで介在させる埠頭にエルマニさんを呼び出すのは変です。


 実は犯人にとっては思いがけない不測の事態が起こっていました」


 パーヴォットはここまで言ってユウジの顔色を見た。出過ぎた真似をしていると怒られるかもしれないと思ったからだ。しかしユウジは軽く頭を上下させた。


「不測の事態とは?」


 インディフォンド船長が問うた。


「出港当日、ソフィアネッテ号の船員の方々はニシンの塩漬けが入った四十の樽を積み込んだのですよね。荷の積み込みは船員の仕事ですか?」


 パーヴォットはインディフォンド船長の問には答えずに質問で返した。


「いいえ、普通は荷役の仕事です。ただ出港の前日に王都の支点から追加の注文連絡が入ったので急遽積み込み事になって荷役の手配が間に合わなくなって船員でしたのです。

 出港直前なのでどこに船員が荷をロープで固定する作業もありますから。そう多くなければ船員でした方が都合がいいのです。


 また時々はあることです。荷物の固定を確認する船員を早めに集めて積み込み作業をしたのです」


「犯人が部外者出入り禁止の埠頭に来いというのは変ですよね」


 パーヴォットはインディフォンド船長の言葉を受けながら、今度はエルマニの方へ体を向けた。


「わたしは思い違いをしていたようです。先程は犯人がエルマニさんに埠頭に来いといったと推測しましたが訂正します。

 

エルマニさんに直接聞きます。、犯人は自分の家、下宿先に来いと言ったのではないですか?」


 エルマニが何も言わないので、パーヴォットは再びインディフォンド船長に向かってしゃべり出した。


「ところが犯人は荷の積み込みに呼び出されていません。エルマニさんが下宿先で訊くと荷の積み込みがあって埠頭に言った事がわかった。

 急に積み込みに引っ張り出された犯人も困っていましたが、下宿先に来て自分がいなければエルマニさんは諦めて帰るだろう程度に思っていました。


 しかしエルマニさんの不安は犯人の想像を超えていました。


 犯人は埠頭の荷物の陰からそこにいはいけないエルマニさんに声をかけられました。飛び上がるほどびっくりしたかも知れません」


 パーヴォットはここでまたユウジを見た。ユウジは再び軽く頷いた。


「エルマニさん、見とがめられずにどうやって埠頭に入ったのですか」


 パーヴォットが訊いた。


「荷馬車が来たのでその陰に隠れて入りました。門番は片側しか見てませんでしたから」


 今度はエルマニは素直に答えた。


「門番は怒られるかもしれないが、黙っておくワケにはいかないな。帰港したら番頭のベルナルドさんに報告して荷馬車などの出入りの時はしっかり両側を見るように注意してもらおう」


 エルマニの言にイルデフォンド船長は溜息をつきながら言った。


 パーヴォットが再びしゃべり出した。


「この後、犯人は最悪な選択をし続けます。一番よい選択は部外者が入って来てましたといってエルマニさんを連れて番所まで行くことでした。


 番所でエルマニさんが怒られた程度ですんだでしょう。


 ところが犯人はエルマニさんとの関係が追及されてはと思ったのか密かに彼女を埠頭から出そうとしました。そこで空の樽を運んで来てエルマニを中に入れました」


 ここでパーヴォットはエルマニに声をかけた。


「エルマニさん、貴女は樽に自分で入ったのですか。それとも入れられたのですか」


「持ち上げられて樽の中に入れられました。有無もなく両手で持ち上げられました」


 エルマニはリファニア女性としては平均かやや小柄と言える。船員食堂の中にいる者達は四人並んで座っているうちの大柄な一人に目を向けた。


 パーヴォットが再びしゃべり出した。


「ここでの犯人の思惑はよくわかりませんが、樽の中にエルマニさんを隠して倉庫の隅にでもおいて折り合いを図って逃がそうとしたか、或いは門の所まで樽を運んで門番の気を逸らしてエルマニさんを逃そうとしたのでしょう。


 ところが誰かがやって来て樽を早くクレーンの所まで運べと言った。樽に入れられたエルマニさんが内容は不明ですかが話し声を聞いています。


何とかしなくてはと思っている間もなくエルマニさんの入った樽は船倉に降ろされてしまった。

 そこで犯人も船倉に行って何とかしようとしましたが出来たのは、エルマニさんの入った樽を上段に置くくらいでした。


 しばらくすると航海士見習のルドヴィクさんが樽の個数を数え出しそうになったので、慌てて左舷の樽を数えると言い何とか樽が一つ多いのを誤魔化しました」


 パーヴォットはルドヴィク航海士見習の方に向き直った。


「ルドヴィクさんに船倉を案内して貰い塩漬けのニシンの樽も見ました。樽には樹皮紙が貼ってありました。


 その時は細かな事は聞きませんでしたが、おそらくニシンが上がった浜と塩漬けのニシンに加工してを樽に入れた日時が書いてあるのですよね」


「そうです。それと荷主、降ろす港ですね。ただこの二つは符丁なのでパーヴォットさんは内容まではわからなかったと思います」


 ルドヴィク航海士見習はパーヴォットの言いたいことがなんとなくわかたというような顔付きだった。


「ありがとうございます。でもエルマニさんの入った樽には樹皮紙はないですよね。船倉に並んだ樽によって樹皮紙が後になって見えないモノもありました」


 パーヴォットの言にインディフォンド船長が制するような感じで割り込んできた。


「全部言わなくて結構です。船倉に入れるときに樹皮紙があるのかどうか確認する。船倉に入れても樹皮紙が見えるように樽を置く。

 些細な事が疎かになっていました。これも番頭のベルナルドさんに報告して、積荷の管理を厳重にしていきたいと思います。


 わたし達は積荷を運ぶだけではなく、間違いなく運ぶことで給金を戴いております。給金分の仕事はしなければなりません」


 パーヴォットは説明を続ける。 


「後は先に言ったことの繰り返しになりますが、誰かが船倉にいたのか、或いは自分が当直になったかでとうとう出港までにエルマニさんを逃す機会を失ってしまった。


 そこで犯人に仕方なしに船の備品、自分の食事の一部を与えて、何とかカラシャまで戻ってこようとした。

 これはエルマニさんには、この船は身を隠すのには一番いい場所だとでも言えばエルマニさんを押さえておくことが出来ます。


 カラシャではエルマニさんがいなくなったことで騒ぎになっているでしょうが、これは航海中にいい策、言い訳を考えるつもりだったのでしょう。


 エルマニさんの密航騒ぎは色々な場面で防ぐ機会はありました。むしろその機会を全て逃して、また最悪な選択をとり続ける事で起こったことです。

 この一連の出来事で悪意というか故意の嘘があったのは、犯人がキレナイトの手段見合いについて虚偽の話をエルマニにしたことだけです。


 犯人はいま後悔していると思います。早い段階で本当のことを言えば傷が浅かったのに今は責任を問われてなんらかの処分がある段階になってしまいました。

しかし人に指摘されたり証拠を突きつけられて断定されるのと、自分で名乗り出るのでは大きな違いがあります」


 ここでパーヴォットは一拍おいた。


「どうか正しい選択をして下さい」


 少し間があって船員達に取り囲まれて座っている四人の船員のうち一番大柄な二十代半ばほどの男がおずおずと立ち上がった。

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