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星海の灯火 〜英雄は星を救わない〜  作者: セルヴォア


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リュミナ・ノード外縁

「機兵群、リュミナ・ノード外縁に展開中」


通信が解析室に流れた。


探知画面の端に、小さな輝点が増えていた。帝国の艦載機兵と、共和国の無人機が、採掘都市の外縁宙域で入り乱れている。大型艦の砲戦とは別の、もう一つの戦場だった。


艦載機兵は宇宙空間での近接戦と、要塞や構造物が入り組んだ地形での局地戦を想定した兵器だ。リュミナ・ノードの採掘塔、輸送港の係留構造物、外縁のブイ群——そういった障害物が密集する宙域では、大型艦が射線を通しにくい。その隙間を埋めるために機兵が出る。


リオは解析卓で機兵用の航路データを開いた。


艦載機兵は艦橋から直接指揮される。解析室からは補助データとして位置情報と障害物マップを提供する形になっていた。戦闘中の機兵操縦者が参照できる形に整形して送る。


作業は細かく、速さが要る。


リオは手を動かしながら、奥の画面で主力艦隊の動きも追い続けた。




ユーリが部屋の端に椅子を持ってきて座った。


解析室に医療士官がいる理由はない。ただ、出て行けとも言われなかった。戦闘中は部屋の運用が通常と変わる部分があるので、ユーリも判断の範囲内で動いているのだろうとリオは思った。


「手が震えてるか」と小声で言った。


「震えてない」


「顔色は」


「そっちは知らない」


「見ればわかる。悪い」


リオは手を動かしながら答えなかった。


「次の小休止で確認させろ」


「戦闘中に小休止はない」


「作業の切れ目がある。その時だ」


「わかった」


それだけ言って、また画面に集中した。




機兵の通信が断続的に解析室にも入ってくる。


「左翼、無人機三機確認」


「外縁ブイの陰——取ります」


「後ろに民間船が見える。避けて」


民間船。


リオは耳に引っかかった言葉を確認するように、外縁のデータを開いた。


リュミナ・ノードの補給港に向かっていた小型の輸送船が、採掘帯外縁の警戒ラインの内側に入ってしまっていた。戦闘警報が出てから退避しなかったか、通信が届いていなかったか、あるいは機材の不具合で動けないか。


輝点は止まっていた。


エンジンが落ちている。


漂流している。


「コルネリウス少佐」とリオは言った。「外縁に漂流している民間船があります。座標を送ります」


「確認した。機兵に回避指示を出す」


「戦闘圏が近づいています。早めに——」


「機兵指揮は艦橋だ。データを共有しておけ」


リオはデータを転送した。


漂流船の座標、現在の移動速度、戦闘圏との距離。機兵がその船の周辺を戦場にした場合の危険区域も計算して付けた。


機兵への回避指示が出たかどうかは、解析室からは確認できない。




外縁の戦いは、数値の上では帝国が押していた。


共和国の無人機は機動性が高い。一機一機が素早く動いて、帝国の機兵を引き付けようとしている。しかし無人機は一定の演算パターンで動くので、対応が数回続くと機兵操縦者にリズムが読まれる。


帝国の機兵が数機、無人機の演算パターンの裏を取り始めた。


「無人機、二機沈黙」


「こちら、機兵一機が損傷。撤退中」


「無人機、採掘塔の裏に回りました。追います」


通信が飛ぶ。


リオは障害物マップを更新しながら、機兵の現在位置と採掘塔の配置を照合した。採掘塔の裏に回った無人機の出口候補は三方向ある。その三方向に帝国機兵を割り振れば網を張れる。


「機兵指揮チャンネルへ、データ送信します」


コルネリウスが確認した。


「送れ」


リオは三方向の予測出口と推奨配置を送った。


しばらくして通信が来た。


「艦橋より。解析からの誘導データを確認。機兵の展開を調整中」


全部採用されたわけではない。現場の機兵操縦者が状況を見て判断する。数値はその判断を補助するだけだ。それでいい。




「漂流船の動きは」とリオはユーリに聞いた。


聞く相手が違った。ユーリは医療士官で、航法のデータは持っていない。


「俺に聞くな」とユーリが言った。「お前が一番詳しいだろ」


「今画面を二つ開けないから」


「言えば開けてやる」


ユーリが立ち上がって、リオの横に来た。


「漂流船の座標を出してあるから、そのウィンドウを開いたまま右に置いてくれると助かる」


ユーリが操作した。


「これか」


「そう。ありがとう」


漂流船の輝点は動いていなかった。戦闘圏との距離は縮まっていない。機兵が戦場を動かしている分、少し距離が変わっていたが、危険な範囲ではまだない。


「その手を見せろ」とユーリが小声で言った。


「今は——」


「今だ。作業の合間に見せろ」


リオは片手だけ差し出した。


ユーリが手首を持って、脈を確認した。それから指の温度を確かめて、手の甲の皮膚を少しつまんだ。


「水分が足りていない。口が渇いてるか」


「少し」


「少しじゃなく相当だ」とユーリは言って、腰のポーチから携帯用の水筒を取り出した。「飲め。戦闘中でも飲める」


「ありがとう」


リオは水を飲みながら画面に戻った。


水を飲んでいる間も画面から目を離さなかった。ユーリはそれを見て何も言わなかった。




外縁の局地戦が動いた。


無人機が採掘塔の裏から出た方向は、リオが送ったデータの第二候補点だった。帝国機兵の一機がそこで待っていた。


「無人機、捕捉。交戦開始」


「右からもう一機——対処します」


短い交戦の後、通信が止んだ。


「無人機、三機追加沈黙。残存一機、後退を確認」


拍手は誰もしなかった。戦闘中だからではなく、まだ主力艦隊が動いていないからだった。


無人機が退いても、共和国の機動戦艦三隻はまだそこにいる。距離を保ちながら動いている。攻撃を再開する角度を探している。


これは局地戦だった。


外縁で帝国が押し返したとして、主力同士の形勢はまだ決していない。




「残存機兵、帰還させます」と艦橋通信が来た。「損傷一機を含む四機が帰還コースに入ります」


「了解。帰還誘導データを送る」


リオは帰還コースの障害物を確認して、安全な航路を出した。


漂流船の近くを通過するコースだった。


「コルネリウス少佐、帰還機兵のコースに漂流船があります。民間船との近接は避けたほうがいいと思いますが」


「近接するのか」


「直撃はしません。ただ、損傷機兵がいます。制御に問題があれば確率が変わります」


「別コースを出せ」


「少し遠回りになりますが、出せます」


「出して送れ」


リオは代替コースを計算した。採掘塔の配置を避けながら、漂流船から充分な距離を取る帰還経路だった。戦闘圏の外縁を大きく迂回する形になったが、安全は確保できる。


送信した。


少し後、艦橋から確認が来た。


「代替コース採用。機兵に送る」


ユーリが隣で小さく息を吐いた。


何かを言いたそうだったが、黙っていた。




外縁の機兵戦が落ち着いた頃、リオは主力画面に集中した。


共和国の機動戦艦三隻が、また動き始めていた。


しかし向きが変わっていた。


輸送船団に向かっていない。


採掘帯の外縁に沿って動いている。リュミナ・ノードの補給港がある方向に、緩やかに位置を変えている。


「機動戦艦の進路が変わりました」とリオは言った。「輸送船団ではなく、リュミナ・ノード側に向かっています」


「目的は」


「わかりません。ただ、採掘帯の内側に入ることが前回もありました。情報巡航艦が採掘帯を通過した。今回は機動戦艦が同じことをしようとしているかもしれません」


「採掘帯の内側に機動戦艦が入るか」


「採掘帯の中では大型艦が動きにくい。しかし、採掘帯を通って別の出口から出ることが目的なら、動きにくくても通る意味はあります」


コルネリウスが画面を見た。


「理由は」


「わかりません。でも、さっきの戦闘全体を見ていると、輸送船団を動かそうとしていた。どこかへ押し出そうとしていた。輸送船団を潰すことが目的なら、今の動きは非効率です」


「確認できる根拠は」


「ありません」


コルネリウスは黙った。


「記録として残せ」と言った。「今は戦闘の実務を続けろ」


「はい」


リオは手を動かし続けながら、確信が積み上がっていくのを感じた。


主力の目的は輸送船団ではない。


では何か。


採掘帯を通って出てくるとしたら、その先には何があるか。


リュミナ・ノードの補給港。採掘塔。通行枠を管理する評議会事務室。財閥の係留港。


その中で、軍事的な価値があるものは。


データが手元にある。考える素材は揃っている。


ただ、今は手が足りない。画面を追いながら考え続けた。答えはまだ出ていなかった。

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