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突然の クラス転移に 物申す 神様お願い ちょっと戻して ~準備のいい僕と、カンのいいあの子の、ちょいラブ異世界生活~  作者: 相生蒼尉
第1章 渡鉄心くんの物語

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そんなにクマが怖いのか。ま、そりゃ、怖いか……。



「なんだ、こりゃ、テッシンさまよう?」


 第一防壁と並行して作ってもらいたかったので、タブレットで揚水水車の動画を見てもらったら、サイゼラさんがそう言った。


「水車です。下水道も、上水道も、通したいので」


「あ、いや、水車は、知ってらぁな。そうじゃねえよ、テッシンさま」


「え?」


「なんだ、こりゃ? なんで、こんな小せぇもんの中で、水車が動いてんだ?」


 ……タブレットに保存しといた動画って、何て説明すればいいんだろうか?


「サイゼラさん、これ、不思議な魔法の道具なんだよ」


「魔法の道具だぁ? リコさま、こりゃ、魔法なのかい?」


「リコ……?」


「いいから、テッシン。これはテッシンの秘密の宝物だからね。誰にも言っちゃダメだからね?」


「……お、おう。テッシンさまの秘密の宝物なら、誰にも言わねぇよ。てか、テッシンさまも、リコさまも、魔法、使えんのかい? フェルミナから来たとは聞いてたが、魔法使いとは一言も聞いてねぇからよ」


「フェルミナ王国の魔法使いは、有名なの?」


「魔法使いが多いのはフェルミナってぇのが常識だがよ。うちの国は、隣にあるからな。まあ、そん中でも、おれがまだ見習いになりたての頃、フェルミナのサワジリって怖ろしい魔法使いの話が流れてきたことがあって。フェルミナとナスダクの戦争で、何千人も一人で殺したとか……」


 ……サワジリ? 沢尻、かな? 日本人の転移者っぽい気もする。サイゼラさんが見習いってことは十代ぐらいとして、10年以上は前の話かな? 僕たちよりも前に召喚された人かも。


「……おもしろそうな話だけど、サイゼラさん、リコも、それはまた今度で。それで、こういう水車、作れそう? それで、とりあえず下水道に水を流したいけど」


「ああ、作れるぜ」


「なら、水車ができて、水が流れるようになったら、食堂のトイレを完成させて、上水道も少しずつ、整備するようにしていきたいですね」


「……水にこだわりがあるねぇ、テッシンさまは。あと、風呂だったか? テッシンさまたちの家よりも、水車が先かい?」


 ……公衆衛生の観念がない中世だからこそ、下水道はきっちりしたい。あそこの王城でも水はうまく流してたから、たぶん、できるんだろう。下水道の配管はサイゼラさんがきっちり確認してたし。


「水車が先で」


「だがよぅ、防壁の工事は止めねぇぞ?」


「並行して、冬までに」


「おぅ、任せとけ。水車の形は、こっちに任せてもらっていいかい?」


「お願いします」


 にやりと笑ったサイゼラさんは、ちょっと怖い顔だったです。






 木を抜いて、木を抜いて、木を抜いて、掘って掘って掘って、石を取り除いて、できるだけ柔らかく耕して、畝を作って……。春から利用する畑を開墾するのが今の僕の仕事です。人間重機。どんとこい。


 身体強化の重ね掛けが有能すぎる。


 抜いた木は、サイゼラさんの弟子たちが、斧やら鎌やらで枝を落として、皮を剥いで、乾燥させるために積んでいく。春から、みんなの家を建てるための準備。余り物は焚き付けとか薪とかになります。もったいない精神で。


 泉と小川の周辺には、もはや森とは呼べない、木のない空間が広がっている。そして、泉を囲む、建設中の防壁がとても目立つ。


 ……ま、今は、子どもたちが、木を引っこ抜く僕をとんでもなく目を見開いて見てるんですけどね。


 リコが地面で字を教えてるけど、今は僕の方に注目してるみたいで。


 あ、リコが、どうせなら、僕の近くで子どもの面倒をみたいと言ってくれて、近くにいてくれるので、嬉しいです。小さな幸せをありがとうございます。ただし、この子どもたちは僕とリコの子ではないです。


「テッシンさますげー」


「すげー」


 男の子たちの尊敬を集めてるみたいです、はい。


「大丈夫、大丈夫だよー、テッシンは怖くないよー」

「……」

「……」


 女の子たちはちょっと怯えてます。リコが頭をなでながらなだめてくれてるけど、びっくりし過ぎて固まってる。


 サイゼラさんが弟子のひとりと水車作りをして、残りの弟子は僕が引っこ抜いた木の製材準備。あとの大人は第一防壁の工事。


 みんな、本当に働き者です、はい。ありがたい。そういう人たちが集まるというのは幸運だと思う。奴隷とか、そういうの、働かないと鞭打ちとかするのかとか、勝手なイメージで思ってましたから。


「本当に、村人のみなさんが働き者で助かるよね」


「……たぶん、テッシン、わかってないよ」


「え、何?」


「みんな、女の子たちと同じだから、きっと」


「女の子たちと……?」


 ……女の子たちと、何が同じなんだろう?






 水車の完成と、下水道の流れの確認が済んで、食堂にトイレができました。トイレ自体はもはや見慣れた壺タイプで、水洗ではないのですが、壺の底がなくて、そのまま地下の下水道へぼっとんと落ちるので、水洗といえば水洗なのかもしれませんね。ずっと水が流れてるけど。


 それと上水道で食堂の調理場兼洗い場の隅に石造りの水溜め井戸も完成。一定量以上の水が溜まれば一度洗い場へと排水されてそのまま下水道へと流れます。サイゼラさんってすごい。ちなみに穴を掘ったのは僕です。僕が掘った穴に石を敷き詰め、固めて、水溜め井戸にしたのはサイゼラさんとその弟子です。


 そして、食堂の完成で、僕も含めて、第一防壁の工事に人員を集中させる。サイゼラさんの指示で。もう村長はサイゼラさんでいいのでは?


 ……本当に、みんな、防壁大好き。冬までに絶対、完成させたいと強く思っているらしい。


 ちなみに僕は空堀を掘って、第一防壁のための土を提供する役です。


 リコは子どもたちの教育です。


 いつのまにやらリムレさんがすっかりたくましい男の人になってました。本人にとっては地獄のような力仕事だったらしい。元々は事務方の人なので、ここに来る前の知り合いが見たらびっくりするんじゃないだろうか。


「防壁大事っす」


「おう、命がかかってるからな」


 開拓者ペアももちろん防壁工事に真剣に打ち込んでます。岩で叩いて固める役をものすごく頑張ってます。


 これまでよりも早く、工事が進んでいきます。


 みんな、必死です。


 本当に、みんなクマさんが怖いんですね……。






 人員の集中によって、サイゼラさんの予定よりもかなり早く、第一防壁は完成しました。たぶん、みんなの気持ちが込められた防壁になってるはず。


 高さ4メートル、幅およそ2メートルで、空堀がある部分は堀も合わせて高さ6メートル以上。この高さならクマさんのサイズでも特に問題はないとのこと。クマさんの危険よりも落ちないように安全柵が必要なのでは?


 門のところは高さ5メートルで上に6畳一間くらいのスペースが作られていて、戦う場合はここがメインになるらしいです。投石用の拳大の石とか、たくさん置いてあります。何と戦うつもりなんでしょうね? クマさんに石は通用しない気がするんですけど。まあ、追い払うにはいいのかも。


「……これで安心して眠れる」


 奴隷お母さんの一人が、そんな小さなつぶやきを漏らしていたのが印象的でした。


 中世レベル異世界の防御意識が高過ぎです。もうこれ城とか砦じゃないですかね?


「テッシンさまよぅ、次は第二防壁の方を進めていきてぇんだが……」


 まだ防壁がほしいんですか!?


「第二防壁は、外堀がもう水も入りましたし、とりあえず、明日から、みんなで移動してやりたいことがあるので、そっちを優先させてほしいですね。冬になる前に終わらせておきたいので」


「え? いや、まあ、テッシンさまがそう言うなら、とりあえず、みんなは第一防壁の中で住めばいいんだが」


 後ろの方で、「移動するってどこにだろう?」とか、「せっかく防壁ができたのに……」とか、「また危険なところへ行くのか……」とか、聞こえてくるけど、『身体強化』してなきゃ聞こえないレベルの小さい声なので無視します。






 翌朝、いろいろと荷物を用意して、テントを回収して、みんなで出発します。


「……ゲラドバとは違う方向のような気がするんですが?」


 リムレさんが何かを期待していたようなんですけどね。その期待は裏切りますよ。


「いや、ゲラドバには用事はないですから」


「そんな……」


 なぜか悲壮な顔した奴隷親子とか、サイゼラさんとか、ナラさんとか、開拓者コンビとかを引き連れて、僕とリコはにこにこ顔で話しながら、ピクニック気分で森の奥地へと足を進めていく。


 1日分歩いたら、木を何本か引っこ抜いて、積み重ねただけの簡易防壁を用意して、テント設営。見張りを交代しながら寝ます。リコがマントの中に入ってくるので、いつもの丸太小屋の添い寝よりも密着度がはるかに高くて幸せです。ただし、僕の我慢が限界に近付きつつありますけどね……。


 途中、襲ってきたトラさんは毛皮に、クマさんは毛皮や肉にしながら、5日間の、のんびり旅。


 到着したのは最高の景色の湖です。


「女性陣はかまどの用意を。男性陣は木桶に湖の水を汲んで」


「テッシンさまよぅ、何すんだよ?」


「塩です」


「塩ぉ?」


「まさか……」


 リムレさんが湖に手を突っ込んで、その手をぺろりと舐める。


「……塩辛い水だと? そんなバカな。こんなところに、なんでこんなものが?」


 木桶に汲んだ塩湖の水の中に、塩湖の周辺で結晶化している白っぽい固まりをどんどん投入して、固まりが溶けなくなるまでかき混ぜて、飽和させる。


 それを布で濾して砂などを取り除きつつ土鍋へと移し、土鍋はかまどにかけてひたすら沸騰させる。


「……確かに、塩だな、こりゃ」


「信じられない。近くに岩塩鉱でもあるんだろうか?」


 土鍋の底に残ったものを濾して木桶に戻すと、布には塩の固まりが残る。もちろん、塩以外にも何か入ってるんだろうけど、まあ、ミネラルたっぷりぐらいに思っておく。


「テッシンさま、大発見ですよ、これは! ゲラドバへ報告して……」


「待て待て、リムレ。おめぇ、まだゲラドバの手先のつもりかい?」


「あ、いや、しかし、塩の取引は莫大な利益が……」


「どのみち、テッシンさま抜きで、ゲラドバまでは行けねぇだろ? どうやって取引すんだよ?」


「そうっすよ。キバトラとか、ハイイロヒグマとか、どうするんすか?」


「言っとくが、おれたちじゃ、ぜっったいに無理だからな。モリオオカミの群れでも危ないってのに……」


 リムレさんはサイゼラさんだけでなく、キッチョムさんとナーザさんにも囲まれて、黙らせられる。


「……わ、わかりましたよ」


「おう。それでいい。ま、それはともかく、テッシンさまよい、春には、ここにもちょっとした防壁を用意してぇな。あのへんの木ぃ、引っこ抜いて、小さな村の建設予定地にしようぜ?」


「みなさん、防壁、好きですよね……」


 僕がそう言うと、みんな、顔を見合わせて、それから一斉に僕の方へと振り向いた。


「いや、あんなのと向き合って戦えんのアンタだけだからな!」とナーザさん。


「ハイイロヒグマ1頭で、開拓者が何人死ぬと思ってるんすか!」とキッチョムさん。


「防壁なしでこんな危険地帯で生きられるワケねぇだろ!」とサイゼラさん。


「しなくていいならあんな力仕事は絶対にしませんよっ!」とリムレさん。


 後ろで奴隷ファミリーのみなさんが激しく縦に首を動かしている。


 僕はその勢いに押されて黙り込んだ。


 ……なんだろう。やっぱり、常識が違う?


 とりあえず、3日間、塩湖周辺にキャンプを張って、大量の塩を生産してから、泉のところへと僕たちは戻ったのだった。


 もうすぐ、冬がやってくる。それでも、まだこの異世界に来てから、半年ぐらいしか過ぎていないのが不思議に思えた。


 これってスローライフなのか……?






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― 新着の感想 ―
タイトルだけ「スローライフ」作品と比べたら十分スローライフではないかと思います。
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