14.第二閲覧室
「ここか」
ミミは立った。
第一閲覧室の一階。古く、重厚な扉は、本棚に紛れるようにあった。
「むっ……重いな、このっ」
ミミは扉を押し開けた。鈍い軋み。流れ込む空気は、ひんやりと冷たい。
薄暗闇。
板張りの、廊下。
白漆喰の壁に、疎らな蝋燭が点いている。
「……はぁ。……行くか」
ぎしり。
踏み出せば、床板が軋む。
ミミはゆっくりと、廊下を渡った。
突き当たり。同じような扉が現れた。ミミは鍵を取り出し、差し込んだ。
かちり。
「……お、も、いっ!」
開く。
埃っぽい空気。
強く濃い、インクの匂い。
「……ここだな」
踏み出せば、また、床板が軋む。
板張りの床に、板張りの壁。
飾り気のない天井は、低く、近い。
本棚はミミの胸ほどの高さ。薄暗く、見通しは悪い。
第二閲覧室。打って変わって、質素な姿だった。
ミミは杖剣を両手で握った。ゆっくりと、歩き出した。
ミミが第二閲覧室に至る、前のこと。
アリアは静かに語った。
「第二閲覧室は、広く民衆に開かれた区画でした。外への通用門を持ち、写本を許され、学究ではなく敷衍を目的とした施設でした」
「外」
「今や、どこにも繋がってはいないでしょう。この図書館は、夢のようなのですから。……その鍵は、私達が行き来をする扉のものです」
「従業員通路ということ?」
「いかにも」
アリアは、カウンターから一枚の紙を取り出した。
「これをお持ち下さい」
「何だい?」
破り取られた、ページの一枚。そのような風情の、何事かが書きつけられた紙だった。
「……我らの主が不明となったとき、私達は図書館を保つ備えをしました。蚕食される図書館を繋ぎ止め、支配領域を確保する為の」
文字は、やはりミミには読めない。
けれども、その体裁は。
「『書見台』。それの設置された小部屋は、私達自動人形の支配地でございます。今は断絶して長く、機能を失っていますが、再び動かすことも叶うでしょう」
契約書のようだった。
「図書館を、奪還して下さいませ。……何よりも、せめてミミ様の安息の為に」
そうして、ミミは探索を始めた。薄暗く、足音も軋む第二閲覧室。低い天井、低い本棚。
ミミは、本棚の狭い隙間を歩いていく。
そして、行き当たる。
阻む者。敵手へと。
「……やっぱり、いるんだ……」
ぎちり。
本を開き、インクを舐める、それは。
小さな顎を持つ、人間ほどの大きさの、雌の鍬形だった。
ミミは、腰の後ろの銃剣を少しだけ持ち上げた。重さで弾が入っていることを確かめると、両手を杖剣に添えた。
唇を湿らせる。
周囲を見回す。
鍬形は、通路の先、本棚の隙間でインクを舐めている。見える範囲には、他に何もいない。
……死角が多いな。
胸くらいの、低い本棚。通路を空けて立ち並ぶと、その隙間が見えるのは近くだけ。
ミミは正面に目を戻す。
杖剣を、差し向ける。
「……30-410っ!」
ぎいいっ!
迸る青雷。大きく怯む。
「ぉぉぉぉおおおおっ!!」
ミミは走り込み、杖剣を鍬形の頭部に打ち付けた。
「30-410!」
雷撃、接射。
ぎっ……!
虫はびくりと震え、やがて動かなくなる。
「……」
ミミは周囲を警戒しながら、息を吐いた。
「……兜虫と、大差ないな……?」
銃剣を抜き、虫の腹を叩き割る。溢れるインク。インク壺に満ちていく。
「……ふー……」
ミミはまた、ゆっくりと歩き出す。




