15.第二閲覧室2
ミミは扉を見つけた。
軽く、薄い、木の引き戸。
「……よし」
ミミは安全を確認し、ゆっくりと引き戸を開けた。壁を盾にしながら、そっと覗き込んだ。
低い天井。
薄暗い空間。
強まるインクの匂い。
そして、大きく簡素な机。
空間は広かった。机は、人が擦れ違うのに充分な間隔を取り、並んでいた。
ミミは机の一つに触れた。天板を、ゆっくりと持ち上げた。
天板の裏には、簡単な支柱の構造があった。斜めの角度で、固定することができるような。
「……ここが、写本室なのかな」
ミミはゆっくりと歩き出す。床の軋みを、忍ぶように。
少しして、ミミは足を止めた。
「……ちっ」
ミミは素早く辺りを見回した。安全を確かめると、目を戻した。
鍬形が二匹、屯していた。
ぎち、ぎち。ぺちゃ、ぺちゃ。
二匹は顎を突き合わせ、インクを舐めているようだった。ミミは小さな声で口遊んだ。
「09106-3-0」
ばちり。
杖剣は電熱を帯びる。
ミミは片手で銃剣を抜くと、片手で杖剣を突き付けた。
「……ふー……」
もう一度、周囲を確かめる。
それから、駆け出した。
「30-410!」
ぎいっ!?
雷撃は片方の鍬形を大きく怯ませた。ミミはそこへ銃撃をした。
ぎっ!
鍬形は殴りつけられたように裏返った。ミミは駆ける勢いで、杖剣をもう一方の鍬形に叩きつけた。
「でやあああっ!!」
ぎぢぃ!!
高熱の剣は、虫の殻に大きく食い込んだ。焦げるインクの臭気。
「30-410っ!」
ばぢぃぃぃっ!!
ぎぃ!
虫は大きく震え、倒れ伏した。ミミは裏返った鍬形にも杖剣を突き込み、
「30-410!」
止めを刺した。
ミミが周囲を見回し、一息をついた、その時。
「ふぅ……ん?」
ゆるりと、インクが宙を舞った。
ミミはまだ、二匹の腹を破っていない。ミミは出処を目で探った。
すぐに見つかる。
「これは……」
ひゅるりと、収まったインク。
それは。
「……死んでる」
虫の死骸の、腹から。
三匹目の鍬形。
ミミが殺したものではない、虫の死骸が転がっていた。
「……なら、こいつらは……」
ミミは眉を顰めた。
……共食いとか、気にしないってことか。
銃剣を振り下ろし、二匹の腹を割る。
ミミは、ふと気づいた。
「……いや?」
虫達は、互いに争う様子を見せたことはなかった。少なくとも、これまでの兜虫は。
蝿は小蝿を使い捨てていたが、摂食していたわけではないようだった。
これが異なる例なのか、或いは。
「……誰かが……殺した、のか」
横たわる、三つの死骸。
その前で、ミミは新たな可能性に思いを馳せていた。
「お……」
ミミは目と足を止めた。
写本室の壁際。据え付けの棚に、筆記具が収められていた。
「……貰っちゃって、いいよね……?」
ミミは周囲を見回した。警戒ばかりではなかった。
羽ペンを五つ。
インク壺を一つ。
「これ……使えるのかな」
押し花の栞を、二枚。
万年筆を、一本。
ミミはポケットに入れ、その場を後にした。
ミミは扉を見つけた。
写本室を出て、すぐに上階への階段があった。ミミは階段を登らず、その横を通り過ぎようとして。
「お?」
階段裏の、小さな扉を見つけていた。
……もしかして。
ミミは扉を開けた。細い小道。数歩行けば、小さな部屋。
床に、ただ、置いてあった。
長首の書見台。ミミはゆっくりと歩み寄った。
「……ええと」
取り出した紙片を、載せる。
じわり。
文字が滲んで。
黒いインクが、渦を巻いた。
裏書の紙片
契約書のような体裁の、破り取られた一ページ。書見台に置くことで、機能を回復する。
マクルア・ツェリスが姿を消し、蝕まれゆく図書館において、自動人形達は支配の正当性を証明しようとした。
名を署するべき主もいないままに。




