表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

12.第一閲覧室6 星見の蝿、パトリスク・ネアン

 ミミは囁いた。小さな声。掠れる響き。

「……02-3910」

 ばちり。

 青雷が収束する。

 杖剣を携えて、ミミは踏み入った。

 第一閲覧室。ミミを穢し、侵し、貪った、蝿達の坩堝へ。

 ぶぅぅぅん!ぶん!ぶぅん!

 ぶん!ぶん!ぶぅぅぅ!

「……っ!」

 雲霞の如く、小さな羽虫は群れをなして。きっと、無数の蛆が羽化したのだろう。

 ミミは歯を軋らせた。見開かれた眼は、嫌厭と憎悪に燃えていた。

 杖剣、ベルカナベル35。石英の刀身を持つ短めの直剣。

 『リリリス』と名付けた愛刀を、高く差し上げる。

「2049-30-410──!!」

 狙う先は、巨大な蝿。

 主を穢した怨敵に、天雷が怒号を叩き付けた。


 雷は空気を灼き、小蝿を消し飛ばして、蝿の左目から半身を焼き焦がした。

 じぃぃぃっ!!

 蝿は異音を上げて吹き飛んだ。裂けたような火傷。蝿はミミを見て、翅を震わせた。

 ぶううううん!

 小蝿達が、光輝を纏う。星雲のように煌めく群れから、

 ひぃぃぃん!ひぃぃん!ひぃぃぃん!

 ミミを蝕んだ、流星群。その数は最前の比ではなく。

 ミミは、焼けた掌で杖剣を握った。ゆっくりと詠った。

「091029-21-10」

 ばちり。

 稲光がミミを取り巻いた。蔦の絡むように、細い青電が這い回る。

 それは、迫る流星にも。

 ぢっ!ぢっ!ぢじっ!!ぢぢぢっ!!

 電撃の結界が、ミミを守っていた。

「……ああ、これがさっきあれば……」

 ミミは火に入る小蝿を睨みつけた。それから、蝿に目を戻した。

「絶対、殺すからな」

 杖剣を差し向ける。

「30-410」

 ぎいっ!

 蝿は飛ぶ。逃げようとする。

 じじっ!ぶぶぶぶ……。

 しかし、飛び方はぎこちない。焼けた左側の翅が、上手く動かないようだった。

 ミミは杖剣を少し動かすだけで、狙いを続けることができた。蝿の左半身。火傷の範囲を、執拗なまでに。

「30-410」

 ぎいぃ!

「30-410」

 ぎっ!

「30-410っ!」

 ぎぎぃっ!

 蝿は雷に撃たれ、焼け爛れて墜落した。穢らしいインクが絨毯に染みた。

 ぎぃぃぃっ!

 蝿はおぞましい咆哮を上げた。右の翅を強く羽ばたかせる。

 びいいいいいいいいん!!

 震える音に、小蝿達が集まっていく。光輝を宿し、収束するように。

「……30-410」

 ぢぃぃぃん!!

 渦を巻く星光。雷は散った。眩い星々を従えて、蝿は銀河の輝きを帯びる。

 ひぃぃぃぃぃい──キィィィィィィィン!!

 共鳴は、風を切る音。

 激烈な白光を噴射して、蝿は突進した。

 ミミは、一手。

「……死ねっ!!」

 銃剣を抜き撃つ。迅速な手捌き、二連射されたのは炸裂弾。

 極限の相対速度は、蝿の外殻を無いものとした。体内に潜り込んだ弾頭は、胸部から腹部へ爆風と砕片を撒き散らした。

 どどうっ!

 ほぼ一塊の爆発が起きて、

 ぎびっ!!

 蝿は腹部からインクをぶちまけながら、横様に吹き飛んだ。


 じっ……じじっ……。

「まだ生きてるのか」

 ミミは蝿に近寄った。震える翅。小蝿は突進の際、燃料として消えたらしい。

「……09106-3-0」

 ばちり。

 石英の剣が、青雷を纏う。ミミはそれを、爛れた蝿の左眼に押し付けた。

 ばぢぢぢぢぢ!!

 ぎぃぃぃぃっ!!

 インクの焦げる臭い。翅を震わす蝿の悲鳴。

 ミミは苦悶を与え、眺めていた。

「……」

 笑わず。怒らず。

 やがて蝿が骸になるまで。杖剣を焼き鏝のように押し付けて、見下ろしていた。

 

「……お」

 息絶えた蝿の腹。破れた傷口から、大量のインクが流れ出た。

 黒に近しい濃紺に、星のような煌めきの混ざり込んだ、不思議なインク。

「……おお?」

 中空を舞い、ミミを取り巻き、インク壺に収まる、それは。

 穢い蝿の体液とは思えないほどに、輝かしく美しい。

 夜空色の、インクだった。

「……はあ。けったいな相手だった……ん?」

 潤いをなくした蝿の死骸に、ミミは見つける。

 突き込み、探った剣先に、引っ掛かったもの。

「……鍵だ」

 真鍮でできた、小さな鍵を。




星見のインク

 星見の蝿、パトリスク・ネアンの腹から零れたインク。夜空の星のような、微細な粒子が燦めいている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ