四話
「あの、み、木崎さんから聞きました。ずっと私のこと守ってくれていたんですね」
「木崎と和解したのか」
「はい、お互い色々とすれ違っていたみたいで。木崎さんと和解できたのも元はといえば西園寺さんのおかげです。本当にありがとうございました」
「俺は何もしていない」
「西園寺さんにとっては何でもない事でも、私は本当に助かりました。なにか困ったことや私にできることがあればいつでも言ってください。精一杯頑張ります」
「そうか、なら俺のことを新と呼んでくれないか」
いやいや、何言ってんのこの人。
確かに私にできることはすると言ったが、それとこれではまた別の話だ。
ほぼ初対面のそれも男の人の名前を呼ぶのは、私にはまだハードルが高すぎる。そして、全女子生徒の恨みの籠った視線を受け止められる勇気は流石に持ち合わせていない。
「な、名前はもう少し親しくなってからではだめですか?」
「照れているのか、かわいいな」
誰だこれはーーー女子生徒と一部男子からも、とてつもない人気を誇る天下の風紀委員長様だ。
ただでさえ整っている顔に、何時もの標準装備の無表情ではなく微笑みを浮かべるのはやめてください。破壊力がありすぎます。そして、熱を孕む目で私を見ないでください。
「そ、そんな事いったら、私誤解しちゃいますよー」
「誤解?何を誤解するんだ?」
「あなたが私の事をす、好きなのかと勘違いしてしまいますよ」
「ならば誤解ではない、俺はお前のことが好きだ。初めて会った十年前のあの時からずっと」
「十年前…」
あの、なぜ近づいてくるのですか。なぜ手を握るのですか。
「あぁ、あの時遠くを見つめるお前は儚げで、声をかけたら消えてしまいそうで、あの時俺はただ見ていることしかできなかった。親に呼ばれてその場を離れ、戻った時にはお前が居なくて死ぬほど後悔した」
「……」
遠くを見つめていたのは、ただ前世の記憶を思い出して思考が停止していただけです。儚げだったのは当時食が細く痩せていただけです。私は人間です、声をかけても消えません。西園寺さんはその顔で意外とメルヘン思考なんですね。なぜ頬に手を添えるんですか。近い近い近い近い。
「ずっと探していた。だがいつまでたってもお前に会うことができなかった。もう諦めようとしたときに、お前はまた俺の目の前に現れた。あの時からずっとお前に言いたかった。俺は西園寺新、お前の名前を教えてくれ」
「え?私の名前?知ってますよね」
今の西園寺さんは本当におかしい。熱でもあるのか。私を呼び出したのは西園寺さんだ。あの時名前を呼ばれた。知らないはずがないのに。
「あぁ、知っている。だが、お前の口から聞きたい。あの十年前の時をやり直したいんだ。お願いだお前の名前を教えてくれ、そして俺の名を呼んでくれ」
だから、そんな顔で見ないでください。好きでなくても、あなたのきれいな顔で真剣に見つめられれば顔が熱くなってしまう、低く色気のある声で囁かれれば鼓動が否でも早くなってしまう。
「私の名前はーーー」
この時気付くべきだった。男の言っていることがおかしいことに、一目ぼれだろうと一度しか会ったことのない女を十年も思い続ける男の異常な執着心に…。
「やっと、これから始まる。愛しているーーー」




