15話 順調
美玖が、野営地を振り返ると、木々越しに、確かに寝床作成班の騒ぎが見えた。
歓声だったり、悲鳴だったりが遠くに聞こえる。
何を騒いでいるんだろう?
***
小松蓮【寝床作成班】:説明すると長い
吉田茜【寝床作成班】:長くない!黒田さんが脱ごうとした!
黒田結衣【寝床作成班】:必要だったからだよ。痴女みたいに言わないで。
中村駿【周辺採取班】:何やってんのお前ら?
小松蓮【寝床作成班】:あと一個できたみたい。小川と工藤も騒いでる
朝倉玲奈【火おこし班】:そっちを先に言いなさい。随分小さい三角屋根が見えるけど、何人入れるの?
小川颯太【寝床作成班】:っしゃー!できた!……って、おい!もう言ってたのかよ!
朝倉玲奈【火おこし班】:それで?何人入れるの?
小川颯太【寝床作成班】:3人!
***
「あ、そこの実は何か変。それだけほとんど残ってるのが気になる」
目の前を流れるチャット越しに、美玖は、班員が木の実を採ろうとするのを止める。
その実だけ虫食いも齧った跡もなかった。
でも、もっと気になるのが、その木にところどころ実をもぎ取った跡があること。
「本当だ。毒でもあるのかしら?調べてみる」
柴田さんが異能を使って木や実を観察するのを、美玖は、横から眺める。
「毒にしては……ほら、ここ。ここも。採った跡がある。でも、食い荒らしはない。なんでだろう?」
「綺麗に採られているな。採取した生き物は、手先が相当器用だ」
「これ、人間じゃないかな。ほら、ここ。足跡が残ってる」
西村さんが、木の下の泥濘んだ土を指して言った。
それを引き継いで、原田くんが、また鋭いことを呟いた。
「……つまり、ここまで人は来てるみたいだね。隠れ住むには向かないね」
「そうだね。皆はどう思う?その、魔の森に行くってこと」
「私はいいと思うわ。それと、この実、毒というより、薬効が強すぎるみたいに見えるわ。何の薬効かは残念ながら。使い方もわからないわね。触るのは平気みたい」
柴田さんが木の実を採りながら言う。
皆も手伝いながら、口々に答えてくれた。
「そうか。持って帰って、菅原に保管してもらおう。……それと、俺は方針については、魔物の強さによると思う」
「それはそう!いつまでも先生頼りってわけにもいかないしな!」
「私はちょっと怖い。危険な森なんでしょ?」
「それを言うなら、人間の街だって、私たちにとってはいいところではないわ。騙されて捕まるかもしれないし。魔物の危険の方がわかりやすいんじゃない?」
「それはどうだろうね。ほら、ぼくらは、あの姫様しか知らないからさ。案外、街の人もお城の人も、あの姫様とは違うんじゃないかなあ」
原田くんの言うことにも一理ある。
あの王女様は、もうすっかり苦手だけど、他の人がどうかはわからない。
でも、そのまま確かめるのは、危険すぎるように思えた。
「じゃあ魔の森に行く前に、街の情報も確かめられないかしら?」
「それは危険だ。街入ったら捕まる可能性があるはずだ。もう命令が出ている可能性もある」
「変装できないか?」
「33人で?」
「無理だろ」
「なら、少人数で変装して入れば?」
「残りはどこに隠れるんだ?」
「それは……」
方法の話に広がると、皆押し黙った。
私たちは、戦いや危険について素人ばっかりだ。例え高校で、「変態クラス」なんて呆れられつつも尊敬されるクラスだったとしても。
「結局、今夜決めるんでしょう?」
「まあ、確かに。今決めたってしょうがねえか」
「斎藤、他の班はどうなってるか、わかるか?さっきチャットを見ていただろう」
「えっと、待ってね。今見てみる。……よくわかったね、林くん」
「チャットを見ている時は、目線が忙しく動くからな。よく見ればわかる」
「うへえ。さすが弓バカ。俺、わかんねえ。大体俺ら木の実採りしながら、話してたのにさ。よく見えるよな」
***
山岸智也【寝床作成班】:完成!やっと終わった!
朝倉玲奈【火おこし班】:お疲れ様、山岸くん。あなたの異能すごいわね。この後はうちの班に戻ってくる?
山岸智也【寝床作成班】:いや流石に休憩さして。疲れたー。体バキバキ。
石原航【水場探索班】:こっちも疲れたよ。今戻ってる。水って重いね。
川村悠真【水場探索班】:水場発見!水場発見!水運び中!水運び中!……なあ、これいつまで言えばいいの?
朝倉玲奈【火おこし班】:そうね。もうそろそろ、各班目処がついたところかしら?周辺採取班は?
斎藤美玖【周辺採取班】:あ、こっちも、だいぶ木の実とか採れたよ。すぐ戻るね。
朝倉玲奈【火おこし班】:なら、もういいわね。川村くん、伝達ありがとう。先生に、既読機能と、固定機能をつけてもらわないといけないわね。
***
美玖が顔を上げると、皆チャットを見てるようだった。
確かに、目線が忙しいから、わかる人にはすぐわかるかも。
皆作業が終わったと知って、誰ともなく、野営地の方に歩き出した。




