10話 今夜を越すために
山岸くんの提案を、すぐに委員長が拾った。
「それいいわね。じゃあ、まず今日必要なものは何?」
「水」
「食料」
「寝床」
「安全確認」
「地図というか位置情報」
「怪我した時どうするか」
「あと服とか装備」
「現地人に会った場合の会話」
「いや、服は後回しでいいだろ。とりあえず着てるし。制服だけど」
「そうね。それ以外は要るかしら?」
「要るよ」
「要る」
「要るだろ。けど、後でいい」
「わかったわ。その中なら、今夜までに最低限必要なのは、水、食料、寝床。危機対応だと思う。誰か対応できそうな人いる?」
「まず、水だろ。水さえあれば、結構生きられるって聞いた」
「何処でだよ。まあ、でも同意。で、水どうする?」
「出せる能力ある人?」
「……」
「いない?」
「水属性とかいないの?」
「ゲームじゃねえんだから」
中村くんならではの冗談に、岩城くんがツッコむ。
そこで武田くんが手を挙げた。
「マジ?お前野営向きの能力じゃなかった?水も出せんの?チートじゃん」
「んなわけねえだろ。その能力で、探すだけならできるかもってだけ」
「探すだけなら、私も。植物見て、水の近くかはわかる」
「じゃあ武田と森川で水場探し」
「危険確認に佐伯つける?」
「美玖も行った方がよくない?変な場所分かるんでしょ」
「人数多すぎても動きにくくない?」
「言うて、4人でしょ」
「いや、水場って獣来るって聞くし。この森にも魔物いるかもでしょ」
「それもそうか。なら戦闘向きの奴つけないとなんじゃねえの?」
あんなに進まなかった話し合いが、どんどん進み、美玖は何とか追いかけた。
ふいに、この流れを作った小松くんが、笑った。
「どした?蓮。変なものでも食った?」
「ちげーよ。いや、皆今夜ここで野営する気でいんだなって。街に行って宿屋とかに行かねえの?」
「……いや金ねえし」
「そもそも身分証ないし入れないでしょ、街に」
「この人数なら目立つしな」
「ははは。確かに。でもここも野営を続けたら見つかるよ。街道のすぐ脇だから。
んならさ、明日から魔の森探して行くのも、ありなんじゃね?
ま、皆今夜考えといてよ」
小松の提案に、誰もが黙った。
危険な森らしい。怖い気持ちはある。
でも確かに、魔の森という選択肢も、会議の最初より現実味を帯びてきていた。
「今夜はとりあえずここで野営。明日のことは、今夜寝る前か、明日の朝に、また会議で決めましょう。
それで、話を戻すけど、水はいいとして、他の食料、寝床の確保。危機対応。さらに戦闘。できそうな人はいる?」
「……今まで出た能力だけで整理すると、食料は林くん、小川くん、森川さん。寝床は武田くんと小川くん。危険を見るなら佐伯さんと斎藤さん。戦えるのは、今のところ林くんかな」
黙っていた木下さんが、今まで出た能力を整理する。
そういえば、クラスでも、いつも本読んで、記録係だったな。
「戦闘、林1人じゃん」
「弓ねえから、俺も無理だぞ」
「でも、岩城くんと朝倉さんは戦闘補助になると思う。菅原くんの蔵納も、何をするにしても使える」
「……菅原の能力は、出し方選べるなら、戦闘に使えるんじゃない?石をたくさん入れといて、勢いよく出すとか」
ぼそっと、原田くんがつぶやいた。
「うわ、びっくりした!原田、いきなり喋るな!」
「えー、ぼく喋ったら駄目なのかい?」
理不尽なことを言われた原田くんが、相変わらずのんびりした声で、頬を膨らませる。
「お前いっつもぼんやり黙ってるから、びっくりするんだよ。今も聞いてるのか不安になるくらい、きょろきょろしてたし」
「ちゃんと聞いてるよ。失礼だなー」
「いや、お前が悪いわ。で、今出たやつ以外にできるやついる?」
真帆ちゃん、松本くん、川村くん、奈々ちゃん、柴田さんが手を挙げた。それと、工藤くん。
工藤くんは、おずおずと自信がなさそうにしてる。
「順番に何ができるか教えてくれる?あと、木下さん。あなたもしかしてだけど、会話を記憶できる能力?」
「ん。私の能力は、記憶書庫。私が見聞きした情報を頭の中に正確にしまっておける」
「そうなのね。なら、あなたに引き続き記録係を任せるわ。あと、本や書類を読んだら、同じように記憶できる?
それと、能力あるなし関わらず、今使えそうな知識は読書家なあなたにある?」
「あるよ。今夜この森で野宿するなら、街道から見える場所も、水場の近くも、斜面の近くもだめ。
焚き火が見つかったり、水を飲みに来る獣に襲われたり、崖崩れを起こすかもしれないから。
あと、本や書類は見ただけで、記憶できるようになった。
記録係については、いいよ。引き受ける」
「わかったわ。皆聞いた?今夜はここから離れて、もう少し森の奥に行く。私たちは人も獣も警戒しないと行けないわ。
場所探しは皆でして、さっきのように、武田くん、佐伯さん、斎藤さんに最終確認をしてもらうわ。
それで、さっき手を挙げた……」
「加藤さん、松本くん、川村くん、藤原さん、柴田さんだよ。それと工藤くんも」
「ありがとう、木下さん。その6人は能力を教えてくれる?」
「まず、私から。私の能力は看護眼。相手の体調が感覚的にわかる。怪我や発熱、疲労や脱水まで、あらゆる体の調子が。
ただ、治療まではできない。軽い痛みや消耗を和らげることはできるけど、今欲しいのは、大怪我しても、生き残る力でしょう?」
「いいえ。加藤さんの力もすぐ必要だわ。まさか勝手にその辺のものを口にするのはいないと思うけど、誰かが倒れた時、風邪なのか、毒なのか、疲労なのか、判断できない時は必ずある。
その時、何の症状があるのか、あなたがいればわかるんだから、推測もしやすくなる。ここには、体温計すらないから。
じゃあ、次は?」
「呼ばれた順的には、俺か。俺のはいわゆる身体強化だな。剛体って言って、要は体の耐久性が上がる。
でも、上がるのは筋力、体力とか、衝撃を耐えれるとか、タンク向きの身体強化だな」
「タンク……盾がないわね。今は武器も防具もない。……筋力と体力も上がるなら、植物か水の探索組に入ってもらおうかしら。
なるべく戦闘は避けて、倒木をどかすとか、力仕事を担当してもらいたいわ」
「いいぞ。戦闘を避けるのは、いい判断だな。いつまでも避けてはいられないだろうが、今する必要はない。
探索組は誰だった?木下、教えてくれ」
「探索組……話は出たけど、正式にはまだ決まってないよ。水場を探せるって言ったのは、武田くんと森川さん。森川さんは、植物見れるから、弓の弦の材料も見つける予定だったね。あとは、危険察知に、佐伯さんと、斎藤さんを入れる予定だった。万が一の戦闘要員はまだ決まってなかった。そこに、松本くんが入るんだね。覚えておく」
「ちょっと多いですね。武田くんには、野営地も見つけてもらいたいし。危険察知の佐伯さん、斎藤さんにも」
「危険察知なら俺も多分できるよ。ただ俺は、環境には弱い。魔物とか動物、人間たちの感情を直感的にわかる。大雑把にだけど、敵意とか好意や緊張を感じ取れる」
手を挙げていなかった石原くんが、手を挙げて、そう言った。
「わかったわ、石原くん。あなたには、地形の危険がわかる武田くんと組んでもらうのが1番かもね。
……まず、作業に優先順位をつけましょう。水探し、食料の確保、寝床づくり、野営地探し。どれからやるべきだと思う?皆」
「まず、食料はまだいいとして、水じゃない?」
「寝るところも、最悪なくても、一晩くらいは何とかなる」
「そしたら、命に関わるし、水場探し?」
「ちょっと待って。緊急性を見るために、皆の体調を見てもいいかな?」
早速加藤さんが、看護眼を使わせて欲しいと提案した。
皆から口々に了承の返事が飛んでくる。
彼女は、皆をぐるっと見回して、頷いた。
「水は後でもいいと思う。皆ちょっと疲労はあるけど、差し迫って脱水の危険はないよ。今は気温もそんなに高くないように思うし、太陽の強さもそう強くない。過ごしやすい季節ってやつだね。日本と同じで、秋なのかも……って言うのは、断定できないけど。他にやるべきことがあるなら、数時間水を後回しにしても、大丈夫」
「それ助かる。まず、野営するなら、野営地を探すべきだと思う。日が暮れてから探すのは、足場が見えなくて危ない。寝床作りは置いといて、まだ日が高い今のうちに、今夜過ごす場所を探すべきだ。
あと、野営地を見つけたら、火をおこしたい。今は過ごしやすいけど、夜は冷えるかもしれない。それに、獣避けにもなる」
加藤さんの診断を、武田くんが拾った。
そして、クラス委員長の玲奈ちゃんが、優先順位を決める。
「なら、優先順位は、野営地探し、火おこし、水場探しの順ね。食料探しと寝床作りは、3つが終わった後の状況次第ね。並行して行えるといいけど、役割が被ってる人もいるから。武田くんとかね」
玲奈ちゃんの言葉に、皆が笑う。
確かに武田くんは、今の状況では、すごく頼もしい。




