97 世界樹への道を探して
葉月、絵葉、一葉、風葉、護葉は、途方に暮れていた。
朝から虫たちが冬ごもりしている大空洞についた一行は、早速古地図に描かれている世界樹への古い坑道を探したのだが。
どこにもない。手がかりすら見当たらない。
「この部屋を整えた時も、道なんかなかったぞ」
冬ごもり中の虫たちも心当たりはないようだった。
「おかしいですね。地図ではこの空洞から繋がっているはずなんですが……」
絵葉が、新旧の地図を並べて首を捻っている。
「この古い地図の欠点は高さがわからない事だよね。もしかして、崖の上とか?」
風葉の言葉を葉月が否定した。
「いや、この古い地図は蟻人が描いたものらしい。蟻人が使いやすい位置にある可能性が高い。崖の上の道は、別の色で描かれているだろう?」
そこへ、一面の壁を叩いて調査した葉月が戻ってきた。
空洞がありそうな壁は見当たらなかったらしい。
完全に手詰まりだった。
「まあ、一旦休憩して考えようか」
一葉がみんなに声をかけて、昼食にすることになった。
「おかしい。空洞の気配が全くない。それどころか土の状態も読み取れないなんて初めてだ」
「葉月が先を感じ取れないなんて。土が詰まってる?」
一葉の言葉はすぐに否定された。
「なんかこの空間は、おかしい。特に西側の壁。気持ち悪い」
「葉月がそこまで言うなんて緊急事態だな。仁を呼んで相談するか」
風葉はスッと立ち上がると、風のように走り去った。
あまりの速さに、みんな声を掛けそびれた。
「風葉に追いつけるわけもないし、休憩しながら待とうか」
一葉がのんびりした口調で言った。
何をして待つか相談していると、坑道から「ボーーーボーーーボーーー」と『呼び貝』の低い音が聞こえてきた。
一同が驚いて耳を澄ませていると、さらに遠くから「ボーーーボーーーボーーー」と聞こえ、まもなく風葉が戻ってきた。
「えっ?風葉、呼び貝で呼び出したの?」
「ああ、出かける前に、仁と打ち合わせておいたから。便利だろ?」
風葉はよほど使ってみたかったのだろう。嬉しそうに呼び貝を見せた。
「まあ、のんびりと仁を待とうか。一時間はかからないだろう」
そう言って、水筒を出して飲んでいると、仁よりも先にカエル一族が次々と集まってきた。
「呼んだ?ああ、蟻人たちかい。宴会かな?」
カエルたちは、手に楽器とお酒を持っていた。
「宴会の合図を覚えたんだな。あれは『のーむーぞー』『歌うぞー』だったよね!」
「お誘いありがとう!」
「この冬は楽しいね!一緒に歌おう!」
違うと否定するまもなく、流れるように宴会が始まった。
カエルだけではなく、虫たちも集まってきたのだ。
「断れる雰囲気じゃないな。しようがない。参加するか」
そう言って一葉は、手持ちの食べ物を出し始めた。
「倉庫からお酒とジュースをとってきます!」
絵葉が駆け出し、護葉も追いかけた。
「ごめん、失敗したね。カエルに相談して呼び出し音を決めるべきだった」
「いや、まさか宴会の合図があるなんて思わないよね!」
葉月は笑いが止まらないようだった。
つられて、一葉と風葉も笑い出した。
カエルたちの音楽は、ますます盛り上がりを見せたのだった。
仁が大空洞に着いた頃には、すでにみんな酔っ払っていた。
事情を聞いた守弦も同行していた。
「あー、来たんだ。仁も一緒に飲む?」
お酒好きの葉月と一葉は、すでにかなり飲んだようだ。
「仁ー、あの壁おかしいんだよー。向こうの様子がわからなくて。そんなこと今まで一度もなかったのに!」
そう言いながら、葉月と一葉が仁を引っ張って西側の壁に連れて行く。
絵葉がハラハラした顔をしながら付いてきた。
守弦も、一緒に移動した。
葉月は壁を叩いて説明を始めた。
「ここだよここ。叩いても反応がなくてーっ?あれ?反応がある?私、酔ってる?」
絵葉は、キョロキョロ見回している。
「さっきまでと風景が違います……??」
守弦が手を頭に天を仰いだ。そして、仁だけにそっと囁いた。
「ここ、神様の結界が張られています」
「えっ?ここが保管庫?」
「全然違います。こんなところに結界は、なかったはずなのに……」
「二人で何こそこそ話してるのーー?訳がわからないから、飲もう!」
「お仕事は、明日にしようー」
仁はそっと護葉を呼んで、酔っ払い二人を任せた。
絵葉が、仁に詰め寄った。
「私はシラフです。この壁の事を説明してください。さっきまでと様子が違うんです!」
仁と守弦は顔を見合わせたが、二人とも正確な情報を持っていない。
そもそも絶対的な映像の記憶力を持つ絵葉を誤魔化す事は困難だ。
説明する言葉が見つからず困っていると……
「ヤッホー!今日は蟻人たちも参加しているんだね。珍しい」
軽い調子で現れたのは、神様だった。
仁は守弦と頷きあった。
「神様、ちょうどいいところに。とりあえず神様の部屋に行きましょう」
「え、あ、まあいいけど。守弦と仁と……絵葉も?」
そう言うと、答えも聞かずに、あっという間に転移した。




