92 王国に芽生えた音楽
「糸の張り方で、音が全然違うね」
昨日守弦から貰った竪琴を手に、開発メンバーが集まっていた。
一葉、護葉、結葉、紬葉、そして興味を示した子蟻たちだ。
「竪琴もいいんだけど、同じ形だと開発とは言わないよね」
結葉の言葉にみんな頷く。
「まずは、同じものを作って構造を理解してから、別の楽器を開発する方がいいと思うけど……」
「たしかに……」
さすがモノづくりの専門家。紬葉の意見を採用することにした。
「材料は良くしなる木と糸だけなのよね……」
竪琴を観察していく紬葉に、一葉が聞いてきた情報を伝えた。
「木は中が中空のもの。音が響くようにって言ってた。あと、貰った糸は数種類ある」
「ああ、木を固定する為のしっかりした糸と、音を出す為の糸が複数か。張り方と長さで音を変えているのね」
誰かが糸を弾いてみせると、みんなが一斉に耳を澄ませた。
「よく張ったら高くて、緩いと低い」
「本当ね。じゃあ長さの方は?」
「短いと高くて、長いと低い音」
紬葉が両方を見比べながら首をひねった。
「なるほど。両方で調整するのかな。でもクモは自分で糸を出せるから、弦を張り直すのは簡単そうだけど……私たちには張り方が難しくない?」
そのとき、誰かが「あれ?」と声を上げた。
「左手で糸を触りながら右手で弾いたら音が変わるね」
「本当だわ。これは奥が深い」
子蟻たちも負けじと、次々に気づいたことを口にした。
「長さを変えたら音が変わる!」
「押さえ方でも違う!」
「弾く場所でも違うと思う!」
わいわいと飛び交う意見に、みんな頭を抱えてしまった。
「竪琴を抑えるのも大変」
「クモは八本も手脚があるから良いけど、私たちは二本の手しかないからね。脚で抑えるくらいはできるかなぁ」
「床に立てられないのかな?」
「バランスが難しいけど、持つよりは」
誰かがふと呟いた。
「バランスか……いっその事、一本の木を床に置いて糸を張ったら?」
「それは楽よね。中空の木じゃなくて、箱にしちゃってもいいかも?」
紬葉が言った。
「一回作ってみるわ。でも、どんな音を作ればいいのかわからない」
「たしかに。守弦に教えて貰ってくるよ」
一葉は、竪琴を一つ持つと、立ち上がった。
「お礼にお酒でも持っていこうかな?また宴会になるけど……」
そう言いながら倉庫に寄ると、ちょうど風葉もいた。
「音楽か。一緒に行こうかな」
二人は連れ立って出かけた。
守弦の元に着くと、今日はカエルも来ていた。
すでに二人ともほろ酔いだった。
「お昼を過ぎたばかりなのに、もう宴会?」
一葉は笑いながら、事情を説明した。
「練習曲か。もちろん教えるよ」
守弦は、手際よく竪琴に糸を張ると、ゆっくり弾き出した。
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド
「これが基本の音だな」
ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド
「逆から引いたらこうなる。まずは、ド・レ・ミから」
守弦は、なかなかの教え上手だ。
「上手い」「初めてとは思えない」「いい音だ」「才能あるな」
褒められてその気になった一葉は、どんどん上達していった。
「守弦は天然の女たらしなんだよな」
カエルが横で笑いながら、小さな巻貝の笛を取り出した。
「風葉は、こっちを吹いてみるか?『呼び貝』って言うんだよ」
「これ、前に貰ったから吹いてみたけど、なかなか音が出なくて」
「これを吹くのはコツがいるからな。吹き口を口のちょっと右側に当てて」
風葉が言われた通りに真似をする。
「そしたら、息を吹き込むんじゃなく、口びるで音を鳴らすイメージで音を送り込むんだ」
カエルは、ぼーー!と笛を吹いた。
風葉は苦戦していたが、「その調子、その調子」「練習あるのみ」「ちょっとだけ笛ずらして」
そのうちに、カエルの励ましで、ついに「ぼーーー!」 音が鳴った。
次第に、思うままに鳴らせるようになってきた。
「やった、吹けた!ありがとう」
風葉の言葉に、カエルは笑って言った。
「この呼び貝の笛は、竪琴ほどは音階がないけど、合奏に華を添えられる」
カエルが守弦に合図した。
「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド」
「ボーーーーーーーーホーーーーーー ホーーーーーーーボーーーーーーー」
二つの音が絡み合い、素敵な音楽になる。
「うっとりする音だね」
一葉の言葉に、クモが頭を掻きながら言った。
「子どもの練習曲だよ。歌詞も『みんなで集まり、楽しく歌おう』だぞ」
「いや、カエル族は歌詞が違う。『みんなで集まり、楽しく宴会』だ」
「子どもの練習曲に宴会って、ダメだろう!」
「いや、酒はダメだけど、子どもも宴会は楽しいだろ。歌って踊るんだぞ」
カエルと守弦の掛け合いに、みんな大笑いした。
「二人とも筋がいい。楽器はプレゼントするから練習して。いつか一緒に演奏しよう」
カエルが言った言葉に、風葉は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。大事にする」
もちろんこの後も、一緒に飲もうと誘われたが、
「忘れないうちに、帰ってみんなに教えるから」
後ろ髪は引かれたが、丁重にお断りした。
「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド」
「ボーーーーーーーーホーーーーーー ホーーーーーーーボーーーーーーー」
巣に帰り、食堂で二人で練習していると、わらわらと子蟻たちが集まってきた。
「すごいね、風葉。私もその貝吹きたい」
「私は竪琴鳴らしたい」
「もっと弾いて」
そのうちに、蜜葉乃や仁、竪琴の開発メンバーも集まった。
思い思いに、竪琴を鳴らしたり、呼び貝を試したり、口ずさんだり。
だんだんと手拍子脚拍子も加わっていった。
賑やかに夜が更けていく。
「素敵ね。今日は王国に音楽が誕生した日だわ」
蜜葉乃が嬉しそうに見つめていた。
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仁の日誌
クモとカエルの協力で、王国に楽器がもたらされた。
蟻人の体に合わせた楽器も開発中。
音楽としても素晴らしいが、「呼び貝」は、その名の通り遠い場所への連絡にも有用なのではないか、要検討。
冬でも他種族との交流が途絶えないのは素晴らしいが、お酒の消費量については要注意。




