90 冬も色々あるんです
パーティの翌日、仁は結葉と双葉、紬葉を女王室に呼び出した。
蜜乃葉も同席した。
「双葉、菌糸マットの進捗状況はいかがですか?」
「実用化できたと言っても良いと思うよ。室内では成功。青い池でも成功したことから、湿度が保てるところなら問題ないと言える。荒地は、春を待つ感じだね。世界樹の地下の根っこは、変わりないけど、ちょっとだけ良くなってる気もする」
「そうですか。では、世界樹の根っこ以外はどうですか?」
「いや、根っこ以外は第二出入り口にある枝?……そうだ。女王さまの椅子か。これも世界樹の枝だね」
みんながアッと驚いた顔をした。
「双葉が言うなら間違い無いんでしょう。現状、この椅子に座ると癒し効果があると私は確信しているのですが、いかがでしょう?
「そうね。私も同意するわ」
蜜葉乃も頷いた。
双葉の目が光った。
「ここからは、神様から聞いた話です。他言無用。誰かに話すときは必ず相談を」
皆が真剣な顔をして頷いた。
「ずいぶん昔この地で、地中の虫に奇病が流行ったそうです」
「ええ、体から綿が出てきて死に至る病気と聞きました」
結葉が頷いた。
「その時、『世界樹の実』を食べさせたら病気が悪化したそうです」
「病気が悪化したってどういうこと?世界樹の実って言うからには、なんでも治してくれそうなのに」
双葉の言葉に、仁が続けた。
「ええ、神様の言葉をそのまま伝えるなら『「世界樹の実は食べた者を元気にしてくれる。手足がもげても治るくらいにね』だそうです。
「ならなぜ!」
「『世界樹は悪い虫や菌も元気にしてしまうことがある』とも」
「あー、キノコが元気になるんだから、他のものも可能性はあるね。キノコだって、毒キノコといいキノコを世界樹が見分けているわけじゃない」
「その通りなんだと思います。私たちにとって毒でも、他の生物には益なこともありますから」
紬葉も頷いた。
「大きさも関係ないでしょうね。世界樹から見たら私たち蟻人も病気の菌も小さな生き物でしょう……」
結葉も納得したようだ。
「世界樹が、どこまでを『生き物』と認識しているかもわからないですからね」
仁は続けた。
「そこで菌糸マットや女王さまの椅子の話です。神様は今までその奇病に、『実を食べさせたらいけない』と思っていたそうです。でも、菌糸マットは混ぜてるだけ、椅子は座るだけで効果がある」
双葉が怯えた顔をした。
「まさか世界樹が害になるの?」
「いいえ、その判断は時期尚早でしょう。今現在、世界樹からは恩恵しか受けていない。ただ、過去の病気の解明は全くなされていません」
仁は一旦言葉を切って、みんなを見回した。
「どうすればいいのかはわかりません。ただ、研究を進めておく必要はあるでしょう。研究班でいかがですか?」
すると双葉が珍しくキッパリと言った。
「いや、根幹の部分は私が研究する。これはあまり漏らすべき情報じゃない。もちろん素材や情報集めは手伝って欲しいが……」
「そうですね。本葉は今、クモの糸紙の開発に夢中です。私もそちらを手伝う約束をしていますから、当面双葉に任せます。もちろん手伝いはします」
紬葉も、異論がないようだ。
皆が頷いて、決定となった。
結葉が手を挙げた。
「クモの糸紙って何?」
みんなも首を振った。紬葉が笑って答えた。
「クモの糸紙っていうか、白いクモの糸を細かく織って布にしたものに絵を描きたいって、絵葉がいい出して」
「絵ですか?」
「クモの門番に、地下の地図を借りたでしょう。その地図がクモの糸で編まれたものに書かれていたんです。すごく昔の物なのに、丈夫で変色もなくて」
仁は、神様の部屋の絵を思い出していた。あれも描いたばかりのように美しかった。
「それで、冬の時期に絵葉、本葉、彩葉と私で、クモの糸紙とインク、その他絵を描く道具を開発しようって約束してるんです」
「素晴らしいわね。とても良いと思うわ」
結葉は賛成した後、言いにくそうに口を開いた。
「実は昨日、カエルの演奏会を聴いて、蟻人も楽器作ろうって盛り上がっちゃって……ほら、糸をピンって張って弾くと音が出るでしょ?あれを開発しようって一葉と護葉と決めちゃったのよね」
「良いんじゃない?結葉も頑張って」
「そんな他人事みたいに言わないで。紬葉は開発メンバーに入れといたから!」
「えっ?聞いてないんだけど」
「今言ったから!」
みんなの笑いが広がった。
「紬葉は器用だから、引く手数多ですね。みんな頑張ってね。楽しみだわ」
蜜葉乃もニコニコ笑っている。
「そういえば、もらったまま忘れていました」
そう言って仁が取り出したのは、カエルから貰った巻貝の殻だった。
結葉が試しに息を吹き込んでみると、低くて細い音が微かに鳴った。
みんな手に取って、それぞれ吹いている。
音を出すのは、なかなか難しいようだ。
練習が必要なのだろう。
「色々な楽器ができそうね」
「蜜葉乃さまは、歌いませんか?綺麗な声ですもの!」
「あら、私?それも楽しそうね」
「でも、プロジェクトがどんどん大きくなりますね。これは他のメンバーも巻き込まないと、いくら冬があっても終わりません。明日、みんなを集めて希望者を募ってみましょう」
仁が締め括った。
ーーーーーーーーー
仁の日誌
奇病の対策研究は、双葉が引き受けてくれた。
彼女なら、手がかりを見つけていつか解明してくれると信じている。
その他にも、絵を描くための道具開発プロジェクトや、楽器制作もプロジェクトも進行している模様。
お酒の開発も進んでいる。
この冬は賑やかになりそうだ。




