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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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90/130

90 冬も色々あるんです

 パーティの翌日、仁は結葉と双葉、紬葉を女王室に呼び出した。

 蜜乃葉も同席した。


「双葉、菌糸マットの進捗状況はいかがですか?」

「実用化できたと言っても良いと思うよ。室内では成功。青い池でも成功したことから、湿度が保てるところなら問題ないと言える。荒地は、春を待つ感じだね。世界樹の地下の根っこは、変わりないけど、ちょっとだけ良くなってる気もする」

「そうですか。では、世界樹の根っこ以外はどうですか?」

「いや、根っこ以外は第二出入り口にある枝?……そうだ。女王さまの椅子か。これも世界樹の枝だね」


 みんながアッと驚いた顔をした。

「双葉が言うなら間違い無いんでしょう。現状、この椅子に座ると癒し効果があると私は確信しているのですが、いかがでしょう?

「そうね。私も同意するわ」

 蜜葉乃も頷いた。

 双葉の目が光った。


「ここからは、神様から聞いた話です。他言無用。誰かに話すときは必ず相談を」

 皆が真剣な顔をして頷いた。


「ずいぶん昔この地で、地中の虫に奇病が流行ったそうです」

「ええ、体から綿が出てきて死に至る病気と聞きました」

 結葉が頷いた。


「その時、『世界樹の実』を食べさせたら病気が悪化したそうです」

「病気が悪化したってどういうこと?世界樹の実って言うからには、なんでも治してくれそうなのに」

 双葉の言葉に、仁が続けた。

「ええ、神様の言葉をそのまま伝えるなら『「世界樹の実は食べた者を元気にしてくれる。手足がもげても治るくらいにね』だそうです。

「ならなぜ!」


「『世界樹は悪い虫や菌も元気にしてしまうことがある』とも」

「あー、キノコが元気になるんだから、他のものも可能性はあるね。キノコだって、毒キノコといいキノコを世界樹が見分けているわけじゃない」

「その通りなんだと思います。私たちにとって毒でも、他の生物には益なこともありますから」

 紬葉も頷いた。

「大きさも関係ないでしょうね。世界樹から見たら私たち蟻人も病気の菌も小さな生き物でしょう……」

 結葉も納得したようだ。

「世界樹が、どこまでを『生き物』と認識しているかもわからないですからね」


 仁は続けた。

「そこで菌糸マットや女王さまの椅子の話です。神様は今までその奇病に、『実を食べさせたらいけない』と思っていたそうです。でも、菌糸マットは混ぜてるだけ、椅子は座るだけで効果がある」

 双葉が怯えた顔をした。

「まさか世界樹が害になるの?」


「いいえ、その判断は時期尚早でしょう。今現在、世界樹からは恩恵しか受けていない。ただ、過去の病気の解明は全くなされていません」

 仁は一旦言葉を切って、みんなを見回した。

「どうすればいいのかはわかりません。ただ、研究を進めておく必要はあるでしょう。研究班でいかがですか?」


 すると双葉が珍しくキッパリと言った。

「いや、根幹の部分は私が研究する。これはあまり漏らすべき情報じゃない。もちろん素材や情報集めは手伝って欲しいが……」

「そうですね。本葉は今、クモの糸紙の開発に夢中です。私もそちらを手伝う約束をしていますから、当面双葉に任せます。もちろん手伝いはします」

 紬葉も、異論がないようだ。

 皆が頷いて、決定となった。


 結葉が手を挙げた。

「クモの糸紙って何?」

 みんなも首を振った。紬葉が笑って答えた。

「クモの糸紙っていうか、白いクモの糸を細かく織って布にしたものに絵を描きたいって、絵葉がいい出して」

「絵ですか?」

「クモの門番に、地下の地図を借りたでしょう。その地図がクモの糸で編まれたものに書かれていたんです。すごく昔の物なのに、丈夫で変色もなくて」

 仁は、神様の部屋の絵を思い出していた。あれも描いたばかりのように美しかった。


「それで、冬の時期に絵葉、本葉、彩葉と私で、クモの糸紙とインク、その他絵を描く道具を開発しようって約束してるんです」


「素晴らしいわね。とても良いと思うわ」

 結葉は賛成した後、言いにくそうに口を開いた。

「実は昨日、カエルの演奏会を聴いて、蟻人も楽器作ろうって盛り上がっちゃって……ほら、糸をピンって張って弾くと音が出るでしょ?あれを開発しようって一葉と護葉と決めちゃったのよね」


「良いんじゃない?結葉も頑張って」

「そんな他人事みたいに言わないで。紬葉は開発メンバーに入れといたから!」

「えっ?聞いてないんだけど」

「今言ったから!」


 みんなの笑いが広がった。

「紬葉は器用だから、引く手数多ですね。みんな頑張ってね。楽しみだわ」

 蜜葉乃もニコニコ笑っている。


「そういえば、もらったまま忘れていました」

 そう言って仁が取り出したのは、カエルから貰った巻貝の殻だった。


 結葉が試しに息を吹き込んでみると、低くて細い音が微かに鳴った。

 みんな手に取って、それぞれ吹いている。

 音を出すのは、なかなか難しいようだ。

 練習が必要なのだろう。


「色々な楽器ができそうね」

「蜜葉乃さまは、歌いませんか?綺麗な声ですもの!」

「あら、私?それも楽しそうね」


「でも、プロジェクトがどんどん大きくなりますね。これは他のメンバーも巻き込まないと、いくら冬があっても終わりません。明日、みんなを集めて希望者を募ってみましょう」

 仁が締め括った。


 ーーーーーーーーー

 仁の日誌


 奇病の対策研究は、双葉が引き受けてくれた。

 彼女なら、手がかりを見つけていつか解明してくれると信じている。


 その他にも、絵を描くための道具開発プロジェクトや、楽器制作もプロジェクトも進行している模様。

 お酒の開発も進んでいる。


 この冬は賑やかになりそうだ。

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