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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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88/130

88 賑やかな隣人たち

 今期初めての雪が、大地にうっすらと積もった。

 蟻人たちの生活は、すっかり地下に移った。


 去年の冬は、巣の中でゆっくり過ごしたが、今年は様子が違う。


 秋の大豊作の片付けがまだまだ終わっていないし。

 みんな酒造りに夢中だし。

 巣の配置の再編に合わせて、工事が急ピッチで進んでいるし。

 しかも地下に、近隣の虫たちが集まって冬ごもりしている。


「全然冬ごもりって気がしない。忙しすぎる」

 温厚な結葉も、我慢の限界が来そうだった。


 そんな昼下がり、更なる知らせが結葉の下に届いた。

「なんだか、たね広場の道の奥から、大騒ぎが聞こえてくるって……」

 伝令の子蟻によると「奥が朝から賑やかだったけど、楽器みたいな音や大きな声が響いてくる」と、たね広場の採集に行ったメンバーから知らされた。急遽、護葉と一葉が様子を見に行ったらしい。


 奥って……地下水路への小道か、虫たちが冬ごもりしてる部屋?

 二人が向かったなら報告を待とう……

 結葉は黙々と、仕事を片付けていった。

 やがて仁もやってきて、二人で巣の再編計画について話を進めた。


 数時間後、次の伝令がやってきた。

「仁と結葉も来て欲しいって、一葉が呼んでるよ」


「……わかりました」

 忙しいのに……ため息を飲み込んで、結葉は仁と一緒にたね広場の道を南に急いだ。


 最初の驚きは、水路と接続した小道でだ。クモが警備してくれている空間でもある。

「この道、見た事ないんですけど……」

 結葉の言葉に、クモが申し訳なさそうに言った。

「すまない。カエルたちが遠回りで不便だから道を掘るって聞かなくて……大勢で一気に掘るものだから止められなかった……」

「……いいえ、ここは蟻人の巣の範囲ではありません。皆さんが掘るのを止める理由はありません」


 仁が壁や天井を調べていたが、やがて納得したようだ。

「強度に不安はありませんね。カエルも、掘るのが上手い」


 まあ、崩れそうって言われるよりは良いんですけど……

 二人は、新たな坑道を通って奥に急いだ。

 新しいルートは、確かに早かった。

 直線で地下水路と冬ごもりの部屋を繋いだようだ。



 部屋に近づくにつれ、賑やかな音楽や笑い声が響いてきた。

 中には、たくさんの虫やカエルが集まっていた。

 空洞は見事に整えられ、集会所になっていた。


「ようこそ!よくきたね!今日は楽しもう!」

 タマムシ夫婦が駆け寄ってきた。

「どうだい?みんなで改装したんだよ。崖の上は寝る場所。崖の下は集会所にしたんだ。今日は完成祝い兼、引越しパーティなんだ」

「これから、お隣さんなのですから、よろしくお願いします!」

「さあさあ、座って一緒に飲もう!」

「みんな無礼講だよ!」


 あっという間に仁と結葉も、輪の中に招き入れられた。

 カエルたちが笛を吹き、太鼓を鳴らし、歌って踊っている。

 周りで虫たちもお酒を飲んだり、食べたり、一緒に踊ったり。

 よく見ると、真ん中で踊ってるのって……

「「神様!?」」

 仁は頭を抱えていた。

 神様も、こちらに気づいたようで、飲み物を持って近付いてきた。


「よくきたね!お酒をどうぞ!」

 受け取って飲んだお酒は……

「これって仙桃酒ですよね?」

 仁が神様に詰め寄っている。

「まあまあ、固いこと言わずに。体に良いし美味しいよ!」


 仙桃酒って何だろう。そう思いながら恐る恐る飲むと、キャンプで神様がくれたジュースの味がした。桃のお酒ね。美味しい。また飲めると思わなかった!

「美味しいです!おかわり!」

 結葉は、嬉しくなった。


 美味しいお酒、陽気な音楽。たくさんの隣人たち。

 何だか気分が高揚して、疲れも飛んでいく気がする。

「私も踊ってきます!」

 タマムシの奥さんが嬉しそうに手を取って、踊りの輪の中に引っ張っていってくれる。


 みんなに合わせて踊っていると、いつのまにか真ん中で踊っていた。

 順番に虫やカエルたちが、手を取ってくれて、リードしてくれる。

 飛び跳ねて、回って、手を叩いて。また回って。


 疲れると椅子に座って仙桃酒を飲んだ。

 見回すと、一葉と護葉も踊っていた。

 仁は……神様と話しているね。

 楽しい夜が更けて行った。


 やがて静かな切ない曲の演奏が始まった。

 銀色の横笛から奏でられる高い音色は、しんみりして切なげで、それでもなんだか心が温かくなった。

 一匹のカエルが歌う。

 時に静かに。時に情熱的に。



 荒れし水路に 倒れしを

 助け出したる その時に

 なぜか目を そらせざり

 これは何かと 惑いたり



 好きですと 迷いなく言う

 君の心が まぶしくて

 近づくなと 拒みしは

 傷つくことを 恐れたから



 幾たびも 側にあれば

 凍てし心も 解けてゆく

 共に生きんと 誓う夜

 恐れは失せて 想いのみ



 共に在りし 想い出の日々

 授かりし身よ いとおしく

 笛の調べに 永遠の想いを

 命果てても 貴方のかたわれ



 素敵なカエルの恋物語だった。

 それまでの賑わいが嘘のように、みんな静かに聴き入っていた。


 曲が終わり、歌い手と吹き手が頭を下げると、盛大な拍手が湧き起こった。

 そして楽しい隣人たちとのパーティは終わった。

「また飲みましょう!」

「冬は長い」

 タマムシ夫婦に見送られて、幸せな気持ちで巣に帰ったのだった。

 仁は先に帰ったみたい。


 明日からも、頑張ろう。

 素直にそう思えた結葉だった。










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