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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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87/130

87 植える場所を探して

 仁から仙桃を受け取った双葉は、早速お酒を作った。

 優しく皮を剥き、実をつぶすと、果汁が溢れた。丁寧に最後の一滴まで集めた後、皮も一緒に容器に詰めた。

 一口だけ、と味見をした果汁はこの世のものとは思えない美味しさだった。

「ジュースでこれだけ美味しいんだもの。お酒も美味しくなるに決まってるよね」

 そう呟くと残った種が目に入った。


「この種って、植えたら木になるんじゃない?」

 数えてみると七粒あった。

 双葉はしばらく考えていたが、やがて種を運び始めた。急いで研究室に戻ると菌糸マットを抱えて、種と共に荷車に乗せた。

 そうして山積みの荷車を引っ張りながら、第二出入り口から飛び出した。


「ちょっと双葉、一人でどこに行く気?」

 採集からちょうど戻ってきた風葉だ。


「ちょっと桃の種を植えようと思って」

「種を?もう寒くなりかけているのに?」

 風葉は怪訝な顔で訊ねた。


「この種は今、土に埋めて欲しいって言ってるんだよ」

「種が?」

「種が」

「……まあ双葉がそう言うなら間違いないんだろ。付き合うよ」

 そう言って風葉は急いで自分の荷物を置きに行き、戻ってきた。

 そして二人で荷車を引き、歩き始めた。


 秋はすっかり深まり、時折冷たい風が吹き抜ける。冬はもうそこまできているようだ。

 二人はズンズン歩いて行った。


「ところで双葉、どの辺に植えるの?」

「どこだろう?」

「......えっ、無計画?さすが双葉」

 風葉が笑い出した。

「無計画ではないよ。種に聞いてみるから」

 そう言うと、種を一つ取り出して握った。


「うーん。水からは離れていて、岩はあってもいいけど乾燥気味の土がたっぷりあって、日当たりの良い斜面が好きって言ってるみたい」

「うーん、青い池の方は水が多い、あんまり世界樹に近づきすぎても根っこが多い。あそこがいいかなぁ」

 風葉はしばらく思案していたが、南に向かって歩き出した。


 やがて斜面に着いた。巣から南西方向、ちょうどタマムシたちが冬ごもりをする空洞に近い場所だ。

 白く石灰岩が出ている斜面の横に、緩やかで日当たりが良く土の溜まった場所が見つかった。

 二人は頷くと、まずは一粒づつ抱えて斜面を降りた。

 慎重に種を置くと、それぞれ植える場所を掘った。

 浅すぎず、深すぎず。

 種を入れたら優しく土をかけて固め、表面に菌糸シートを植え付ける。最後に水をかけた。


「種が大きくて、思ったより大変」

 植え終わった風葉が斜面を登っていると、後から双葉も戻ってきた。

「もう一回だな」

 風葉の言葉に、双葉が首を振った。


「結構大きくなるから離して植えてね、って伝わってくる」

「注文が多い種だな」

「枝を広げる場所が欲しいんだって」

「それで何粒植えるんだ?」

「全部で7粒」


 種の希望通りの場所を探しては、植えて回った。

 ここは一粒、ここは二粒と。

 秋が深まり日暮はずいぶん早くなっている。

 気がつくと辺りが薄暗くなり始め、風はますます冷たくなっていた。


「後一粒。どこが良いかなぁ」

「これ以上は危険だ。今日はもう帰る。別の日に出直そう」

 双葉は渋っていたが、地上の事は風葉が専門だ。仕方なく頷くと巣に向かって足早に進んだ。


 巣に着いたのは、太陽が地平線にくっつく間際。


 出入り口では二人を心配した仁も出てきていた。

 二人の姿を見つけて、仁がホッとしたように駆けてきた。

「言いたい事は沢山ありますが、まずは巣に帰りましょう」


 双葉が頷いて、荷車から最後の種をそっと持ち上げた。

 その時。

 種が双葉の手から離れてコロコロ転がり、巣の第二出入り口から三メートルほどの所で止まった。

「えっ……今、種が自分で動いた?」

「どうしたんだ?」

「なんでもないよ。ここが良いって言ってる気がする」

 双葉はそう言うなり、種を埋める穴を掘り始めた。仁と風葉も慌てて手伝った。


 掘った穴に種を埋め、土をかけて菌糸マットを植え付ける。水を与えると双葉が満足そうに触覚を振った。

「あんまり大きくはならないけど、特別美味しい実を付けるから楽しみに待っててね、だって」

 双葉がそう言うなら、きっと上手く育つ。

 不思議な気持ちを抱えたまま、夜の帷から逃れるように、急ぎ脚で巣に戻って行った。


 ーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 双葉に仙桃のお酒を頼んだところ、種が大地に還りたいと訴えたらしい。

 天の植物を地上に植えても良いのでしょうか。


 双葉の能力は、本当に未知数だ。

 最近能力が上がっているように思う。

 木が無事に育つ事を祈る











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