87 植える場所を探して
仁から仙桃を受け取った双葉は、早速お酒を作った。
優しく皮を剥き、実をつぶすと、果汁が溢れた。丁寧に最後の一滴まで集めた後、皮も一緒に容器に詰めた。
一口だけ、と味見をした果汁はこの世のものとは思えない美味しさだった。
「ジュースでこれだけ美味しいんだもの。お酒も美味しくなるに決まってるよね」
そう呟くと残った種が目に入った。
「この種って、植えたら木になるんじゃない?」
数えてみると七粒あった。
双葉はしばらく考えていたが、やがて種を運び始めた。急いで研究室に戻ると菌糸マットを抱えて、種と共に荷車に乗せた。
そうして山積みの荷車を引っ張りながら、第二出入り口から飛び出した。
「ちょっと双葉、一人でどこに行く気?」
採集からちょうど戻ってきた風葉だ。
「ちょっと桃の種を植えようと思って」
「種を?もう寒くなりかけているのに?」
風葉は怪訝な顔で訊ねた。
「この種は今、土に埋めて欲しいって言ってるんだよ」
「種が?」
「種が」
「……まあ双葉がそう言うなら間違いないんだろ。付き合うよ」
そう言って風葉は急いで自分の荷物を置きに行き、戻ってきた。
そして二人で荷車を引き、歩き始めた。
秋はすっかり深まり、時折冷たい風が吹き抜ける。冬はもうそこまできているようだ。
二人はズンズン歩いて行った。
「ところで双葉、どの辺に植えるの?」
「どこだろう?」
「......えっ、無計画?さすが双葉」
風葉が笑い出した。
「無計画ではないよ。種に聞いてみるから」
そう言うと、種を一つ取り出して握った。
「うーん。水からは離れていて、岩はあってもいいけど乾燥気味の土がたっぷりあって、日当たりの良い斜面が好きって言ってるみたい」
「うーん、青い池の方は水が多い、あんまり世界樹に近づきすぎても根っこが多い。あそこがいいかなぁ」
風葉はしばらく思案していたが、南に向かって歩き出した。
やがて斜面に着いた。巣から南西方向、ちょうどタマムシたちが冬ごもりをする空洞に近い場所だ。
白く石灰岩が出ている斜面の横に、緩やかで日当たりが良く土の溜まった場所が見つかった。
二人は頷くと、まずは一粒づつ抱えて斜面を降りた。
慎重に種を置くと、それぞれ植える場所を掘った。
浅すぎず、深すぎず。
種を入れたら優しく土をかけて固め、表面に菌糸シートを植え付ける。最後に水をかけた。
「種が大きくて、思ったより大変」
植え終わった風葉が斜面を登っていると、後から双葉も戻ってきた。
「もう一回だな」
風葉の言葉に、双葉が首を振った。
「結構大きくなるから離して植えてね、って伝わってくる」
「注文が多い種だな」
「枝を広げる場所が欲しいんだって」
「それで何粒植えるんだ?」
「全部で7粒」
種の希望通りの場所を探しては、植えて回った。
ここは一粒、ここは二粒と。
秋が深まり日暮はずいぶん早くなっている。
気がつくと辺りが薄暗くなり始め、風はますます冷たくなっていた。
「後一粒。どこが良いかなぁ」
「これ以上は危険だ。今日はもう帰る。別の日に出直そう」
双葉は渋っていたが、地上の事は風葉が専門だ。仕方なく頷くと巣に向かって足早に進んだ。
巣に着いたのは、太陽が地平線にくっつく間際。
出入り口では二人を心配した仁も出てきていた。
二人の姿を見つけて、仁がホッとしたように駆けてきた。
「言いたい事は沢山ありますが、まずは巣に帰りましょう」
双葉が頷いて、荷車から最後の種をそっと持ち上げた。
その時。
種が双葉の手から離れてコロコロ転がり、巣の第二出入り口から三メートルほどの所で止まった。
「えっ……今、種が自分で動いた?」
「どうしたんだ?」
「なんでもないよ。ここが良いって言ってる気がする」
双葉はそう言うなり、種を埋める穴を掘り始めた。仁と風葉も慌てて手伝った。
掘った穴に種を埋め、土をかけて菌糸マットを植え付ける。水を与えると双葉が満足そうに触覚を振った。
「あんまり大きくはならないけど、特別美味しい実を付けるから楽しみに待っててね、だって」
双葉がそう言うなら、きっと上手く育つ。
不思議な気持ちを抱えたまま、夜の帷から逃れるように、急ぎ脚で巣に戻って行った。
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仁の日誌
双葉に仙桃のお酒を頼んだところ、種が大地に還りたいと訴えたらしい。
天の植物を地上に植えても良いのでしょうか。
双葉の能力は、本当に未知数だ。
最近能力が上がっているように思う。
木が無事に育つ事を祈る




