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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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85/130

85 みんなの冬じたく

 足早に巣に戻った仁、一葉、葉月の三人は、まず結葉と護葉、絵葉を呼んでから女王室に向かった。


 女王室でクモの地図をゆっくり丁寧に広げた。

 それは古いが立派な巻物で、それぞれに感嘆の声を上げた。

「なんと詳細な」

「張り巡らされた坑道?」

「こんなところに、地下水路の出入り口が?」

「坑道って世界樹まで続いているの?」

「美しくて滑らかな紙!クモの糸でできてるのでしょうか?」


 クモから借り受けた古の地図は、艶やかで柔らかく、インクの掠れもない。

 世界樹一帯の坑道が精緻に書き込まれており、水路や地上との接続口も記されていた。


 これを見ると、現在発見されて使っている坑道が、全体のほんの一部でしかないことがわかる。

 中でも、巣から西に伸びて泉の広場へ至る道は、そのまま真っ直ぐに世界樹まで繋がっていた。

 蜜葉乃の巣は、張り巡らされた坑道の東の端に存在するようだ。


「今でもすべての道が残っているかはわからないけど……」

 葉月の言葉に、絵葉も同意した。

「そうですね。泉の広場周辺はかなり調査済みです。この道は崩落を確認していますし、ここは先日の水没時に塞ぎました」


 皆で地図に見入っていたが、仁が気を取り直して言った。

「詳細は今後調査するとして、今回は水路との出入り口の確認と、巣の防衛を話し合いましょう」

「そうですね。すでに他種族が空洞での冬籠りを決めたのでしょう?」

 蜜葉乃も頷いた。


「今のメンバーが、王国に何かするわけはないと思うけど、今後誰が来るかはわからないからね。青い池が復活して以来、地上は住人が急増しているんだ」

「一葉の情報網は、今後ますます重要になりますね」

 仁が少し考え込んでいた。


「水路との出入り口が、キノコ洞窟の脇と、こっちは泉の広場の真下か……」

 葉月が地図を辿った。

 絵葉も、自分の地図を並べて確認しながら言った。

「間違いないですね。青い池に真っ直ぐ繋がってます」

「まあ、あれだけの水が流れているんだから、地下に川があるのは当たり前だな。絵葉が予想した通りだったか」

 葉月は、泉の広場の周辺を指差した。

「ここの出入り口は、マズイな。この一帯に倉庫街を作ったばかりだ」


 結葉も大きく頷いた。

「ここに、ほとんどの物資が集まっています。今後はどこか分散させることも考えなくては危険ですね」

「この地図を見てしまうと、我々の防衛がいかに穴だらけなのかを思い知らされる……」

 護葉が頭を抱えて言った。


 深刻な空気が立ち込める中、一葉が手を上げた。

「でもさ、今は味方もたくさんいる。南側は、クモや空洞にいるタマムシを信頼していいんじゃない?水路も工事で協力したメンバーがたくさん住んでる。頼っていいと思うよ」


「たしかに……」

 部屋の空気が和らいだ。


「疑って警戒に力を入れるよりも、今は味方を増やして協力する方が良いですね」

 蜜葉乃が言う言葉に、皆が頷いた。


 結葉が話をまとめた。

「南側の警備は、クモにお願いしましょう。たね広場より南側は、巣の範囲外ということでいいのではないでしょうか?」

「たね広場も、いろんなものが吹き込んで来るということは、穴が空いてる。侵入を防げないね」

 葉月が言った。

「そうです。そのかわり、この道の防衛ラインを、現在の位置より南側に移動します。『泉通り倉庫』を守る形で護衛室を新設しましょう」

「たね広場よりも北、泉通りの倉庫よりも南の位置ね。了解」

 葉月と絵葉が顔を見合わせ頷いた。


「同じく、根っこのジャングルやキノコの洞窟も、侵入を防げないでしょう。巣から西に伸びる道との合流地点に、小さ目の警備室を一つ」

「そうだね。この経路は道も狭いので、侵入しにくいとは思うが、倉庫街に一番近いから」

 葉月の意見に、護葉が付け加えた。

「根っこジャングルあたりの地形はまだ把握しきれていない。今はその案でいいが、警備を考えると、この地域は巣に取り込んでいくべきだ」

「そうですね。今後の検討課題としましょう」


「最後に泉の広場ですが、今やここがメインの出入り口でしょう。ここの警備は今まで通り厳重に。地下の水路への接続は、警備が固まってから検討ですね」

 結葉の言葉に皆が頷いた。

「何よりも、泉の広場近くから世界樹まで延びる道があるんだよな……」

 地図を辿りながら、葉月がつぶやいた。

「一旦守りを固めてからでないと、道をつなげるのは……」

 護葉は続きを飲み込んだ。


 皆同じ意見だった。

 未知の空間には憧れる。

 だが、まだ自分たちの手には余る。


 葉月は、「泉通り南の護衛室」の整備の後、巣全体の配置の見直し。

 護葉は、警備人員の配置。

 絵葉は、古の地図の複写。

 一葉は、他生物たちとの情報交換。

 仁は、クモとの折衝。

 結葉が皆の調整。

 それぞれ優先的に動くべき事項が確認できた。



 解散後、仁は早速クモの元に脚を運んだ。

 クモは約束通り、水路に近い坑道に新たな巣と張り、見張りについていた。

 坑道の脇に手頃な空洞を見つけ、部屋としても整えたらしい。


 水路への道は、カエルたちの手ですっかり整えられていた。

 同じく元あった空洞への坑道も、幅を広げて整えられていた。

 タマムシ夫婦も、広くなった坑道を通り、水路に来ていた。

 二人は仁の姿を見て、手をふった。

「いやぁ、すっかり便利になったね。良い冬ごもり先になりそうだ」

「冬の間、お隣さんですね。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 カエルも坑道に上がってきた。

「さっきは、急に岩を動かして申し訳なかった。お詫びにこれを」

 そう言って、幾つかの小さな巻貝を差し出した。

「これは『呼び貝』といって、子どもたちの玩具なんだが。良かったら使ってくれ」

 教えられるままに、息を吹き込んでみると「ボーーー」と低い音が響いた。

「これは、初めて見ましたが面白い。ありがとうございます」

 仁は興味深そうに眺めた後、大事そうにカバンにしまった。

「気に入ったのなら、また探してくるよ」


 ちょうどその時、一葉が双葉を連れてやってきた。

 二人は腕いっぱいに夜灯り苔を運んでいた。

「通路や空洞に少し植えようかと思って」

 一葉の言葉に、虫たちも喜んだ。

「地下がどんどん快適になっていくね」

「冬が楽しみになってきた」


 皆が力を合わせれば、厳しい冬も楽しく過ごせそう。

 そんな予感を感じさせた。


 厳しい冬は、すぐそこまで近づいていた。


 ーーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 今まで蟻人だけだった地下の世界に、他生物が共存することになった。

 巣の地下を水路が通っているとは、考えたことがなかった。

 思いがけない展開ではあるが、信頼のできる隣人を歓迎しよう。


 もちろん、巣の警備は重要だ。

 大至急、新体制に移行する予定。


 クモから借りた古の地図も興味深い。

 過去にどのような王国が栄え、なぜ消えたのだろうか。

 この冬は地下の世界が忙しくなりそうだ。






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