↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/130

84 古の地図を手に入れた

 秋は駆け足で過ぎていき、冬がすぐそこに近づいていた。

 世界樹の麓は去年よりも豊作で、虫や動物の冬ごもりの準備も整いつつあった。

 一葉は暇を見つけては、顔見知りたちに挨拶に回っていた。


「てんとう虫さん、今年もありがとう。暖かい寝床は見つかった?」

「こっちこそ世話になったな。冬の間会えないのは寂しいな」


「カエルさん、まだ起きてたの?地上でうっかり眠らないようにね」

「この辺りは暖かい。冬眠しないでも地下水路なら大丈夫そうだ」


「カラスさんは、冬眠しないね。今年は本当にお世話になりました」

「いやいや、世話になったのはこっちだよ。世界樹を気にかけてくれてありがとう」

「蟻人は、冬は地中で暮らすんだ。春にまた会おうね」


 一昨日は東の花畑、昨日は青い池、今日は世界樹周辺と順番に挨拶に回った。

「そういえば、タマムシ夫婦が見当たらない。もう冬眠したのかなぁ?」

 そう考えながら、巣の第二出入り口に戻ると……夫婦揃って待っていた。


「一葉、やっと見つけたよ」

「ずっと探していたのよ」

「私もタマムシ夫婦に挨拶しようと思っていたよ」

 そんな挨拶をしていると、タマムシが切りだした。

「考えたんだけど、今年はこの地下で冬ごもりしようと思うんだけどいいかな?」

「え?どう言うこと?」

「あの偉いヤツ、名前なんだっけ?女王さまの後ろで怖い顔してる」

「ああ、仁のこと?」

「そうそう。相談があるから、この前の嵐で会った空洞に仁と来てくれないか?」




 地下に戻った一葉は、仁を連れて早速その空洞に向かった。

 その空洞は、巣から南西方向に延びる坑道の先にある。

 虫たちが、嵐の時などに避難所として使っている空間だ。

 高い崖の上に通路があり、蟻人には少し登りにくい場所だった。


 崖の下でタマムシ夫婦と、なぜかてんとう虫が待っていた。

「おーい、ここだ」

 いつものように陽気なてんとう虫が手を振って迎えてくれる。


「いつもお世話になっております。本日はどのようなご用件で」

 早速仁が切り出すと、タマムシが笑った。

「堅苦しいのはナシにしよう。実は、俺たちもこの空洞で冬を過ごしたいと思って相談に来たんだ」

「この場所でですか?しかし、この辺りの地下は病気が怖いからと聞いておりましたが……」


 仁の言葉に、てんとう虫が頷いた。

「そう聞いていたんだけど、蟻人たちは平気じゃないか」

「確かに。我々は病気のことを知りませんでしたから。発症した者もおりませんし」

 タマムシがグッと身を乗り出した。

「だろ?みんなとも話したんだけど、もう何年、何十年もその病気に罹ったのを見たことないんだって」

「病気は単なる言い伝えなんでしょうか?」

「門番のクモが言うには、本当にあった病であることは間違いないらしい」

「そうですか。それであなた方は試してみようということですか?」

「そうそう。俺たちタマムシの寿命はひと夏くらい。それがなぜかここに来てから2回目の冬なんだ」

 横でタマムシの奥さんも頷いている。


「てんとう虫は、もう少し長生きだけど、ここの虫たちは特別長生きさ」

「いつまで生きられるのかはわからないけど、せっかくなら楽しい冬を過ごしたいだろ?」

「そういうことでしたら、こちらは構いません。この空洞は、巣の範囲からずいぶん外れておりますし」

 仁の言葉に、一同は歓声をあげた。

「これで冬も、楽しく過ごせそうだ。一葉もよろしくな!」

 てんとう虫に言われて一葉も頷いた。

「俺たちが、ここを悪い奴から守ってやるからな」

 タマムシはそう言うと、奥さんと頷きあった。


「じゃあ、早速他の虫たちに知らせてくる!」

 三匹はあっという間に飛び去った。


「……他にも来るってこと?」

 一葉は首を傾げた。

「まあ、信頼できるお隣さんは心強いですが」

 仁も首を傾げたが、やがて二人で巣に戻ることにした。




 数日後の暖かい日の早朝。

 一葉がいつものように第二出入り口から地上に上がると、タマムシ夫婦が待ち構えていた。

「一葉待ってたよ。もう一度、仁とあの穴掘り得意な葉月を連れて、空洞に来て」

「待ってるからね!」

 そう言うなり、飛び立って行った。

「……えっ、何事⁇」



 連絡手段もないし……と仁と葉月を連れて、再び空洞に向かった。

 そこには、てんとう虫とタマムシ夫婦に加えて、クモが待ち構えていた。

「勝手にお邪魔して申し訳ない。本日はお願いがありまして」

 蜘蛛の言葉を引きついで、てんとう虫が続けた。

「この道の先を掘ったら、地下の水路につながるんだ。掘ってくれない?」

「唐突ですね。地下水路ですか?」

「そう。青い池に繋がってるんだって。虫だけで冬を楽しむのは不公平だと水の生き物たちからクレームが来て……」

「かつて、地下が繁栄していた頃には、この坑道と繋がっていたそうです。地下を閉鎖する時に道を埋めたと言い伝えられています」

 クモが説明した。

「この空洞で冬を越すなら、水場がある方が快適なんだ。頼めないかな?」

 てんとう虫が手を擦り合わせた。

「カエルに頼んで掘ってもいいんですが、大雑把なので坑道が崩れるかもと思いまして……」

 坑道を崩されてはたまらない。

 とりあえず、てんとう虫とクモを連れて、その場所に向かった。

 坑道は、タマムシには狭すぎるので留守番だ。



 細い坑道を戻り、巣から真っ直ぐ南に向かう広い坑道と合流した辺りで、クモは立ち止まった。

「この辺りの地下だと思うのですが……」

 葉月が、床や壁を慎重に叩きながら調べて回った。


 なかなか見つからなかったが、ある壁を叩いた瞬間、

「ここかな?よく見ると埋めたような跡が。でも、奥が硬いような?」

 そう言いながら慎重に掘り始めた。

 しばらく掘ると、石灰岩が見えてきた。


「これは動かせないんじゃ……」

 こんこん叩きながら調べていると、突然大きな岩がグググッと動き出した。

「危ない。逃げろ!」

 慌ててその場を離れた途端、岩が坑道側に転がってきた。

 間一髪、潰されるのを免れた葉月と、それを助けようと抱え込んだ仁が顔を上げると……


「やあやあ、こんにちは。待ちきれなくて掘っておいたよ」

 現れたのは、カエルだった。

 クモは額に手をやり、うめいた。

「そなたは掘るなと言っておいただろう」

「いやぁ、コンコンってノックが聞こえたから掘るのかと思って」

「ノックが聞こえたなら、誰かいるとわかるであろう…」


 そう言うと、クモは仁と葉月に向いて頭をさげた。

「本当に申し訳ない。お詫びのしようもございません」

「まあ、幸い怪我もありませんし、今回はお気になさらず」

 仁が答えた。


 葉月は言葉を失っていた。

「…………水路だ……こんな近くを流れていたの?」

 視線の先には長い下り道があり、その先には確かに水路が流れていた。

 青い池の工事で仲良くなった、サンショウウオや魚たちが水から顔を出している。

 こちらから手を振ると振り返してくれた。


「青い池に水が戻る前は、この水路も水が流れるほどはなくて。

 池のように水が溜まっているだけだったのですが、今はこの通りの水路です」

 カエルの説明に、蜘蛛も同意して続けた。

「私は長年、この地下に住み、門番を続けてきたのです」


「勝手に道を開通させてしまいましたが、これでは巣の安全が守れない。戻って女王さまと相談しなくては」

 仁は頭が痛かった。

 もう、この道を塞ぐことはできないだろう。

 空洞からこの水路は、多くの生き物が行き交う道になるに違いない。

 そもそも、ここは巣の範囲ではない。

 阻止することなどできるはずがない。


 どこで巣の防衛ラインを敷くべきか。

 仁は坑道の先、巣の方向を見つめていた。


 不意にクモが言った。

「この状態では、巣の安全が不安でしょう。当面の間、私がこの坑道に巣を張り、不審者を見張るというのはいかがですかな?」

 仁は素早く考えをめぐらせ、その案を一旦受け入れることにした。


 帰って、女王と巣の範囲を相談すること。

 決定までは巣へ繋がる坑道にはクモの巣を張って、自由に行き来はできないようにすることが決まった。

「古い地図では、この先にも何箇所か水路との出入り口がありました。この地図をしばらくお貸しいたしましょう。複写したらお返しください」

 それは、クモの家系に伝わる古い古い地図だった。

 仁は大切に借り受けると、葉月と一葉と共に巣に戻って行った。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。