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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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79 実現までは、あとすこし

 泉の広場のキノコ栽培場では、双葉が今日も考え込んでいた。


 菌糸の栽培は、思ったようには進まなかった。

 おがくずと枯葉の菌床には、びっしりと菌糸が蔓延り、ふかふかになっている。ただし、下の土に菌糸が伸びる様子はない。

「このキノコじゃダメなのかな。カビも生え出したし、このサンプルはダメだな」


「土にまで菌糸がよく育って、カビが生えにくくて、保水性もあるって、あまりにも欲張りすぎかなぁ……」

 そんな独り言を呟きながら片付けをした。


 失敗は成功の母とはいうが、あまりの失敗続きに気分が滅入っていた。


 ちょっとした遊び心だった。

 ふと絵葉に貰ったお土産を思い出して、棚の奥から白っぽいひげ根を引っ張り出した。それは本当に細かく細い、でも丈夫なひげ根だった。

 初めてキノコ洞窟を見つけた日に、絵葉が持ってきてくれたものだ。

「使い道が思いつかなくて、しまい込んでいたんだよね……」


 そういうと、それをおもむろに荒地の土と混ぜて、菌糸を植え付けた。

 そうして、栽培室の片隅に置いた。

 なんとなく気が済んだ双葉は、その後は興味が続かず、それは他のサンプルたちに紛れていった。


 数日後、最初に異変に気づいたのは、水やりをしていた紬葉だった。

「この菌床、記録にないんですけど?」


 そこには、びっしりとキノコがはえていた。それはもう、もっさもっさに。

 駆け寄った双葉と本葉が手を取りあって喜んだ。


 双葉が菌床をひっくり返して驚いた。

「土にも菌糸が回ってる! 土とひげ根に菌糸がよく絡んでいるよ」


 だが、紬葉は冷静に観察して言った。

「土がすごく乾いています。水がたくさん要りますね」


「それは課題だけど、一歩前進でしょ!」

 双葉は早速、何を配合するかを考え始めた。


 でも結局、数時間後にはそのキノコは力をなくしていき、枯れてしまった。


「成長を促す力は強いけど、栄養が足りない?」

 土を触ったり、キノコを指ですりつぶしたりしながら、本葉が呟いた。


「とりあえず課題は保水力、栄養の二点かな」

 双葉の言葉で、三人の話し合いが始まった。


「何かが足りない。枯葉?というか、これ何を土に混ぜたの?」

 本葉の問いに双葉がしばらく考え込んだ。


「………そうそう、絵葉の持ってきてくれた、根っこのジャングルのヒゲ根だわ」

「あー、そういえばこの前の片付けの時も、床にたくさん落ちてましたね」

「坑道の壁を塞ぐのにも使ったやつ」

「さては適当に入れましたね」

 紬葉の言葉に、双葉がそっと目を逸らした。


 しばらく議論は続いたが、結局いい考えも思い浮かばない。


 とりあえず三人で、ヒゲ根を集めに出かけることにした。




「根っこのジャングル」に一歩入った。そこは水が引き、泥も乾いてすっかり元の状態に戻っていた。ふと紬葉は気になった。


 この間の水没の時に修理した壁は無事だろうかと。

 再び水が流れ込むことのないようにしっかり塞いだ壁だ。

「すぐそこですし、先に見に行ってみましょうか」


 三人は根っこのジャングルを一旦出て、坑道をまっすぐ下り、壁に向かった。

 近づいていくと、きっちり塞がっているように見える。

「ちゃんと乾いて固まって……いませんね」

 双葉の言葉に、

「しっとり濡れてる?」

 と本葉が表面の土を触って答えた。


「いや、それどころか、なんでキノコ洞窟のキノコが、こんなところに生えているんですか?」

 紬葉が振り返った途端、二人は触覚を揺らし、一斉に目を逸らした。


 どういうことかと問い詰められて、二人は白状した。

 修理の時に、ついでに洞窟のキノコを混ぜた事を。

「これって、再工事が必要なんじゃ?」


 頭を抱えている紬葉の横で、双葉と本葉が、土を調べ始めた。

「キノコどころか、苔まで覆い始めてる。この間工事したばかりなのに」

「キノコの量もすごい。どこから水が来てるんだ?」

「水源はなさそう。土の保水力?」

「でも、周辺の土は乾いているのになぜ?」


 完全に研究者モードだ。

「これって、菌糸マットに使えそう……いや、そんなに菌糸は伸びていないですね」

「このキノコが、地下に菌糸を出さないタイプなのでは?」

「ではこの壁に、栽培中のあのキノコを植えれば?」

「実験室でも、ここのヒゲ根入れたよね!いや、それだけでは土が乾いていたし、キノコもすぐに枯れた」

「あとは、何を混ぜたっけ…」


 二人はあの日の工事工程の記憶を辿った。

 土をならし、石灰岩を積む。

 流れ込んだ土砂とヒゲ根とキノコを混ぜて、ペタペタと岩の隙間を塞いでいった。


「流れ込んだ土砂の成分?」

 と本葉が言った瞬間、双葉が気づいた。

「石灰岩か!」

「洞窟でも石灰岩にキノコが生えていましたね」

「世界樹の根っこに生えてるのもあったけど……ヒゲ根も、世界樹の根っこか!」

「石灰岩だけでも、ヒゲ根だけでもダメ。相乗効果かもしれない!」


 二人は顔を見合わせると、土と石灰岩ごとキノコを採集し、元きた道を駆け上がり戻って行った。途中、根っこのジャングルでヒゲ根の採取も忘れなかった。


 取り残された紬葉は、深くため息をついた。

「結葉に報告して、葉月に最工事を頼まなきゃ……」




 報告を受けた仁と結葉が、泉の広場の実験室を訪れた。

 当然お説教の為だったが、研究者モードに入った双葉と本葉に言葉は通じなかった。

 それどころか逆に、あの壁に実験中のキノコを植え付けて菌糸マットができるか様子を見てもいいと約束してしまった。


「双葉だけでも手に負えないのに、本葉まで。手がつけられないですね」

 紬葉の呟きに、仁がそっと慰めの言葉をかけた。

「苦労をおかけします」


 でも結局、双葉の暴走は巣の未来を切り拓いてきたのも事実だ。

 今は見守るしかない。まあ、なんとかなるだろう。

 菌糸マットに一歩近づいたのだから。


 そう気持ちを切り替えて、紬葉も実験の輪に戻って行った。


 ーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 菌糸マットーー開発が進めば、地上の荒地を緑化できるかもしれない。

 壮大な夢ではあるが、実現に一歩近づいた。


 双葉と本葉、紬葉の才能に敬意を表したい。

 特に紬葉には、苦労をかけていると思う。

 いつか彼女が望む事があれば、ぜひ叶えてあげたいと思う。
















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