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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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78 彩りを見つけて

 嵐の後始末に続き、世界樹の危機、青い池の清掃・修理と、かつてない大事件が終わり、巣は落ち着きを取り戻して……いなかった。


 青い池の清掃後、皆で回収したものを分け合ったり処分したりした。

 鳥たちは巣の素材にと枝を。

 タヌキやキツネたちは、「巣に敷くよ」と石灰岩のかけらを。

 食べられそうな実や葉っぱは、虫たちのご馳走に。


 そんな中、行き場がなかった「使えそうだけどよくわからない物」は蟻人にと、カラスが巣まで運んできたのだ。


「お前たちなら使えるだろうって、いったい何に使うのよ」

 うっかりと一葉が受け取ったので、泉の広場の倉庫はガラクタで満杯だ。


 今日は紬葉が苦笑しながら仲良しの結葉と片付けていた。

「食べられない実と葉っぱばっかり」

「まあ、綺麗な色ではあるけど。紬葉、何か作れないの?」

「何かって無責任な……」


「色といえば、最近女王さまの持ち物、綺麗な色だと思わない?」

 そう言われて紬葉は思い出していた。

「確かに、綺麗な色のドレスよね。どこで手に入れたんだろう?」

「まだ見習いの子蟻が染めてるって、千葉夜に聞いたよ」

 二人は顔を見合わせた。

「その子なら、何かアイデアあるかも!」

「どうせ片付けの人手も足りないし呼んでくる」

 結葉が片付けから逃げていった……



 その子蟻は、ガラクタの山を見て目を輝かせた。

「うわー、蜘蛛の巣まである!綺麗な葉っぱと実も!使っても良いですか?」

 子蟻の勢いに勝てずに、紬葉と結葉は頷いてしまった。

 結葉の「片付けは…」も

 紬葉の「変人が増えた…」も子蟻の耳には届かなかった。


「まず蜘蛛の巣を糸にします!」

 なぜか子蟻の号令で糸紡ぎが始まった。

 完全手作業だ。一人が糸をほぐして、一人が撚り、一人が巻き取っていく。


「この分量終わらないでしょ……」

 結葉の愚痴に、紬葉が少し考えてから言った。

「結葉、近くの空き部屋確保してきて。ふた部屋続きがいいな。ないなら葉月に掘ってもらったら良い」

 そう言って、ちょうどいい木材や蔓をさがしはじめた。


「こうやって、糸の端を見つけたら数本まとめて捻りながら引っ張って、この回る部分で巻き取って……」

「でも、上手くほぐれません」

「こっちのブラシで梳いたらどうだろう。数本まとめて捻るんだから、ちょっとくらい絡んでても真っ直ぐにしちゃったら?」

「手に引っ付きますね」

「まあ、蜘蛛の糸だからね…そうだ、この前作ったキノコのエキスを指につけたらどうかな」


 片付けだったはずが、倉庫一面に素材が引っ張り出されていった。

 戻ってきた結葉は遠い目をした。


 結葉に叱られて大まかに片付けをした紬葉と子蟻は、蜘蛛の巣と材料を新しい部屋に運び込んだ。

「うわー、広い部屋だと作業が捗る!」

「良い感じの糸が紡げるようになってきましたね!やっぱり綿とは違う手触りで素晴らしいです」

 二人はもう夢中だった。

 しばらく紡ぐと、今度は色が気になり出した。

 材料が放置されていた蜘蛛の巣だ。

 真っ白とは言い難い。


「洗ってから染めてみるのはどうでしょうか?」

「そうね、とりあえず実験室なら水路が来てるから移動しよう」


 いそいそと糸や素材を持って移動して行った二人を見て、結葉は黙って葉月を呼んできた。

「隣の部屋に水路を通してあげて」


 結葉なりに、蜘蛛の糸の可能性を感じていた。

 ものづくりが得意な紬葉と、染色の得意な子蟻に任せておけば、新しい何かが生まれるであろう。その環境を整えてあげることにしたのだ。


 結果的にその判断は正しかった。

 この後、この二人の手によって、様々な色の美しい布が誕生するのを、この時はまだ誰も知らなかった。


 実験室では作業中の双葉と本葉を押しのけて、染め作業が始まっていた。

 いや、興味を持った二人が協力したものだから、どんどん色が増えていった。


「この赤い実は綺麗ね。水の中で潰して色を出してみようか」

「そうですね。とっても良い色に……染まらないですね……水の色は良いのに」

 様子を見ていた双葉が、勝手に液体を加えた

「この苔のエキス入れると鮮やかな色が出るんだけど……」

 止める間もなく、入れてしまった。

「あー……糸は染まりました!けど、紫ですね」

「綺麗な色だからこれはこれで成功?」

「風通しの良い上の部屋に干しましょう!」


「じゃあ、こっちの草の透明な汁はどうですか?」

 今度は本葉が、加えた。

「えっ!なんかぶくぶくしてない?」

「危険なものは入れてないです!」

 ちょっとドキドキしたが、今度はオレンジに染め上がった。

「法則がわからない!」

 双葉が頭を抱えていたが、楽しい実験だった。


 紬葉は、一つ一つの実験結果を丁寧に書き留めた。

 時には大失敗の、どんよりしたマダラな色の糸もできたが……


 こうして、不用品と思われた木ノ実や葉っぱから、次々と色が開発されていった。


 気がつくと赤、黄、緑、紫……一面に鮮やかな糸が干されていた。


「糸として使うだけじゃもったいないね。布にできないかな」

 糸を眺めながら紬葉が考え込んだ。


 今まで巣では糸を編むか、取ってきた布状の素材を切って縫うだけだったのだ。

 子蟻も同意だった。

「編むのも良いですけど、この艶を活かすには、一枚の布にしたいですよね」


 染色作業の横で、紬葉が糸を布にしようと動き出した。


 糸を布にする。

 どうすれば良いのか。


「葉っぱみたいに、縦に糸を並べて何かでくっつける?」

「もう一度くちゃくちゃって集めてくっつけた方が楽じゃない?」

 実験室らしく薬品で固める方法が提案された。

「横から引っ張ったら避けそう」


 そんな中、ふと本葉が言った。

「紬葉が前に細い蔓を縦に何本か固定して、横から蔓を交互に通してネット編んでたよね。あれを細かくしたらどう?」

「それだわ!かなり細かいけど原理は同じね」

 そう言って材料を集めてあっという間に枠を作りあげると、今度は一心不乱に布を織り始めた。


 枝を組んだ織り枠には、蜘蛛糸の縦糸が朝露のような輝きを帯びて張られていた。

 紬葉は、乾いた草の茎に巻いた横糸を手に取る。


 先の細い小枝で縦糸をそっと持ち上げると、糸のあいだに細い道が開いた。草の茎をその隙間へ滑らせると、横糸が音もなく反対側へ渡っていく。


 茎を引き抜き、今度は別の縦糸を持ち上げる。先ほどとは違う道ができると、また横糸を通した。

 一本。また一本。


 通すたびに、野薔薇から外した棘を並べた櫛を布へ押し当てる。棘が糸を揃え、横糸は隙間なく詰まっていった。


 やがて、透けるほど頼りなかった蜘蛛糸は、幾筋もの横糸を抱き込み、一枚のしなやかな布へと姿を変えていったのだった。


 その布の美しさに、皆はただ見惚れるばかりだった。


「美しいだけじゃないわ。この布はとても丈夫だし、手触りも最高です 」

 子蟻がうっとりと手触りを確かめていた。


 そこに、結葉に呼ばれた女王さまと仁がやってきた。


 二人とも、蜘蛛の巣の布に釘付けになった。

「これは素晴らしいものを作りあげたわね」

 蜜葉乃が感嘆の声を上げた。

「色も艶も素晴らしい。今までに見たことがない」

 仁も褒め称えた。


 紬葉が子蟻を女王さまに紹介した。

「まだ配属の決まっていない子蟻です。この子が糸を紡ぎ、染めました」


「まあ、育房室にいる子ね。とっても染色が上手なのは知っていたわ」

 女王さまに褒められて、子蟻は顔を赤く染めた。


「この子に引き続き部屋を任せたいのですがいかがでしょうか」

 紬葉の異例の申し出に、女王さまと仁は顔を見合わせたが、仁が言った。


「良いでしょう。この部屋を任せましょう。慣れるまで紬葉が面倒をみるように」


 蜜葉乃も言った。

「これだけのものを生み出したのです。今日からあなたには『彩葉』の名を与えましょう」


 皆の拍手が鳴り響いた。

 彩葉は驚きに目を丸くしていたが、やがて深く頭を下げてお礼を言った。


 王国に素晴らしい布がもたらされた。


 なお、片隅で「綺麗なインクも欲しいな」と絵葉が呟いた言葉を、彩葉は聞き逃さなかった。

 早速次のプロジェクトが始まってしまった。


「やっと双葉と本葉から目を離せるようになったばかりなのに」

 紬葉のぼやきを、結葉が慰めていた。



















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