77 みんなの力が合わされば
そのちっちゃな奇妙な生き物と会ったのは、去年の夏だった。
成虫になってすぐに、鳥に追いかけられたオレは、這々の体で大きな木を目指して逃げてきたんだ。
途中で力尽きて、荒地の草むらに着地したつもりが、脚が絡んで穴に落ちた。
あの時は、ここで終わるのかって諦めかけたね。
仰向けに落っこちて、脚は痛いし、おまけに大きな石が体に乗ってたんだもの。
ところが突然、壁に穴が空いたかと思うと、あれよあれよという間に、あいつらが助けて治療までしてくれたんだ。見返りを求めることもせず。
あいつらは、命の恩人なんだ。
怪我が大丈夫かって?
驚いたことに、あいつらが薬を羽と脚に塗ってくれて、しばらくしたら、ほぼ治ってた。
少しは痛みが残っていたけど、事故の大きさからみたら、助かっただけでも奇跡。
その後地上で嫁とも出会って、今は大きな木で幸せに暮らしてる。
そういえば、この木は世界樹っていうらしい。
なんか神さまが来てそう言ってた。
世界樹って何かよくわからないけど、この木が特別ってことは、みんなわかってる。
うちの一族は長くても一夏くらいの命なんだけど。
オレは冬どころかまた夏がきたのに、まだまだ元気。
なんだかここは、不思議な土地だ。
暑いのも寒いのも嵐も、この木がさりげなく護ってくれてる。
みんなは、エサが探しにくいとか、巣の材料の枝がないとか言ってるけど。
タマムシには十分すぎる快適な家なんだ。
去年は見かけなかったのに、今年はちょくちょく一葉を見かけるようになった。
まあ、オレが嫁の怪我に驚いて助けて貰いに押しかけたんだけど。
あの時はありがとう。
あいつらは、命の恩人だ。
あ、二回も助けて貰ってるな。
恩返しなら任せておけ。
そんなあいつらが、木の下で深刻そうに話していた。
これはオレが助ける番だな。何ができる?
と思っていたら、この木が枯れる? それは大ピンチ!
びっくりして仲良しのカラスに知らせたら、あっという間に噂が広がった。
難しい事はよくわからないけど、青い池も世界樹のお陰なのか?
世界樹が枯れたら、あの池もきえる?
もう、この一帯の虫も鳥も動物も大騒ぎになった。
この辺に住んでいて、世界樹の恩恵を受けていない奴なんていない。
荒地が多い土地だけど、なんとなく幸せに生きていられるのは世界樹のおかげ。
あと、最近は蟻人たちも治療してくれたり助けてくれるな。
あいつら、ちっちゃいくせに、賢いんだ。
変な神さまと蟻人たちが相談して、世界樹を助けようと決めた。
ここは大恩返しのチャンスだ。
まずは張り切って蟻人の送迎だ。
まあ、カラスの方がいっぱい乗せられるけど、オレが手配したからオレの恩返しとも言えるだろう。多分……
そうして、青い池の掃除と補修が始まった。
蟻人たちが小さいからって、言うこと聞かない奴がいたら、オレが助ける!
と思っていたけど、みんなあいつらの賢さがわかるんだなぁ。
一番小さい蟻人の指示で、みんな働いてる。
あ、風葉が走り回っているな。
「次は二つ目の池お願いします!」
絵葉の声が響いてる。
鷹は上空で、安全を見守り、
小動物たちが葉っぱを集めて、
虫たちがその葉っぱを砕いてる。
粘土と混ぜ合わせるんだって。
タヌキが一生懸命踏んで混ぜてる。
大きな枝は、カラスが力を合わせて運んでる。
あれ? あそこで指示出してるの一葉だ。
岩が崩れて引っかかってるのか? 力持ちの熊に知らせてこよう。
助けに行ったはずなのに、休憩時間に「ころころ蜜飴」もらっちゃったよ。
ここからは、洞窟の水の出口を広げるんだって。
「退避って言ったら、必ず池から出るように」
よくわからないけど、一葉が言うなら覚えておこう。
最初はカエルたちが洞窟から、上手く土や葉っぱを押し出して落としていた。
「退避ー」って聞こえたら、確かにゴミが流れてきた。
それを池から集めて、また落として……ひたすらに繰り返す。
時々、魚やカエルまで落ちてきて、みんなで笑った。
その作業の度に、水の流れる量が増えてきた。
でも、大きな枝が絡みあって、なかなか全部は落とせない。
みんなで集まって作戦会議が始まった。
結局、引きこもりのザリガニを引っ張り出してきた。
サワガニでは切れない枝を切ってもらうんだって。
細い枝を落として、縦向きにして出口を通す作戦にしたらしい。
手先の器用なタヌキが呼ばれて行った。
タマムシじゃ力になれない、と思っていたら葉月に呼ばれたよ。
「背中に乗せて空中でホバリングして」だって。
そんなに頼むならしようがないなぁ。
よし、ザリガニが切れる枝は切ったし、
絡んでた草はサワガニが切り離して回った。
魚やサンショウウオ、カエルが力を合わせて縦に方向を変えてくれた。
タヌキが細い腕を突っ込んで、枝の先を掴んだ。
「もうちょっとだけ右側に寄せて。そっちの方が天井が高い」
葉月の指示に、タヌキが枝を寄せた。
枝が少し出始めた。行ける!て思ったけど、引っかかってしまった。
ガッチリハマって動かない。
葉月は、クマを呼んだ。これだけ枝が出てたら、クマの手でもつかめるな。
「枝をほんの少し持ち上げる感じで、まっすぐ引っ張って。力ずくじゃ出口が壊れる。優しくね」
どういうこと?指示が難しい。
クマはちょっと枝を引っ張って考えていたが、葉月の指示が分かったみたい。
クマって賢いんだよな。
「退避ー」の声の後、クマが引っ張った枝は上手く抜けて、同時に枯れ草や水が「ドドーー!」と流れてきた。
オレは慌てて移動したよ。
その後、さらに数本の枝を引き出したら、洞窟の出口から中が見えるようになった。
水がどんどん流れてくる。
みんなで慌てて枝を池からあげて、もう一度ゴミを取って。
また、「退避ー」
今度は、一番上の青い池の排水口を少しだけ開けたんだ。
水がどんどん下の池に向かって流れ始めた。
池の補修を終えた一行は、最後に水の出口へ集まった。
その間に、絵葉に頼まれてカラスが世界樹に伝言に行った。
「みんな退避ね。絶対池に入らないで!」
一葉が言うから、みんなに伝言を伝えて回った。
何も起こらない。
みんなキョトンとしながら休憩してたら……
ゴゴゴゴゴーーーーー
すごい音がして、いきなり水量が上がった。
カエルやサンショウウオは陸に逃げてたけど、魚は一緒に押し出されてた。
滝のような勢いで、一気に水が流れた。
一つ目の池から二つ目へ、さらに三つ目、四つ目へ。
どんどん水が満ちていった。
タマムシは一葉を背に乗せて、思わず上空に飛びたった。
「タマムシ、ありがとう」
「礼を言うのはオレの方だ。あの日、お前たちが助けてくれたから、今こうして飛べる」
一葉はただ嬉しそうに笑った。
白い石灰岩の段々に青い池が連なり、
水は滝となって世界樹の麓を巡っていた。
それはそれは幻想的な世界が誕生した瞬間だった。
さっきまで曇っていた空に太陽が顔をだして、
池がキラキラ輝き、虹が掛かっていた。
まあ、魚は驚いて悪態ついてたけど、景色を見て機嫌は直ったみたい。
伝言役のカラスが戻ってきて
「世界樹が、じゃあちょっとだけ流してみるねって言ってた」って。
世界樹どれだけ水を溜め込んでたんだ。
そりゃ苦しかっただろうな。
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仁の日誌
青い池の補修工事は無事に終了。
今後は世界樹の溜め込んでたんだ水も、少しずつ放出予定とのこと。
工事に参加した一葉、風葉、葉月、絵葉の偉業を讃えたい。
近隣の者たちの協力も素晴らしかった。




