76 まずは計画をたてましょう
次の早朝、巣を出ると当然のようにカラスとタマムシが迎えにきていた。
「おはよう一葉、じゃなかった。もうみんなも話せるんだったな」
「タマムシの言葉がわかる!おはよう」
最初に挨拶を返したのは葉月だった。
みんな目を丸くしながら、挨拶をした。
「昨日と同じメンバーか。とりあえず青い池に行って、現地を見ながら話そうって集まってる」
「確かに、どんな状態か見る必要がありますね」
仁も同意し、今日は全員でカラスの背に乗せて貰った。
カラスに乗れば、ひとっ飛びだ。
「みんな、空中散歩に慣れたな」
カラスが笑った。
青い池は前回よりもさらに水を湛えていた。
白い石灰岩の段差を越えようとする透明な水が、朝日を受けて青く輝いている。
しかし近づくと美しい景色とは裏腹に、一つ目の池の出口には枯れ枝や落ち葉が絡まり、水は細く溢れるだけだった。
始めて目にしてメンバーは、その規模の大きさに言葉もなく、辺りを見回していた。
一番に回復した絵葉が、猛烈な勢いでスケッチを始めたのをきっかけに、各々水を飲んだり、周りを見回したり。
葉月は壁の岩に登り、水の出口を念入りに観察し始めた。
岩壁にはいくつもの小さな穴が開いていた。
そのほとんどは乾いているが、一番大きな穴からだけ澄んだ水が流れ落ちている。
穴の前には流木や草が絡まり、小さな堰のようになっていた。
「これは…‥石灰岩か。あたしたち蟻人の力でたくさん掘るのは無理だな」
後を追ってきた絵葉が答えた。
「元々この出口で機能していたのですから、岩を削る必要はないのでは?周りに引っかかっている枝やゴミを掃除すれば、流れる可能性が高いです」
「あそこに狭いけど、もうひとつ穴が開いているな。水は流れていないし入ってみる!」
葉月が入って行ったのを、慌てて絵葉が追いかけた。
蟻人がギリギリ入れる隙間は上下左右に曲がりくねっていたが、奥につながっていた。
「結構滑るな」
絵葉に注意を促しながら進むと、水路内部に入った。
壁は白く滑らかで、水滴が絶えず落ちていた。
中央には透き通った水のゆっくりとした流れてがあった。
天井には細い鍾乳石が並び、光を受けて淡く輝いていた。
水が戻ったばかりで、植物はまだ生えていないようだ。
内部には初めて出会う生きものたちがいた。
水中には魚、岩の影にはカニ、そして岩肌から話しかけてきたのはサンショウウオだった。
「見かけない顔だな。誰だ?」
先に口を開いたのは絵葉だった。
「私たちは蟻人です。あなた方は、ここに住んでいるのですか?」
「先の大雨で、水路を流されてきたんだよ。出口が狭いからこれ以上進めなくて」
「途中はすいすい泳げたのに、ここで詰まってるんだよね」
そうして話し合いが始まった。葉月と絵葉は、経緯を説明した。
世界樹のこと、水路の出口が詰まっていること、外の池のこと、出口の工事の計画のこと。
「細かいことはよくわからないな」
「出口が広がるのは私たちにも好都合だが……」
水中の生き物達は、しばらく話し合っていたが、「聞いただけではわからない」ということで、サンショウウオとカエルが、外に出て様子を見ることになった。
「あんたたち、先に出て話がついたら呼んでくれ。外に出た途端、パクッと食べられるのは勘弁だから」
カエルの言葉を了解して、葉月と一葉は元きた道を引き返して言った。
外では仁が心配しすぎて、一葉に宥められていた……
仁が落ち着いたところで、カラスやタマムシ達に説明を始めた。
「じゃあゴミを取り除けば、水量は増えそうなんだな?」
タマムシの言葉に、絵葉は内部のスケッチを見せながら答えた。
「やってみないとわかりませんが、水量は増えるでしょう。世界樹に溜め込んでいる水も放出するんですから」
「確かにやってみないとな」
「中の生き物たちも工事に前向きでした」
カラスが内部に呼びかけると、約束通りにカエルとサンショウウオが顔を出した。
二人は本当に食べられないか、しばらく様子を伺った後、青い池に飛び込んだ。
「想像以上に大きい池だな」
「この池は住み心地良さそうだよ。あ、初めまして」
「水が通ったら、まだまだ池が増えますよ」
絵葉が指差したが、
「想像がつかないな」
と二人は首をひねった。
外のメンバーと一通り挨拶を済ませると、早速工事の相談になった
再び絵葉がスケッチを広げて説明を始めた。
「一番の問題は、ここに引っかかっている数本の太い木の枝ですね。これでかなりのゴミが引っかかっているようです」
「上の水中の力仕事は、こっちで引き受けていいんじゃないか?カエル」
サンショウウオが言った。
「そうですね。作業の順番を指示して貰えたら、基本的に作業は引き受けよう」
「ありがとうございます。では、作業の時は私が中で指示を出しましょう」
絵葉の言葉に、みんな頷いた。
「でもその前に、空の池を掃除しないといけないんじゃない?」
一葉の指摘に、今度は葉月が続けた。
「長い間放置されていたからね。このまま水を流すと何が起こるかわからない」
「たしかに、かなり荒れてるな……」
みんなが黙りこんでいると、タマムシが言った。
「まあ、水のない部分なら、みんな呼んで掃除すればなんとかなるだろ。補修の指示は蟻人たちがしてくれるんだろう?」
こうして方針が決まった。
まずは地上の池の掃除と補修。終わってから詰まった枝を流す。
そのあと、堆積している土や葉っぱを掻き出して入り口を広げる。
一つ目の池でなるべく受け止め、堆積物を回収していく。
最後に、留めておいた一つ目の池の堰を崩して、全体に水を流す。
外が整ったら、再び中の日程を決めることにして、カエルとサンショウウオは戻って行った。
「ちょっと元の池までひと泳ぎして、仲間連れてくるわ」
「掃除は私が指揮を取ろうかな」
一葉がいうと、顔見知りの虫や鳥、小動物たちが仲間を連れて参加すると申し出てくれた。
「風葉も手伝ってね」
「大きい補修はキツネとタヌキに任せて。これでも巣穴整えるの上手いから」
「じゃあ、大きな岩の運搬が必要なら熊に声かけて」
「小鳥たちは、休憩時間に食べられるように果物を運ぶわ」
次々と役割が決まっていった。
ザッと掃除したところで、日が高くなり今日は解散となった。
辺りに落ちていた大きな枝は、「巣の補強にちょうどいい」 と早速鳥たちが咥えて飛び去った。
こうして一大プロジェクトは動き出したのだった。
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仁の日誌
青い池の再生プロジェクトは順調に滑り出した。
明日からは、みんなに任せる予定だ。
娘たちの成長を実感した一日だった。
他の生き物たちも、想像以上に協力的。




