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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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75 「世界樹だったの!?」

 浸水した坑道の後始末をした翌朝、仁が言った。

「地上の偵察に行きましょう。浸水の原因箇所があるなら、塞ぐ必要があるかもしれません」


 地上の偵察、そして工事の可能性を考えて、一葉、風葉、葉月、絵葉が行くことになった。

「気になるので、今回は私も同行します」

 仁を含めて五人で、第二出入り口から出発となった。


「こっちは荒地だから、採集にも来たことがないんだよね」

 先頭を歩く一葉が言った。風葉はいつも通り、先行して偵察だ。


「本当に荒地ですね。木どころか、草も少ない」

 仁も周りを見回して言った。


「崩落した辺りって、根っこのジャングルとかキノコの洞窟の上ですよね。石灰岩のせいではないですか?」

 絵葉の言葉に、仁が聞き返した。

「どういうことでしょう?」


「この辺りは基本的に石灰岩が多い地域で、その上に土が積もっているんです。場所によっては石灰岩が地表に出ていますよね?」

 絵葉が指差した先には、白っぽい岩肌がのぞいていた。


「石灰岩は割れ目が多く、水が染み込みやすい岩です。雨水が地中へ入って、地下に水路を作っている可能性も高いです」


「キノコの洞窟も、その一部ですね。崩落した坑道にも、この岩は露出していました」

 仁も坑道を思い出していた。


「一見、土に見えても下はすぐ岩だったりします。その分、土が薄くて大きな植物は育ちにくいのかもしれません。根っこの張っていない土は弱い」


 そこに偵察に行った風葉が戻ってきた。

「特に怪しい地点はない。一面こんな感じの荒地」


 地上には問題がないのだろうということになった。

「じゃあさ、大きな木のところの花の蜜が溢れる頃だよ。行ってみない?」

 一葉の提案で目的地が決まった。


 大きくて古い木だ。

 巣からでも姿は見える。

 近づくにつれて緑が増え、良い香りの風が吹き抜け始めた。


 その時、先行する風葉が慌てた様子で戻ってきた。

「様子がいつもと違う。水が吹き出してる!」


 みんな大きな木に向かって走った。

 たしかに、木の根本から、いく筋かの水が吹き出し、清水が溜まっていた。

 そこに虫や動物が集まり、水を楽しんでいた。


 最近ここに住み着いている小鳥たちが、一葉を見つけて声をかけてきた。

『ちょうど呼びに行こうかと思ってたんだ。嵐の日から湧いたんだよ』

『嵐の中、枝に隠れていたら、急に地面から水が吹き出して。びっくりしたわよ!』


 促されて、みんなは清水を飲んでみた。

 たしかに冷たく甘い水だ。

 地下の泉や、青い池と同じ味だった。

「どう言うこと?」

 蟻人たちは顔を見合わせた。


「世界樹も頑張ってたんだけどね。吸いきれなくて溢れちゃったみたい」

 不意に木の影から現れたのは、

「神様……」

「仁くん、そんな嫌そうに言われると傷つくんだけど」

「失礼しました。つい今度は何のトラブルが起きるのか心配になりまして」


「いや、もうトラブル起こした後なんじゃない?」

「いやー。葉月ちゃん鋭いね……」

「鋭いねって、何したか当てようか?キャンプの時に水を増やしたんでしょ!」

「半分正解かなぁ」


「やっぱり何かやったんですね……」

 仁が天を仰いだ。


「その前に世界樹って何?この木のこと?」

 風葉が聞いた。

「そうだよ。知らなかったの?言わなかったっけ?」

「聞いてません」

 皆が一斉に頷いた。


「ごめんね」

「何のことでしょうか」

 仁が尋ねた。

「ちょっと世界樹を元気にしようと思って水を流しやすくしただけなんだけど……」

「ちょっと?」

「思ったより、水位が上がっちゃって」

「思ったより……」

「それにあんな嵐が来ると思わなくて……」

「……」


 その時、いつのまにか横で話を聞いていたタマムシの夫婦が言った。

『まあまあ、そんなに怒らなくても。神様だって悪気はなかったようだし』

『そうよ。こんな美味しい水が湧いたんだから、結果オーライだわ』

 その言葉に神様は微妙な顔をして黙りこんだ。


「神様、何か隠していることがあるのでは?」

「仁……隠してはいないけど、言いにくくて」

「早く言ってください」

「……喜んでいるみんなには悪いけど、このまま水が根本に溢れてたら、世界樹が枯れるかなーって思ったりなんかして……」


 そこからは、大騒ぎになった。

 虫や動物、鳥たちもいや、むしろ彼らの方が大騒ぎだった。

 なにしろ、住み着いていたり休憩所にしたりしている木が枯れると言うのだ。

『どうすればいいの!?』

 一斉に神様に詰め寄り、さすがの神様もタジタジだった。


「地下に溢れそうな水を世界樹が吸ってくれたんだけど、吸いきれなくて……」

「吸った分を吐き出せないんですか?」

「吐き出せるけど、地下が溢れるよ。この前よりも酷い状態になる」

「……」

「泉の広場も水没するかも…今は地下水路の出口が詰まってて」

「地下水路?出口?」


 一葉が正解に辿りついた。

「青い池の湧き水か!」

 神様がそちらを指差して頷いた。

「南の方から地下水路を流れてきた水が、青い池で地上に出るんだ」


 絵葉が地図を広げて、神様に確認をとった。

「そうそう。よくできた地下地図だね。青い池は水が枯れてるだろ?あそこが満タンになるくらい出口を広げてやれば、世界樹も水を吐き出せるんだけど」

「なるほど。水路の出口が問題なんですね」


「いやー、もしかしたら途中も詰まっているかも。長い間水が枯れていたからね……」

 みんなが考え込んでいると、神様が決意したように言った。

「よし、僕がチョチョイと水を流してみよう」

「絶対にやめてください!」

 仁の言葉に、全員が同意した。


「ひどいなぁ。大丈夫だよ。加減するから」

「その大丈夫が大丈夫だったことはありません!」


 しょんぼりした様子を見て、再びタマムシが言った。

『水路の掃除と、出口を広げればいいんだな? とりあえずみんなで知恵を出し合ってみる。

 一葉たちも知恵を貸してくれるだろう?』

「もちろん」

『まずはみんなで動いてみよう。どうしてもダメならそれから神様に頼むよ』

 みんなの拍手が広がった。


 感激した神様が懐を探り、

「では僕から応援の……」

 と話し出したが、仁がすかさず言った。

「お気持ちだけで充分です。アイテムは断固お断りします」

 過去のアイテムの引き起こした騒動の数々を思い出し、蟻人たちが全力で頷いた。


「では一つだけ。一葉のように他種族と会話できる能力を、蟻人全員に解放しよう」

「会話能力を?」

「これは別にプレゼントじゃない。元々蟻人の能力だったものを、昔頼まれて封印しただけだからね。返すだけだよ」

 そう言い残して神様は消えていった。

 蟻人たちが事態を理解する前に……。


 日が高くなってきた。

 太陽が焼け付くような光を送り始める前に、本日は解散となった。

 改めて明朝、世界樹で集まる約束をして。


 今日もカラスが背中に乗せて送ってくれた。

 仁はさりげなく辞退して、自分の羽で飛んでいた。


「みんなと話せる能力は便利ですね」

 絵葉の言葉に、一葉も笑った。

「これでしょっちゅう、通訳に呼びつけられなくてすむ」


「それにしても世界樹か。って世界樹って何?」

 葉月の言葉に、みんな考え込んでいたが、風葉が言った。

「古くて大きな木なんじゃない?」

 誰からも反論は出なかった。


 ーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 本日、地上調査を実施。


 洪水は地下水位の上昇と大雨が重なったことが原因と判明。

 地上の大樹は「世界樹」と呼ばれる存在であり、現在も衰弱状態が続いているとのこと。

 青い池からの排水経路を整備すれば、世界樹周辺の水位安定にも繋がる可能性がある。


 今後、周辺の生き物とも協力し、対策を検討したい。


 …‥神様、何もしないでください










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