↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/130

72 こっちの水もあまいぞ

「うぉーーーーーーーーーー!!」

 今日の護葉はタマムシの背に乗り、空を飛んでいた。

 なぜ、こんなことになってしまったのか、心の中で大変後悔していた。


「落ちる落ちる!!」

 護葉は必死にタマムシへしがみついた。


『大丈夫だから』

 タマムシは楽しそうに羽を鳴らした。

 ……その言葉は、護葉には通じなかったが



 暑い夏の朝は早い。

 空が明るくなりはじめたばかり。

 夏は太陽が高くなる前にみんな活動する。


 泉の広場の第二出入り口、大きな枝の陰には、タマムシ夫婦と一葉、護葉が集合していた。今から、北西の地に出かけるのだ。


 発端はタマムシ夫婦の、一葉への世間話だった。

『そういえば、あっちの方向に最近湧き水が出たんだ』

『そうそう。冷たくて甘くて、とっても美味しいのよ』

「あそこ、岩ばかりの荒地だよね」

 一葉が記憶を辿りながら言った。


『そう。でも、水が湧いて人気スポットになってる』

『暑いから、冷たい水が最高なのよね』


『明日も行くから、乗っていく?』

「行く!」

 一葉は迷わず返事をした。


 なお、一葉は巣に帰って一番に出会った護葉に、

「明日新しい土地に行くんだけど護衛頼める?」

 と軽い感じで頼んだ。


 もちろん、その時の護葉は空を飛んでいくとは夢にも思っていなかったが……




 上空で護葉は恐る恐る目を開けた。

 眼下には、今まで見たことのない景色が広がっていた。


 大地が幾重にも段々になって続いている。

 白っぽい岩肌が幾筋も連なり、ところどころに丸く窪んだ池のような地形が残っていた。


 だが、そのどれにも水はない。


 池の底は乾ききり、細かなひび割れが走る。

 段差には白い石灰岩だけがむき出しになり、かつて滝だった場所には一本の水筋さえ流れていなかった。


 枯れた苔が岩へ貼り付き、風が吹くたび砂埃だけが舞い上がる。


「……すごい」

 思わず護葉が呟いた。


 飛び続けていると、遠くの谷間で何かがきらりと光った。

 近づくと眼下には空を映した小さな青い池があった。


 朝日を受けた水面が宝石のように輝き、周囲の白い岩肌へ青い光を映していた。

 広大な荒地の中で、そこだけがまるで命の灯火のようだった。


『あそこだよ』

 タマムシが指差し、そして降下していった。


 着地すると、続いてタマムシの奥さんの背に乗った一葉も到着した。

「空飛ぶなんて聞いてないんだけど」

 護葉は一葉に苦情を入れたが、すぐに気を取り直して周囲を確認した。


 枯れた大地の中で、この池だけが水を並々と湛えていた。

 岩壁の一角から、細い水が流れ落ち、小さな青い池を満たしている。


「ここか……言葉もでないね。とにかく美しい……」

 一葉も泉に見惚れていた。


『見た目だけじゃなく、とにかく美味しいんだよ』

 タマムシに促され、一葉と護葉はそっと水を掬って口に入れた。

「冷たくて美味しい」

 上空で叫んでいた護葉は、続けて飲み続けた。

 隣で一葉は笑いながら、少し首を傾げていた。


『口に合わなかった?』

 タマムシに聞かれて一葉は慌てて答えた。

「いやいや、美味しいよ!冷たくて甘くて。ただ……いや、なんでもない」


 池には次々に生き物がやってきた。

 噂通りの人気スポットのようだ。

 中には、知り合いも混じってした。


『一葉も来てたのか。耳が早いな』

「てんとう虫さん。おはよう。こんなところまで来るんだね」

『ほんのひとっ飛びさ。これだけ美味しい水は他にない』

「いつ頃、水が湧いたの?」

『最近みんな気づいたばかりだよ。なぁ、誰か知ってるか?』

 の声に

『いつだっけ?』

『先週?』

『いや、もっと前から私は来てた』

 と次々に声が上がったが「春の終わり頃」ではないかと意見がまとまった。

 どんどん水量は増えているらしい。


『大雨が降ったわけでもないのに』

『この冬が大雪だったわけでもないのに』

『きっと天の恵みだね!』

 みんなでもう一度乾杯をした。



 日が高くなる前に、再びタマムシの背に乗って二人は巣に戻ってきた。

 タマムシにお礼と別れを告げた二人は、泉の広場の実験室に向かった。

「帰りは叫ばなかったね」

 一葉に揶揄われた護葉は、気まずそうな顔で答えた。

「慣れたよ……」



 今日の実験室には、双葉と本葉のに加え、絵葉が来ていた。

 部屋に入るなり一葉が水筒を出した。

「ちょっと気になることがあって。これ飲んでみてくれない?」

 そう言いながら、青い池の水をコップに注いだ。

 皆は不思議そうにしながら、一口飲んだ。


 一番に口を開いたのは本葉だった

「冷たくて美味しい。いつもの水だね」

「……いつもの水?」

「泉の水でしょ?」

 そう言いながら、水路を流れる水をコップに汲んで一葉に差し出した。


「……本当だ。同じ味のような気がする」

 一葉の言葉に、本葉はもう一度水を口に含んだ。

「味も匂いも、舌触りも一緒だよ。これ泉の水じゃないの?」


 そのあと、一葉は青い池の水の説明をした。

「飲んだ時、おかしいと思ったんだ。みんな絶賛してたけど、私はいつもの味と違いがわからなくて……」

 残念ながら、緊張で喉がカラカラだった護葉にはわからなかったようだ。

 同意を求められて、苦笑いしている。


 話を聞いた絵葉が地図を一面に広げた。

「一葉、青い池はどのあたりですか?

「ここから北西。大きな木の方向からみて、この辺りかな」

 そう言って地図の一点を指した。

 護葉も、記憶を確認しながら頷いた。


「ここに青い池が湧き出して、ここの地下に泉が湧き出している。同じ水ということは、地下に水の流れる川があるのでは?」

 そう言いながら地図に二点を結ぶように棒を置いた。


「可能性が高いね。この泉も、キャンプの時に水量が急に増えたし」

 護葉の意見にみんな頷いた。

 そして、地図の棒の伸びる先に目をやった。

 棒の先は、キノコの洞窟を指していた。

 流れが洞窟から始まっているのか、それとももっと先があるのか。

 誰もまだわからない。


「そういえば、青い池って、どんなところだったの?」

 双葉の質問に、一葉が説明を始めた。


 一面の白っぽい荒地。

 透明なのに青く澄んだ水。

 春の終わり頃湧き始めた池の一帯だけに苔やシダが着き始めていた事。


「苔やシダ……!」

「数ヶ月ではえるものなんだ!」

 双葉と本葉が目を輝かせて、顔を見合わせていた。


 ーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 泉の広場の北西に「青い池」発見との報告が一葉よりあった。

 日々、水量が増えている模様。

 絵葉より、水流がキノコ洞窟、泉、青い池と繋がっている可能性を示される。

 今後の調査を待つ


 水が増える……

 泉の水もキャンプの日に急に増えたのですが。

 神様何かされましたか?












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。