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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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71 ひらめきを集めて

 泉の広場は、どんどん勝手に発展していった。

 坑道係が総動員で、楽しそうに毎日新しい施設を作っていた。

 泉通りから泉の広場まで、もう巣内だとみんな認めざるを得なかった。


 今日は、実験室の引っ越し作業で泉の広場に来ていた。

 仁のアブラムシ牧場拡張のため、本部の実験室は場所を譲ることにしたのだ。


「この泉の広場の実験室は、キノコ栽培と実験を。

 泉通りの実験室は、薬関係の開発にしようか」

 そう言いながら、三人は新しい実験室のドアを開けた。


 新しい実験室は、広々としていた。

 室内には泉から引いた水路が流れ、いつでも新鮮な水を使える。

 壁際には棚が並び、薬草やキノコを種類ごとに分けて置けるようになっていた。

 さらに奥には栽培用の区画まで用意され、湿った苔が敷き詰められている。


「広い……!」

 双葉は目を輝かせた。


「さすが葉月。こちらの要望通りのいい仕事をしますね」

 紬葉が関心している横で、

「水が近い!」

 と本葉も喜んでいる。


「もう水汲みに行かなくていい!」

 と言う言葉にみんな同意した。

「毎日運ぶの大変だったもんね……」


 紬葉は、壁一面に設られた棚に目を輝かせていた。

「これは収納のしがいがある」

 たっぷり作られた棚に、運んできた荷物を片付け始めた。


「手伝います!」

 意気込みは素晴らしいが、大雑把に並べ始めた本葉に、紬葉が 早速注意していた。

「広いからって、散らかしたらダメですからね」


「整理整頓は大事です」

 本葉も神妙に答えた。


「これで、世界樹の薬の開発も進むはず」

 黒い根っこを見て以来、毎日のように薬の開発をしていた双葉だが、なかなか解決の糸口を見つけられずにいた。

「でも何から手をつけたらいいのか、さっぱりわからない」


「双葉のパワーで解決できないの?」

 本葉が軽く提案したが、双葉はしばらく考えた後に、首を横に振った。

「本体が大きすぎて。何百年もかかりそう」


「確かに私たち、ちっちゃな蟻人だもんね……」


「別方向からのアプローチが必要かなぁ」


 煮詰まっている様子の双葉を見て、紬葉が誘った。

「ちょっと気分転換に、外に出て大きな木を見ましょうよ」

 三人は、泉の広場の出口から、地上に上がった。



 夏の荒地は、砂漠のようだった。

 時折熱風がビューっと吹き付け、砂が舞い上がる。

 慌てて、数少ない草の影に身を寄せた。


 しばらく雨が降っていないのか、大地には細かいヒビが走っていた。

「夏に見ると、この土地はひどいですね。カラカラだわ」 

 紬葉はため息をついた。


 土を触り、観察していた本葉は悲しそうに言った。

「なんの匂いもしない土」


 双葉は大きな木の幹に、手を当てた時の事を思い出していた。

 大地に力が足りずに、根っこが苦しそうだった事を。

 そしてふと思いついた。


「そうか、まずは土の力を回復させたらどうだろう?」

「土の力ですか……逆に、力のある土って?」

「それは、ふかふかのいい匂いの土!」

「さっき本葉は、ここの土は匂いがないって言った。どうすれば『ふかふかのいい匂いの土』になるのか……」

「わからないけど、何か混ぜる?」

「何を混ぜるかが問題ですよね……」

「そこがわかれば苦労しないか……」


「いい匂い…ふかふか…」

 その時ふと、双葉はキノコの洞窟を思い出した。

 キノコは、ほとんど土が無くても、壁に床にびっしりはえていた。

「草や木は無理でも、キノコや苔ならなんとか生えないだろうか?」


 その言葉を合図に三人は議論を始めた。


「キノコや苔ってどんなところにはえる?」

「ジメジメしたところ」

「日の当たらないところ」

「お日様が当たっても、はえるところもあるよ」

「まあ突然この土にキノコは無理でしょうけど……」

「でも今回、大きな木の枝が置かれた。少しだけど影もできる」


「話が変わるけど洞窟の床って、ふかふかの部分があったよね」

 双葉の問いに、紬葉が手を打ち合わせた。

「そう!白い菌糸がいっぱい張ってふかふかしていたわ」


 三人は声を合わせて言った。

「「「あれを使えないかな!?」」」


「この枝の影に、ふかふかごと湿った土や苔、キノコなんかを置いてみるのはどうでしょうか?」

「確かに、突然真夏には根付かないでしょうけれど、秋か春ならどう?」

「最初は泉の水を撒きにくる!」


 三人は逸る気持ちのまま、足早に泉の広場に戻っていた。

「まずはキノコの採集か……?」

 双葉の言葉に本葉は目を輝かせた。


 そんな二人の横で、

「菌糸、ふかふかで思い出したんですけど……」


 紬葉はそう言いながら、引越しで運んだ荷物を棚の奥から引っ張り出した。

 それは、色々なキノコを植え付けているおがくずの塊だった。

「以前に地上探索の時に集めたキノコなんです。食用にならないので、あまり増やしてなくて。でも、毒もないのは確認済みです」


 色んな形のキノコがそれぞれの箱に植え付けられていた。

 紬葉が説明を続けた。

「実は、このキノコたち、どの種類も見た目はちっちゃいんですけど……」

 そう言うと、キノコの根元を引っ張り、おがくずをそっと払いのけた。そこには、もしゃもしゃと伸びた菌糸が絡まりあっていた。

「こんなふうに菌糸が絡まりあって、箱いっぱいに菌糸を伸ばすんです。座布団の中身にできないかと思って研究中なんですよ」


 三人は顔を輝かせた。

 研究者としての議論が白熱し、早口になっていった。


「これは、可能性あるんじゃないか?」

「地面に敷き詰めたらどんどん増える?」

「いえ、このキノコたちは、結構水が必要です。あそこでは干からびるのでは?」

「話が元に戻ったなあ。干からびない……水を蓄えられる土だったらいいけど難しい」

「あの土か……どうかなぁ」


「やってみないとわかりませんね。まずはこの広場で、この菌糸を増やしてみましょう」

「おがくずの上で?」

「それだけではなく、幾つか試す必要がありますね」


「おがくず、地上の土、あとはなんだろう…」

「今までの研究では、枯れた葉っぱなんかを混ぜるとキノコの成長が早かったんですよね」

 紬葉が枯葉も棚から引っ張り出した。


「あるものから始めるか」


 双葉の言葉を合図に三人は、キノコ栽培の準備に取り掛かった。

 一緒に研究を続けてきた三人は、息のあった様子で手際よく作業を進めた。


 一人では思いつかないことも、三人で考えれば糸口が見えてくる。

 この案が上手く行くかどうかはわからないが、まずは試してみよう。

 この一歩一歩が、大きな木の回復につながるはずだ。


 双葉は、そんな事を考えていた。


 ーーーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 泉の広場の開発が進んでいる。

 人数が増えて手狭になりつつあったので、良い機会なのかもしれない。


 巣の中の役割を分けることにした。

 今までの巣は、固い守りが必要な女王室や育房室、執務室など本部として。

 泉の広場は、水の必要な栽培や、大型の倉庫を。

 泉通りは、二ヶ所を繋ぐ拠点として活用の予定。


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