67 キャンプで見つけた宝物
卵から孵ったのは、二番目だった。
最初の記憶は、大怪我で苦しむ女王さまと、走り回る仁と一葉の姿だ。
そんな中でも女王さまは優しかったし、一葉は可愛がってくれた。
仁は厳しかったけど、いつも正しく導いてくれた。
妹たちが生まれて、巣がどんどん大きくなっても、それは変わらない。
私が変わり者だっていう自覚はある。
一葉や風葉たちみたいに、採集にはいけないし、
千葉夜みたいに面倒見が良いわけではない。
葉月みたいに、穴掘りは上手くないし、
護葉みたいに、みんなを護れるわけでもない。
それでも、キノコ栽培も
アブラムシ牧場の葉っぱ栽培も頑張った。
新しい素材も作ってきたし、
お薬だって作ってきた。
でも最近は、妹たちが頑張っている。
私にしかできない仕事って、なくなってきた。
旅に出るのもいいかも。
見たことのないの素材を見つけてみたい。
色々考えてばかりだけど、実験は楽しい。
特に、葉月たちが持ち帰ったキノコと白い根っこ。
ワクワクが止まらない。
泉の広場の実験室は、宝物で一杯だ。
そんなある日、みんなでキャンプに行くって。
私は後半組を希望した。
ちょっとみんなと離れたかったし。
賑やかな巣も好きだけど、たまには静かに過ごしたい。
結葉と二人、ゆっくり過ごした夜だった。
お昼前、千葉夜と一葉と紬葉と葉月、そして子蟻の多くが帰ってきた。
みんなとっても元気そう。
お土産話はそこそこに、私と結葉が出発する。
葉月が案内してくれるって。
「帰ってきたばかりで大丈夫?」
私は聞いてみたけれど、いつも以上に元気な返事。
巣を離れるのは始めて。
まずは泉通りの倉庫前の白っぽい根っこを見に行こう。
何度もみんなの話題に出ている根っこ。
絵葉が「なんか変」と繰り返していた根っこ。
根っこは絵葉の絵より大きかった。
想像以上の存在感。
そっと手を触れてみると「なんか変」
たしかにそれ以外表現できない。
次は「元気になーれ」と力を送ってみる。
手応えが感じられない。
「この根っこ生きてるの?」
葉月と結葉に聞いてみたけど 「さあ?」と返された。
「双葉にしかわからないでしょ」って、変な事言うね。
さっきより力を込めて「元気になーれ」
反応は微かだったけど、なんとなく届いたような気がした。
今日はここまで。結葉が待っている。
「またくるからね」 根っこに挨拶して先を進んだ。
そこからは、道、道、道、分かれ道、道、道ばっかりだ。
整備されていて、面白いものは落ちていない。
ただ、時々見かける木の根っこは、泉通りのあの根っこと同じ木だ。
これもやっぱり「なんか変」
葉月が一生懸命に、坑道の解説をしてくれる。
今と全然違う掘り方なんだって。
相槌は結葉に任せよう。
途中で一箇所だけ、気になる穴があった。
さっきの木の根っこが、いっぱい垂れ下がってる。
「この奥がキノコ洞窟だよ」 葉月が言った。
中に入ろうとしたけれど、二人に止められた。
気になるけど仕方がない。
女王さまが待ってるから。
あとで絶対見にこよう。
なんだか根っこが呼んでるみたいだった。
そんな事を考えていたら、泉の広場に到着した。
想像よりも近かった。
もっと早くに巣を出てみたら良かったかも。
女王さまが出迎えてくれた。
「今からキノコ洞窟に行ってくるね」
女王さまは目を丸くして 「まずはお昼ごはんよ」
たしかに少しお腹が空いた。
お弁当をサッと食べて「いってきます」
出かけようとしたら、今度は仁に止められた。
「案内も付けずに一人で行っては危ないです」
「大丈夫」 と私は言ったけど、仁は眉間に皺を寄せた。
「案内役が揃うまで、水辺の調査をお願いします」
仕事を言いつけられてしまった……
でも苔も気になるから、まあいっか。
泉の回りの苔を調べていると絵葉がやってきた。
「絵葉の言ってた『なんか変』がやっとわかったよ」
「そうですよね! さすがです。双葉ならわかってくれると思ってました」
絵葉は最近よく実験室にもやってくる。
実験したいのかな?
「泉通りの白っぽい根っこから力送ってみたんだけど。手応えがあるような無いような。
木が大きいからか、繋がる感覚が遠いよね……」
「木が大きいって、双葉はどの木の根っこか知ってるんですか?」
「場所は知らないけど、みんなが言ってる『古い大きな木』の根っこよね?女王さまの椅子も作ったでしょ」
ちょうど二人を呼びに来た風葉が叫んだ。
「あの木の根っこが、巣まで延びてるの?」
その声に、みんながわらわら集まってきた。
みんなどうしたんだろ?
絵葉は地図を広げて説明を始めた。
「巣がここで、現在地がここ。裂け目の地下です。さらに西に行ったここが『古い大きな木』です」
「よくわからないけど、遠いな。でも、そこらじゅう根っこ見えてたし」
「えっ全部、同じ木の根っこなの?」
「そうね。見たら分かるよね」
「普通は見ても、わからないよ!」
「わかるのが双葉だよね……」
みんなが声をあげる中、絵葉が言った。
「違和感の一つはそれですね。泉通りよりも南側は、違う根っこだと思うんです。この辺の根っこは全部一本の木だったんですね」
「たしかに、めちゃくちゃデカい木だからな…」 と風葉が呟き、
「あり得ますね。私の記憶が正しければ、この辺りに木は一本しかありません」
地図を指しながら仁も同意した。
「そろそろ出発してもいいでしょ?」と仁に聞いたら、
風葉と護葉が案内するって言ってくれた。
絵葉が「絶対一緒に行く」と譲らなかったので、早速四人で出発だ。
といっても、誰も来てない?
まあいいや、と歩いていたら、三人が走って追いついてきた。
「何も持たずに出発する奴があるか!」 なぜか護葉に叱られた。
護葉って怒るんだ……よくわからないけど気をつけよう。
根っこのカーテンはすごい。
細くて柔らかいのに、全く切れない。
落ちてるヒゲ根っこは、どうやって切れたんだろう?
実験室でも切ることはできなかった。
素材としては優秀なんだけど。
「女王さまの椅子を作った時は切れましたよね?」
絵葉の言う通りだ。あれは丈夫だが切れた。
枝なら切れるの?
何が違うのか謎が深まった。
「ここで座り込んでたら、奥まで辿りつかないけど」
風葉もたまには良いこと言うね。
キノコ洞窟が大本命だ。
先へ進まなきゃ。
根っこのジャングル歩きにくいな。
考えごとしようと思っても、集中できない。
もう帰ろうかと十回は後悔した。
でもキノコ洞窟は、どうしても見たい。
石灰岩も持って帰りたい。
あれは絶対役にたつ素材だ
それにしてもジメジメする。
汗を拭っているときに、三人が口々に言った。
「前回こんな湿気が多かった?」
「いえ、もっとカラッとしてましたよね」
「根っこがほんのり湿っているような?」
地上で雨でも降ったのかな?
前言撤回。探索の旅は、私には向いていないかも。
私史上、一番の頑張りを見せて歩いたら、ついに床が土から岩に変わった。
気分は変わるけど、ものすごく滑る。
護葉が手を引いてくれた。
「周りも見たいでしょ。任せて」って。やっぱり優しいね。
観察しながら進んで行った先に……!!
ひかるキノコの洞窟についた。
本当に光ってる!
お土産のキノコは、いくら説明されても光ってなかったから。
半分信じてなくて、みんなごめん。
天井からは水が滴り、床は水浸しだった。
これ、もうすぐ池になるんじゃない?
三人が「ここが水浸しだから、さっきの部屋もジメジメだったのか」と納得していた。
「ゆっくりどうぞー」 風葉が声をかけてくれた。
彼女は、奥の空間の偵察に行ってきてくれるって。ありがとう。
「キノコは、木の根っこから生えてるんですよ」
絵葉の説明を聞いて確認していく。
たしかに、岩壁に木の根っこが絡んで、その上にキノコが生えている。
「前回よりキノコが光ってるような……」絵葉がスケッチを確認していた。
一つ一つ丁寧に見ていって気がついた。
「光ってるキノコは、岩から生えてるよ」
絵葉もやってきて、「見落としてました。さすがです」と絵を描き直していた。
根っこがほとんど見えないくらい、キノコがびっしり生えてるんだけどね。
ここも、もちろん同じ木の根っこだ。
色がおかしい。かなり元気がないけど……触りにくいな。
「……葉、双葉ってば!」 風葉が戻ってきていた。
今すぐ奥に出発するんだって。
急がないと、この部屋は水で歩けなくなるかもって護葉が急かせる。
「帰りにもう一回キノコ見れるから。奥行くのやめる?」
せっかく来たのに、それは困る。
護葉って、意外とせっかちなんだね。
黒い根っこの部屋に着いた。
入る前から空気でわかった。
これは………「近寄ったらダメなやつだ」
三人にそう告げて、根っこから離れて観察した。
今までの根っこより太い。黒い部分は病気かカビだろう。
痛々しい姿に心が痛む。
持って帰りたい気持ちもあるけど、今はダメだ。巣に危険が及ぶ。
「なんとか考えるから、頑張るんだよ」 心の中で伝えて、足早に引き返した。
気にはなるけど仕方ない。帰って方法を考えよう。
キノコ部屋に戻って、石灰岩ごとキノコを持って帰ることにした。
みんな一生懸命に、ひかるキノコ付きの軽そうな岩を探してくれた。
大きい岩でも良かったんだけど、なぜ阻止するの?
絵葉ならわかってくれると思って見たら、無言で首を横に振られた。
「さっきよろけて転びかけただろ」
護葉に追い打ちをかけられる。
「あれはちょっと滑っただけだし」
「一つだけ」と言われてがっかりしたけど、
風葉が持ってくれるって。口は悪いけど優しいな。
一通り見たいものは見た。
さあ、巣に帰って、研究だ!
と思ったけれど 「泉の広場でキャンプでしょ!」と引っ張って行かれた。
まあ、泉の探索もしたいし仕方ない。
気持ちは軽いけど、脚が重い。運動不足かな。
これからは、遠出もしよう。
「『大きな古い木』も地上から調べに行こう!」 と、
意気込みを語ったけど、「キノコの部屋より遠いし危険」と風葉が言う。
ちょっと心が折れかけたけど大丈夫。ちゃんと歩けるよ。
「絶対付いて行くから声かけて」って、風葉も意外と甘えたなんだよね。
まあ、みんながいてくれた方が、観察に集中できるんだけど。
「泉に着いたら、必ず水浴び」 三人と一緒に、泉に飛び込んだ。
あの黒い根っこに近づいた日は、特に清潔にするよう、仁にも伝えた。
他の根っこも白いうちは良いけど、黒くなり始めたら、
触らず私に報告することを約束してくれた。
その後、ひかるキノコを見た女王さまは 「どうしても見に行きたい」
結局、仁と護衛班を連れて、明日の帰りに行くことになった。
仁は昔から、女王さまのお願いに弱いからね。
きっと抱えてでも見せに行くだろう。
昨日まで、旅に出ようかと思っていたけど、
やっぱり、ちょっと延期しよう。
黒い根っこも治してあげたいし。
まずは根っこを調査して回ろう。
今まで大人っぽく見えたけど
風葉も護葉も意外と子供っぽいな。
みんなのことも、もう少し面倒見てあげなきゃ。
私は二番目のお姉ちゃんだから。
そんなことを考えながら、晩御飯も待たずに眠ってしまった。
またキャンプに行きたいね。
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仁の日誌
キャンプ二日目
前半組は無事帰宅し、双葉と結葉が到着。
概ね大人だけの静かな時間が過ごせた。
明日は最終日。
蜜葉乃様を洞窟に連れていくことになってしまった。
万全の準備で臨む。
双葉が思い詰めているようだと、到着した結葉から報告があったが、夜には勘違いだったと撤回された。
双葉に、新しい目標ができたようだ。
この辺りの根っこが全て、「古い大きな木」のものだと双葉が言う。
彼女が断言するなら間違いないのであろう。
植物に関する彼女の能力は、計り知れない。
この件は任せて様子をみよう。
洞窟に付き添った風葉と護葉から 「双葉は単独での探索は絶対禁止」と報告あり。
「絶対すぐに遭難する」らしい。




