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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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65/130

65 お昼ごはんがなくなる前に

「片道二時間の道を、全員往復するのは大変ね」


 蜜葉乃がこぼした言葉をきっかけに、遠足は二泊三日のキャンプに変更された。

 卵や蛹を置いて、全員で巣を開けるのは現実的ではない。

 順次入れ替わりながら、全員参加で楽しむことが決まった。


 当日までに、大急ぎで泉の広場を整えた。

 葉月と共に、泉通りを工事した子蟻たちが再び張り切った。


「この丘に、寝る時用の穴を掘らない?」

「葉月、掘ってもいい?」

「いいね。この一番眺めのいいのは、女王さまと仁の部屋にしよう」


「部屋の前の草刈り終わったよ」

「その草は、寝る場所に敷いたらどう?」

「泉の周りも点検終わったよ」

「見える範囲なら泳いでもよさそう」

「夜灯り苔も持ってきたから、少し植えよう」


 そうやって持ってきた食料を食べ、泉で水浴びを楽しみ、掘った部屋で眠った。

 結局、当日まで巣に帰らず作業を続けた。



 そして迎えた当日の早朝。

 護衛室前の出入り口は、かつてなく満員だった。


 取りまとめ役の結葉が大きな声で告げた。


「順番に出発です。

 第一班は、紬葉と護葉と子蟻たち。キャンプの道具を運んでください。

 現地の葉月と共に、拠点準備があなた達の役目です」


「やった一番乗り」

「着いたら泳ごう!」

「先に準備に決まっているでしょ」


 ワイワイ騒ぐ子蟻たちが、荷車を押したり引いたりしながら出発していった。


 まだ呼んでいない子蟻たちまで、勝手に集合している。

「朝ごはん食べてきたの?」

「朝のお手伝いも終わった?」

「忘れてた!」

 結葉に言われて、慌てて戻っていく子蟻もいた。



「続いて第二班は、絵葉と本葉、風葉と力持ちの子蟻たち。

 泉通りの倉庫で、食べものを積んで運んでください。

 お弁当も、そこに運び込んであります」

「お弁当!」

「途中で食べていい?」

「ダメに決まってるー」

 大きな笑い声と共に、出発した。



 しばらく時間を置いて、本隊の蜜葉乃と仁もやってきた。

「巣から出るなんて一年振りかしら!楽しみね」

「蜜葉乃さま、今からはしゃいでは、最後まで歩けません」

「まあ仁、子蟻扱いしないでください」

「申し訳ありません。その子はこちらに乗せてください」


 皆で、歩くのが心許ない子蟻達を抱いて集まり、そっと荷車に乗せた。

「どこいくのー?」

「大丈夫ですよ。楽しいところへ行きましょう」

 千葉夜が優しく声をかけた。


 一葉と護衛班所属の子蟻たちも到着して、出発メンバーが揃った。


「結葉、取りまとめをありがとう」

「では留守番をお願いします」

「お気をつけていってらっしゃい」

 こうして一行は、ゆっくりと出かけていった。


 結葉の隣で、双葉が皆を見送りながら自慢気に言った。

「あの荷車は、実験室の叡智を結集して作った特別仕様車だよ」

「ちびっこ達も乗りやすそうね」

「女王さまも、最後まで歩けるか不安だからね」

「たしかに……」

「仁が上手く言いくるめて乗せるでしょう」

 今日は留守番役の二人は笑いながら、育房室に戻っていった。



 本隊は、護衛隊を先頭に泉通りを順調にゆっくりと進んでいた。


「これが新しくできた倉庫!」

「すごいー」


「あら?坑道の壁が変わったわ。古い道?」

「ふるいー」


「床にでこぼこがないのね」

「ゆれないよー」


 目に映るもの全てが新鮮で、蜜葉乃もちびっこ子蟻たちも楽しそうだった。


「蜜葉乃さま、はしゃいでいると転びます」

「相変わらず仁は大袈裟ね」

 仁の忠告も上の空で聞き流していた。


 しばらく行くと、予想通り子蟻たちが飽きてきた。

「歩くー!」

「ちょっとだけだから」

「ころばないよー」


「気をつけるんですよ」と千葉夜が折れた。

 千葉夜に荷車から下ろしてもらい、ちびっこたちは元気に歩き始めた。

 どうみてもヨチヨチ歩きだが、みんなと手を繋いでもらってご機嫌だ。


 空の荷車は、今は仁が先頭で引っ張っていた。

 新造された四輪の荷車は思いの外、軽かった。


「今までのものより、断然軽い。実験室のメンバーの力作ですね」 

 仁の呟きを聞いた蜜葉乃が言った。

「私も少し引いてみたいわ」


「……ダメです」

「ちょっとだけ。軽いんでしょ?」

「蜜葉乃さまが引くものではありません」

「大丈夫だから」


 もちろん仁は渋い顔で拒否していたが、

「せっかくのキャンプなのに…」

 と蜜葉乃のしょんぼり顔には勝てなかった。


「……ほんの少しだけですよ」


「ありがとう、仁。あら本当に軽いわね!」

 蜜葉乃はちょっとペースを上げた。


「先頭を行かないでください」

「大丈夫、ちょっとだけですから」


 仁は蜜葉乃を追いかけた。

 坑道はいつのまにか、緩い下り坂に入っていた。


「……あら?」

 コロコロコロッ


「仁ーー、止まらない!」

 仁は荷車を押し退け、横から蜜葉乃を抱え込んだ。

 慌てて護衛隊の一人が全力疾走で追いつき、荷車を掴んだ。


 無事に荷車は止まった。

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ」


 子蟻たちは「すごーい!」と手を叩いて大興奮だった。


 息を整えた仁は言った。

「この荷車を坂道で使う時は、必ず後ろから補助が必要ですね」

 千葉夜も全力で同意した。


「さあ、子蟻たちはそろそろ荷車に乗ってください」

 仁の言葉に「えーー!」と抗議の声が上がったが、

「到着が遅いとお昼ご飯はなくなりますね」

 千葉夜が言うと、大急ぎで乗り込んだ。


「蜜葉乃さまもどうぞ」

「えっ?私は歩けますよ……」とこちらも抗議の声を上げたが、

「お昼ご飯がなくなります」

 仁が断固とした口調で答えた。


「女王さま、ご飯なくなるから早くのって」

「ゆれないから、こわくないよ。早く」

 結局蜜葉乃も、子蟻たちには勝てなかった。


 到着まで、仁は荷台をしっかり持って離さなかった。

「紬葉に、ブレーキを考えてもらわなければ」



 ちょっとしたハプニングはあったけれど、泉の広場に無事到着した。


 女王さまの到着に、皆が歓声を上げた。


 ちょうど設営が終わり、ご飯の準備が整ったところだった。


「うわー、広い」

「いずみだー」

「ごはんに間に合ったね!」

 蜜葉乃はすやすや眠ってしまっていたが、ちびっこ子蟻たちの声で目を覚ました。


「お目覚めですか、蜜葉乃さま」

「この荷車は本当に乗り心地が良いわね……」

「到着いたしました」


「これは想像を超える広さね。気持ちが良いわ」

 蜜葉乃は辺りを見回してから言った。

「早速ですが、お昼ご飯を始めましょう。食べたら自由に過ごして良いですよ」


 仁の合図で、みんなが思い思いの席についた。

 簡単なお弁当だったが、屋外で食べるのは格別だった。


 子蟻たちは、泉で水遊びがしたいようで、あっという間に食べると、先を争うように飛び込んでいった。

「遠いところには行ったらダメですよ」

 護葉や千葉夜が注意して回っていたが、葉月が子蟻を引き連れて遠泳を始めてしまった。


「丘も登りたい」

「どっちが速いか競争しよう」

「登ったら、今度は駆け降りっこ競争ね」

 一葉と紬葉も子蟻たちを追いかけて走り回っていた。


 なお、本葉が自慢の荷車を引いて丘を駆け上がり、その後、子蟻を乗せて駆け降りようとしたため、千葉夜にこっぴどく叱られた。


 そんな様子を蜜葉乃と仁が、岸辺で笑って眺めていた。

 賑やかだけど、ほのぼのとした昼下がりの時間が過ぎて行った。


「思いきって来てみて良かったわ。仁、ありがとう」

「蜜葉乃さまに喜んでいただけてなによりです」


 久々にゆっくりと二人の時間を過ごした。








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