↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/130

64 みんなで歩く、その前に

 護衛室前は、以前よりも賑やかになっていた。


 探索で持ち帰った採集品は、ほとんどが巣への持ち込み禁止になったのだ。

 そのため護衛室前には、追加で倉庫と実験室が掘られた。

 さらに、偶然掘り当てた湧水を利用して、体を洗うためのお風呂まで作られた。


 仁が決めた新しい決まりが一つ、巣の入口に貼ってある。

「地下から戻ったら、必ず体を洗ってから巣へ入ること」


 最初は面倒くさいと文句を言っていたが、みんな今では慣れたものだった。


 探索の続きをしたい葉月の機嫌は悪かったが、「巣の安全のためには仕方ない」と全力全速で工事をすませてくれた。


 そして今日ようやく、護葉と葉月は安全確認のため、古い坑道の巡回へ向かっていた。

「泉の広場」への安全な坑道整備も急ぎたい。


 今日の予定を確認しながら、二人は側道入り口についた。


「補強も問題ないな」 

 素早く葉月が確認していた、その時だった。


 護葉が触角をピクリとさせ、葉月にも緊張が走った。

 坑道の奥に耳を傾けていると、奥から小さな笑い声が聞こえてきた。


 他の蟻人か、それとも虫か、と入り口の陰に隠れて様子を見ていると、現れたのはちびの子蟻三人組だった。


 二人と目が合った途端、

「あっ、見つかった」

「やばい」

「にげろー」


 三人は一目散に逃げようとしたが、護葉から逃げ切れるはずもない。

 あっという間につかまり、女王室に連行された。



 女王室には、蜜葉乃の他に、仁もいた。


 護葉と葉月から事情を聴いた仁が、子蟻たちを見回した。

「禁止札がはってありましたね。立入禁止と知っていたはずです」


 仁の静かな怒りに子蟻たちは小さく「ごめんなさい」と繰り返していたが、やがてしょんぼりと答えた。


「だって見たかったんだもん」

「泉があるって聞いたし」

「探検したかった」


 椅子に座って静かに見守っていた蜜葉乃だったが、子蟻たちの前へしゃがみ込むと言った。

「気持ちは分かるわ」


 チラッと視線を投げかけられ、仁が頭を抱えて言った。

「蜜葉乃さま、甘やかさないでください」

「うふふ。もちろん立入禁止のルールは守らないとね」

 そういいながら、少し目を逸らした。


 葉月が笑い出した。

「そういえば、探索の前にも女王さまは参加したがっていましたね」


 蜜葉乃はきまり悪そうに答えた。

「だって楽しそうだったんだもの」


 子蟻たちまでもが

「女王様も?」

「そらそうだよね」

「だって泉の広場だよ。行きたいにきまってる」

 蜜葉乃に賛同の声をあげた。


 蜜葉乃と子蟻たちのタッグは反則だ。これに勝てたことは一度もない。

 仁は諦めたように言った。

「春の採集も落ち着きました。近いうちに皆で泉に遠足に行きましょう」


 女王室は、蜜葉乃と子蟻たちの大歓声に包まれた。

 仁はゴホン、と咳払いをしてから続けた。

「ただし、今すぐではありません。まだ安全確認は終わっておりません」


 今度は一斉にブーイング。

 仁は負けずに、こう続けた。

「準備が整ったら行きましょう。ただし、ルールを守れないような子は留守番です」


 子蟻たちは慌てて姿勢を正してうなずいた。

 なぜか蜜葉乃まで、真剣な顔で頷いていたが。


「泉の広場に遠足だって」

「いい子は連れて行ってくれるって」

「女王さまも、みんなで行くって」

 部屋を飛び出した子蟻たちが言い回ったので、あっという間に知れ渡った。


 仁は諦めたように、一葉に告げた。

「至急、安全確認と道の整備をお願いします」



 葉月は絵葉と護葉を連れて、早速現地へ向かった。

「イタズラ子蟻たちのせいで、仕事が進まない」

「まあみんな最初はあんなもんだよ」

「私もついこないだ迄、子蟻でしたし」

「絵葉は最初から落ち着きすぎ」


 古い坑道の入口に着き、早速相談を始めた。

「段差をどう削るかが一番の問題ですね」

「この根っこは動かせないからなー」

「でも段差があると、荷車も上がれない」

「荷車が使えないと、子蟻は連れていけないだろ」

「荷車があっても片道二時間はかかるでしょうし」


 絵葉は二人の話を静かに聞きながら、地図と坑道を見比べていた。


 そして今度は絵葉が、葉月に相談を始めた。

「崩落して塞がっていた箇所は、やはり弱いと思います」

「確かに他の場所に比べるとな」

「崩落せずに残っていた旧坑道まで戻って、そこから巣に向かってに新しく道を掘りませんか?」

「確かに結果的に近道にもなるな」

「この距離なら二日もあれば開通するでしょうか」

「急げばなんとかなるだろ」

「『この前、掘って固めた部分』つまりこの通路は、上手く扉をつけて倉庫兼休憩所にしましょう」

「確かに、倉庫と考えれば、高い入口も悪くない」

「ここに休憩所があると便利だと思います」

「将来的には、十分ここも巣に取り込めるな……」


 早速二人で壁を調査し始めた。

 あちこち壁を叩いていたが、上手く設計が決まったようだ。


「時間もないし、両側から掘り進めるか」

 絵葉が巣に近い坑道側から、葉月が泉へ続く旧坑道側からそれぞれ掘り進めることを決めた。


 噂を聞きつけて、手の空いた人員が勝手に坑道に集まってきた。

 葉月、絵葉、護葉に加えて、紬葉と子蟻が、控え目に言ってかなり沢山だった。


「いくらなんでも子蟻が多すぎないか?」

 葉月が呆れた声で笑った。

「……分担するか」



「じゃあ今から班分けします」

 紬葉が最初に呼びかけた。

「遠足といえば、お弁当ですね」

 子蟻たちが歓声を上げた。

「紬葉班は、たね広場にご飯の材料を集めに行きます」

 こうして急遽、紬葉が歩きの得意そうな子蟻の四分の一を連れて出掛けていった。


「次は護葉班。この奥の旧坑道を掃除と点検に行く」

 護葉の声に、ちょっとだけ強そうな子蟻たちが集まってきた。

 さっき捕まえたイタズラ三人組も混じっていた。

「泉の広場までは行かない。途中に分かれ道も多い。言うことを……」

「言うことを聞かない子蟻は、遠足は留守番だもんねー」

「護葉隊長、大丈夫であります!」

「出発の号令を!」

 子蟻たちは、ビシっと敬礼して、苦笑いする護葉と出掛けていった。



「ちょうど半分くらい残りましたね」

「では半分に分かれて、両側から掘るぞー、オー!」

 絵葉と葉月の班にそれぞれ分かれて、工事が始まった。


 二人でこの数の子蟻の面倒を見れるのか、内心困っていたのだが……

「みんな並んでー。順番に掘った土を後ろの人に送ってね」

「よいしょ」「よいしょ」「よいしょ」「よいしょ」

「運び出した土どうするのー?」

「倉庫の前に置いとくね」


「この土余ってるなら、階段作っていいよねー」

「階段より、スロープの方が荷車もあげれるよ」

「倉庫の中も、壁固めておくね」

「椅子と机くらいあった方がいいねー」

「私は扉をこの蔓で編むわ」

「椅子も蔓の方がいいよね。手伝うね」


「じゃあこっちの坑道も、壁のヒビ直しとくー」

「ここの壁の根っこもベンチにできるな」


 それぞれが意外な才能を次々と発揮した。

 自然に特技を活かしたグループができていた。


 葉月のすぐ後ろで、土を掻き出していた子蟻に至っては、葉月が休憩した途端に

「任せてください」

 と言うや否や、先頭でせっせと穴を掘り出した。


 その結果

「つながったー!」

 なんと三時間ほどで道が開通してしまったのだ。


「二日はかかると思ってたのに」

 葉月が呆然と呟いた。


 そこからは葉月の指導の元、子蟻たちは一生懸命に壁を固めて、床を平らにならしていった。

 絵葉は、早速新しい坑道の記録をはじめた。



 夕方、心配そうにやってきた仁を、子蟻たちが取り囲んだ。

「新しい道を掘ったよ」

「ガタガタもないよ」


 そこには朝にはなかった新しい坑道と、スロープ付きの倉庫。

 そして自慢気に胸を張る子蟻たちの姿があった。


 ちょうど護葉の護衛班が戻ってきて、一同揃って敬礼した。

「護衛班、ただいま帰還しました!」

「坑道異常ありませんでした」

「危険箇所は塞ぎました」

「掃除も行いました」

 勝手に報告する子蟻を、護葉が笑ってみていた。


 最後に紬葉の採集班も戻ってきた。

 みんな背負子いっぱいに、集めていた。

 全員頑張って最後まで歩いたようだ。


 新しい倉庫に移動して、採集物を詰めた。

「どうせ泉に運ぶなら、ここに保存しておきましょう」


 仁が倉庫の中を見まわした。

「ここに倉庫は便利ですね」

「絵葉が思いついたんだ」


「道もずいぶん増えました。名前がないのは不便ですね」

 仁の言葉に絵葉が答えた。

「地下の護衛室からでて、南に向かう『地下のたね広場』への道を『たね広場の道』・

 西へ向かう『泉の広場』への道を『泉通り』でどうですか」


「覚えやすいな」葉月が同意し、

「じゃあここは、『泉通りの倉庫』ですね」

 仁も満足そうだった。


「中も使いやすく整備されていますね」

 すでに紬葉は中を片付けながら、持っていく食料を考えていた。

「お弁当は何にしようかしら」



 それぞれが帰宅して、大混雑の中お風呂も済ませた。


「地下から戻ったら、必ず体を洗ってから巣へ入ることー」

「ルールだからねー」

「今日はちゃんと入る!」

「遠足行きたいもん!」

 いつも逃げ回る子蟻が、自分から湯船へ次々と飛び込んでいった。


 葉月が「初めてじゃない?」と笑った。


「ルールを守れるようになったな」

 護葉に褒めてもらった、子蟻たちも満足そうに笑った。



 その日の夕飯前に、仁が言った。


「準備は整いました。三日後に、みんなで泉の広場へ行きましょう」

「やったー!」

「遠足だー」

「早く寝なくちゃ」

「明日じゃないよ。三日後だよ」

「お弁当作らなきゃ」


「地上採集班が、たっぷり蜜の採集したからね」

 一葉が自慢気に言ったのを皮切りに次々と声が上がった。


「野苺もかなり摘んできた」

「実験室なんて、実験休んで荷車をいっぱい作らされたし!」

「キノコも食べ頃に育ててあります」

 みんなそれぞれ、遠足の準備を頑張ったらしい。


 最後に蜜葉乃が言った。

「千葉夜、明日にでも、ころころ蜜飴を作りましょうか」

「そうですね、大量に必要ですから。また子蟻たちの出番ですね」


 遠足までは、あと三日


 しあわせに満ちた夜が更けていった


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 急遽、泉の広場への遠足が決まった。三日後だ。

 遠足というより、一泊のキャンプになりそうだ。

 蜜葉乃様が、行きたくてしようがないご様子。

 全力で願いを叶えよう。


 もう少し先を想定していたが、総力を上げて、ほぼ一日で坑道工事が終わった。

 子蟻たちの能力の高さには目を見張るものがある。

 明日からの準備でも戦力となるだろう。


 葉月、絵葉の柔軟な設計にも驚かされた。

 泉通りの倉庫も含め、巣の拡張案を提案された。

 遠足後の重要な検討課題だ。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。