60 ぴったりのお仕事、見つけました
育房室では、今朝も子蟻たちが元気いっぱいだった。
女王さまの回復に合わせて、子蟻もずいぶん増えた。
布団を畳み、身支度を整えて、みんなで食堂に向かっていた。
ようやく食堂に行けるようになった、大きい組の子蟻たち。
千葉夜が六人に優しく話しかけた。
「今日はしっかり食べましょうね」
「どうしてー?」
「今日からみんな、お仕事のお勉強だから」
その言葉に子蟻たちは大興奮。
「やっぱり探索班よね!」
「牧場で仁と働くよ!」
「配達にいきたい!」
「研究室で大発明する!」
「わたしは護衛!」
口々に夢を語り合う。
そんな喧騒の中で一人だけ、静かにうつむく子蟻がいた。
千葉夜はそっと彼女を見ていた。
みんな色々と希望はあるけれど、子蟻の最初のお仕事先は、アブラムシ牧場と決まっています。今朝は牧場入り口で、仁と結葉が出迎えてくれた。
「今日からしばらく、ここがお仕事場です」
「今からお仕事を説明しますね」
「はーい!!」
最初は葉っぱの運び方。
蜜の採り方。
アブラムシへの接し方。
子蟻たちは目を輝かせて、聞いていたかどうかはちょっと怪しい。
控えめに言っても、大騒ぎだ。
「かわいい!」
「たくさんいるね!」
「触ってもいい?」
「ぷにぷに!」
「おいしそう!」
不穏な言葉に、なんだかアブラムシが後ずさった気もする。
だけど一匹だけ 「……こわい」
涙目の子蟻を見つけた。
「怖いものは怖いですよね」
仁が優しく頷いた。
「大丈夫。あなたに合うお仕事を探しに行きましょう」
結葉がそっと、子蟻の手を取った。
アブラムシが怖いなら、虫がいないお仕事から。
だけど、お外はまだ危ない。
最初は配達班に行ってみよう。
配達班のお仕事は、巣内で荷物を運ぶこと。
「まずはこのお手紙を、護衛室に運んでね」
喜び勇んで出発したが、あれあれ、同じ道ばかり??
知ってるはずの道なのに、右も左も見失い、とうとう子蟻は泣き出した。
後ろから、見守っていた結葉が駆け寄った。
子蟻をそっと抱きしめてから、次のお仕事に連れていった。
道を覚えるのが苦手なら、部屋から出ないお仕事はどうかしら。
倉庫の仕事は、荷物の整理。
みんなが集めてきたご飯、手早く分けて片付ける。
「この箱を向こうに運んでくれる?」
素直に頷き持ち上げようと、頑張ってみたが箱が重い。
三歩進んだその先で、荷物に負けて倒れこんだ。
「たすけてぇ……」
慌てて紬葉が救出した。
結葉は再び考えた。
ちょっと早いかもしれないが、試しに採集はどうかしら?
こんな時こそ「地下のたね広場」
新人子蟻の登竜門。
地下探索の出入り口。
護衛室から出た途端、子蟻は恐怖に固まった。
住んでいるのも穴だけど、こっちの道は様子が違う。
薄暗い坑道を目の前にして、もう一歩も進めない。
子蟻を任されていた葉月はそっと言った。
「まあ、向き不向きあるよ」
次に向かったのは研究室。
「新人を連れていくには不向きなんですが、何事も経験ですから」
結葉は自分に言い聞かせるように呟いた。
研究室に入った途端、不思議な匂いがたちこめた。
結葉が部屋を見回すが、頼りの紬葉が見当たらない。
思い返すと紬葉はさっき、倉庫整理をしていたわ。
引き返そうとした、ちょうどその時、飛んできたのは双葉と本葉。
「ちょうどよかった!」
「手伝って!」
「ちょっとコレ持ってるだけでいい」
子蟻が拒否する隙もない。
言われるがままに右往左往。
あれあれ、ちょっと楽しいかも?
なんだか調子が乗ってきた。
双葉も本葉も張り切った。
でもここは研究室。
「これ入れてみよう!」
「大丈夫、だいじょーー!!!??」
バーーーーン!!!!!
「……ちょっとした、ささやかな爆発だから、大丈夫」
双葉がかなり苦しい言い訳をしたが、怒った結葉が子蟻を抱きしめて言った。
「こんな危険な子蟻の研修はありえません!」
結葉に連れられて、子蟻は育房室に帰ってきた。
「今日はおしまいにしましょう。また明日考えましょうね」
子蟻は無言のまま、布団に潜ってしまった。
夕方になり、牧場研修組が戻ってきた。
「今日は楽しかった!」
「明日も頑張る!」
「仁が細かすぎる!」
「でもアブラムシって意外と可愛いね」
「指について甘露が美味しかったわ」
みんなが盛り上がる中、一人布団に隠れていた。
みんなが寝静まった後に、千葉夜が食べ物を持ってきた。
「今日は上手くいかなかったのね」
「みんなみたいになれない」
「そうですね」
「…………」
「今日は大変でしたね」
温かい手で、優しく頭を撫でてくれた。
子蟻は少しだけ安心して、ころころ蜜飴を食べた。
「明日は頑張ってみるね」
そう囁いたその時、羽化したばかりの小さな子蟻が泣き出してしまった。
子蟻はそっと駆け寄り 「どうしたの?」 と優しく話しかけた。
そのまま、横で子蟻の背中を撫でていた。
その子が泣き止んだあと、散らかっていた積み木を片付けた子蟻は、自分の布団に戻って行った。
「ちいねえちゃん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。良い夢を」
千葉夜はじっと考えこんだあと、足早に女王室に向かった。
ちょうど女王室では、蜜葉乃と仁、結葉が子蟻たちの研修の様子を話していた。
「牧場での研修は、いつも通りつつがなく進んでおります」
「そう、今回の子蟻たちも、いいお仕事を見つけられるといいですね」
「千葉夜、あの子蟻はどうしましたか?」
「しばらく閉じこもっていましたが、大丈夫です」
「なかなか、あの子蟻に合いそうな仕事が見つからなくて」
その結葉の言葉の後、千葉夜が告げた。
「あの子蟻は、育房室に残します」
次の朝、とても早く目を覚ました子蟻は、千葉夜に連れられて女王室に来た。
部屋には、女王と仁もいた。
「おはようございます」
「おはよう、昨日の疲れは残ってないかしら?」
蜜葉乃が優しく声をかけた。
「おはようございます。朝早く呼び出して申し訳ないのですが、あなたの配属が決まりました」
仁の言葉に、子蟻は真っ青になった。
「配属って………昨日失敗しかしていないのに?どこですか?捨てられる?」
言ってる途中で泣き出してしまった子蟻を、蜜葉乃が抱きしめた。
「いいえ、あなたは私の可愛い子蟻。そんなはずがないでしょう?」
子蟻が顔をあげると、今度は千葉夜が言った。
「育房室に残るのはどうでしょう?」
「たしかに、私は足手まといです。配属先がなくても仕方がありません」
子蟻の言葉に、三人は顔を見合わせた。
「いいえ、違います。あなたは、育房室に配属と言っているのです」
「あなたは、小さな子たちのお世話がとっても上手。部屋も綺麗に片付けていましたね」
「十分に育房室に必要な人材です」
みんなの言葉が信じられなかった。
あんなに失敗ばかりだったのに。
私にも合う仕事が見つかった?
「それとも、私のお手伝いは嫌かしら。たしかに地味なお仕事だし……」
「いいえ。育房室を希望します!」
「おめでとう。今期最初の配属決定ですね」
「おめでとうございます。あちこち見た甲斐がありましたね!」
最後に蜜葉乃が言った。
「今日からあなたも、育房室のお姉ちゃんですね」
子蟻は目を丸くして、そのあと嬉しそうに返事をした。
「はい!」
今日も育房室は大忙し。
女王さまは新しい卵を産んだし、
幼虫たちはお腹をすかせている。
蛹もなんだか、もぞもぞ動き出したような。
こちらでは羽化した子蟻が泣きだした。
大忙しの千葉夜の側で、ちょこちょこ駆け回る「子蟻のお姉ちゃん」が今日も頑張っている。
(この子なら大丈夫)
部屋の外では蜜葉乃と仁が、そっと見守っていた。
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仁の日誌
今日も一人、新しい道を歩き出した。
これからの成長が楽しみだ。
一人一人適正は違う。
研修先も、柔軟に変えてもいいのかもしれない。
千葉夜の特性を見極める力もすばらしい。
彼女は仕事が多すぎるので、今後も育房室に人員を増やすことを決めた。
研究室は、相変わらず要注意。
こちらの成長も待ちたい。




