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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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59/130

59 それぞれの居場所 

 雪解けが進み、春本番になった今朝の食堂では、珍しく諍いがおきていた。

 はじまりは、葉月の提案だった。


「結葉、『裂け目の地下の大空洞』探しに行こう。しばらくこっちにきて欲しい」

「大きな木への道の途中にある裂け目の事?」

「それそれ。この前の話し合いで、その地下の大空洞を探す事にしたんだ」


 そこに一葉が割って入ったのだ。


「今日も採集日和だから!荷車も出して地上の採集行かないと」


「新規の地下探索には結葉の感覚が欠かせない」


「結葉がいると採集の効率が違うの。今日は地上班に参加して」


 結葉を巡って、どちらも譲らない。


「えーっ、地上ばっかりズルい。今日は探索だろ」

「食料集める方が重要でしょ」

「絵葉もいるんだ。今回は絶対見つけるから」

「じゃあ絵葉でいいでしょ」

「良いわけないだろ。あいつは地図係だ」


 結葉は困って苦笑い。

「うーん……。どっちも大事なんだけど……」


 少し離れた場所で仁も苦笑していた。

 最近ずっと同じようなトラブルが続いていたが、ついに諍いにまで発展してしまった。


 実は、結葉だけの問題ではなかった。

 紬葉も、風葉も、一葉も、護葉も。

 今までは必要に応じてその日の仕事を決めていたが、限界が来ている。


 仁が宣言した。

「皆さん、今日は少し時間をいただけますか」




 今日の会議は食堂で開かれた。

 メンバー全員が集まった大会議。


 最初に仁が話し始めた。


「王国はずいぶん大きくなりました。

 子蟻もずいぶん増えました。

 ですが、今の仕事の分け方は、王国が小さかった頃のままです」


 一葉が手を挙げた。

「そうは言っても、春の地上採集は、結葉がいなくちゃ一日で回り切れない。それでなくても、紬葉が実験室を優先しがちなのに」


 風葉が同意した。

「薬草も春しか採れないものがある。食料確保は最優先」


 すかさず葉月が反論した。

「地下は人手不足なんだ。それに長い目でみたら、地下の探索は王国の役に立つ」


 もちろん一葉は譲らない。

「今が大事なのよ。冬に減った食料を補充が先でしょ」


 葉月も負けない

「一年中、同じ事言って譲らないだろ。そろそろ地下探索の番だ」


 双葉が

「研究も増えた!」


 本葉まで

「混ぜたいものもいっぱい!」


「……関係ない意見まで混ざっちゃいましたね」

 紬葉の一言に空気が和らいだ気がした。


 蜜葉乃がふんわりまとめた。

「要するに、人手不足なのよね」


 みんなの意見を聞いて考え込んでいたのは仁だ。

 いつのまに準備したのか、大きな木の板に書きはじめた。



 女王  蜜葉乃

 執事  仁


 牧場

 班長・仁


 育房室

 室長・千葉夜


 地上探索班

 班長・一葉

 風葉


 地下探索班

 班長・葉月

 絵葉


 研究班

 班長・紬葉

 双葉

 本葉


 護衛班

 班長・護葉




 ここで一旦筆をおき、仁は説明をはじめた。


「まず牧場班は、子蟻たちが、最初に仕事を覚える場所にします。

 働くことを学び、自分に合った道を見つけてもらいます」


「仁のこだわり牧場か。あそこで仕事覚えたら、なんでもできるだろ」

 風葉の言葉に、笑いが広がった。


「静かに。次に育房室と護衛班は、現状維持です」

 千葉夜と護葉に異論はなく、うなずいた。


「次に研究班。こちらは先日、本葉が加入済みです。

 今のところ問題はないでしょう。キノコの栽培室までを担当箇所とします」


「片付けも覚えたから、任せて下さい」

 本葉が胸を張り、

「研究班は、万全の体制」

 双葉も同意した。


「ただし、実験も結構ですが、キノコの生産に滞りが出た場合は、双葉、本葉は実験禁止にしますから、お忘れなきよう」

 最後に付け足され、二人が目を見開いて固まってしまったが。


 結局、

「キノコの収穫は毎日大変なので、子蟻たちの増員をお願いします」

 と紬葉が提案して、受け入れられた。


「次に探索班ですが……」

 仁が一旦言葉を切り、みんなが注目した。


「探索班のメンバーは、今まで通り、必要に応じて柔軟に対応したい。

 ただし、これを機会に地上と地下の責任者は分けます」


「地上探索班長は、今まで通り一葉だね。そこは問題ないけど、人数が足りないよ」

「風葉、あなたが補佐として、しっかり一葉を支えるのです。子蟻の育成もあなたの仕事の一つですよ」


 風葉と仁のやり取りを、じっと聞いていた一葉が、口を開いた。

「もちろん、子蟻達の育成は大事。

 でも護衛もなく採集先で、何かあったら護りきれないんじゃ」

「それに関しては、あとで纏めて対策を説明します。

 でも、一葉。あなたのはじめての探索も、私と二人きりでしたよね」


 そう言われて、一葉は懐かしい二人での探索を思い出した。


 まだ巣に女王と仁と、一葉しか居なかった時代。

 反対する二人を説得して、一葉は探索に行った。


 誰にでも、「初めて」はある。


 仁は続けた。

「先に地下探索班の話を。

 こちらは班長を葉月、それから絵葉。

 ですが二人の役割は少し違います。

 普段の葉月が優先すべきは、巣内の整備」

 仕方ないという風に、肩をすくめて葉月は応じた。


「絵葉は『地下のたね広場』の採集リーダーとなる事。

 こちらは私か護葉が慣れるまでは面倒を見ましょう。

 子蟻たちの採集デビューの場となります。責任重大ですよ」

「私がですか?子蟻が寝てしまったらどうすれば?」

 思わぬ大役に、絵葉がおろおろしていると

「まずは、前回の眠り姫チームでリベンジしたら?」

 紬葉が笑って答えた。


「そして、地下探索班としての活動も大事です。

 まずは準備して空洞探索に行きましょう。

 これは後日詳細を発表します」

 大きな大きな、葉月の歓声が上がった。


 そんな中、一人だけ不安そうにしていたのが結葉だ。

 なぜか自分だけ名前が上がっていない。


「……私は?」


「ここからが今回の一番重要な発表です」


 仁は優しく笑った。


「結葉さんには、新しい役割をお願いします」


 女王  蜜葉乃

 執事  仁


 その下に書き込まれた


 執務室  結葉


 初めての名称にみんな首を傾げた。


「まず各班から情報を集めます。

 困ったことがあれば相談を受けます。

 例えば護衛が必要なら、護葉へ連絡」


 護葉が静かに頷く。

「現場は任せて」


「少し例題を出してみましょう」

 仁がみんなに向かって言った。


「絵葉たち眠り姫チームで採集に行った。

 途中で困った事態が起きた。その時は?」

「結葉が離れていても危機に気付く」

「それなら護衛班が駆けつける」

「それ、実話だし!」

「もう寝ないから!」


「では、地上探索班は、春の採集をしたいと焦っているのに、人手が足りない。この場合は?」

「それも実話よね」

 と声が上がったが、結葉が少し考えて答えた。

「まずは食糧庫の在庫を見てから、必要採集量の相談。

 それから、子蟻を何人か地上探索班に配属、かな」


「そうです。

 必要なものが素材なら、探索班長へ連絡。

 作らないといけないなら、研究班長に連絡。

 という風にみんなの意見をまとめるのです」


 仁が続けた。

「結葉には、王国全体を見てもらいたい。

 他班からの人員や物資を借りたい時も、今後は結葉に頼む。

 逆に結葉が先に、他班の困りごとに気づいて調整する場面もあるでしょう」


 結葉は少し考えこんで

「私に、できるかな……」

「もちろん、私が執事として相談にのります」


 その言葉に一葉がうなずいた。

「結葉だから頼みたいんだよ」


 風葉も

「相談なら真っ先に行く!」


 次々と賛同の声が集まった。


 そして結葉は、決意した顔で答えた。

「……うん、頑張ってみる」


 結葉が全体を見てくれるなら、スムーズに動くかもしれない。

 皆が納得して、全ての班が決まった。


 最後に蜜葉乃が締め括った。


「新しい王国の未来が始まりますね」




 会議が終わった食堂で、仁は板をじっと見つめていた。


 小さな王国。


 少しずつ増えてきた仲間。


 役割は変わっても、


 みんなに居場所がある。


 その様子を横で見ていた蜜葉乃が微笑みかけた。


「王国もずいぶん大きくなりましたね」


 仁も静かに頷いた。


「ええ」


「これで、次の一歩を踏み出せそうです」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 仁の日誌


 王国が大きくなるということは、仲間が増えることだけではない。

 一人ひとりが、自分の役割を見つけ、誰かに頼り、誰かを支えることでもある。

 今日、新しい班が生まれた。

 それは仕事を分けたのではなく、それぞれの居場所を見つけた一日だった。

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