127 蜜葉乃の故郷
クモの集落滞在の最終日、クモの長老、守弦、蜜葉乃、仁は朝から会議室に集まっていた。
定期的な交易の品物や運搬方法も決まった。
交易には、蟻人のボートを使う他、キジバトも配送に協力してくれるそうだ。
「本当に助かります」
蜜葉乃は素直にお礼を言った。
「そういえば、キジバトからの報告が入ったのですが……」
長老が聞かせてくれたのは、神域外の蟻人の話だった。
地下の蟻人の遺構を見れば、彼女たちの文明の高さが想像できる。
神域を離れたとはいえ、蟻人たちは外の世界で文明を築いているのではないか?
長老はそう考えて、神域外のクモに調査させた。
蟻人は基本的には地下世界の住人だ。しかも蟻人が神域を出た時の経緯もある。
そのためお互いに干渉せずに暮らして来たのだが……
いつの間に神域外の蟻人たちと、仲良くなったクモの報告によると……
「ここの地下ほどかどうかはわかりませんが、やはり文明を持っているようで、巣毎に女王蟻人が治める王国のようです」
長老の言葉に、蜜葉乃が頷いた。
「記憶が曖昧なのですが、育った巣もそうだったと思います」
「それで、新しい女王蟻人が婚姻飛行で独立した後の事を聞いてみたのです。飛行後、女王蟻人は自力で最初の部屋を掘ります。それが独立の儀式だそうです」
「そうだったと思います。今後は自分の力で、新しい王国を作っていくのだと教えられましたから」
「それなんですが……新女王には、そのように教えるのですが……実際は、しばらくして卵が孵る頃には新しい巣を見つけ出し、元の巣や近隣の巣から人員や物資を送るらしいのです」
「……はじめて聞きました。仁と守弦以外は誰も来ませんでしたよね?」
蜜葉乃が目をぱちくりとさせて、仁に確認した。
仁は頷き返したが、しばらくして「あっ」と声を上げた。
「蜜葉乃さまは、世界樹の神域内に入ってしまったので、外からは見つけられなくなってしまったのでは?」
みんなが、天を仰いだ。
「その可能性が高いですね」
「そして守弦とのゴタゴタで蜜葉乃さまの記憶も曖昧になって、現在まで音信不通……というところでしょうか」
みんなで頭を抱えてしまった。
「実は、守弦の報告を聞いて違和感しかなかったのです。地下の遺構を見れば文明の高さが想像できます。独立した女王蟻人が、一から一人で築けるようなレベルではないと思ったのです」
長老の言うことは最もだった。
「クモ族も、代々知識と人員を受け継いでこその文明です。独立させる時にも援助するのが普通です」
「蜜葉乃さま、元の巣の場所を覚えてらっしゃいますか?」
仁の言葉に蜜葉乃は考えたが、何も覚えていなかった。
「あの日生まれてはじめて外に出ましたし、強風に飛ばされて墜落しかけましたし……」
仁も蜜葉乃との出会いを思い出しながら頷いた。
「そうでした。飛ばされて来たところを、助けましたね。その後も二人でかなりの距離を飛行した記憶があります」
結局、これといった情報はなかった。
「まあ、神域からそんなには離れていないと考えるのが自然でしょうね」
守弦が言った。
「お二人が出会った場所を教えていただければ、その辺りのネットワークを使って聞き込みをしてみましょう」
長老も約束してくれたが、仁もあの日が分身として作られた初日だ。場所を覚えているかどうか心許ない。神様に聞いてみよう。そう考えながら曖昧に頷く以外なかった。
「そういえば、そろそろ蟻人の婚姻飛行の時期ですね。二人で場所を探しに行ってみても良いかもしれません」
「まあ仁と二人で?楽しみね!」
クモ族のネットワークで、蜜葉乃の故郷の王国を探す協力を得られたことに、仁はホッとしていた。
神域の結界を以前よりも弱めたと神様も言っていた。
もしかすると、蜜葉乃の故郷とやり取りができるようになるかもしれない。
後日神様に聞いてみた回答は.......
「世界樹の神域近くの、蟻人がいっぱい飛んでたあたりだよ。詳しくなんて覚えてないよ」
位置の特定には時間がかかりそうだと、仁は頭を抱えるのだった。




