125 酒好きたちの苦悩
作っても作っても、すぐになくなる!
片手間じゃとても追いつかないよ!
自分たちが楽しむ為に自発的に始まったはずの酒造り班だったが、他種族との交換や宴会に使われて、お酒は常に不足気味だ。
双葉を中心に、酒好きメンバーが仕事の合間に作ってきたが、最早限界だった。
「これは、正式に酒造り班を結成する必要がありますね……」
結葉の言葉に、我先にと手を挙げた者たち。
「一葉、あなたは地上探索班の班長でしょう。春が来たから忙しいはずです。それに外交も担っていますよね」
「あ……」
「葉月、あなたは地下探索班長。しかも坑道掘りは? 巣は誰が設計するんですか」
「えっと……」
「護葉、同じく護衛班の班長でしょう! 巣の安全を護るのが第一です」
「うっ……」
「とはいえ、その情熱が酒造りを発展させてきたのも事実。これまでの実績を勘案して、あなた達は名誉班員とします。あくまでも余暇を使って、酒造りに参加する事を、引き続き認めます」
結葉の言葉に、一同顔を綻ばせて、歓声を上げた。
「双葉、あなたは研究者としても忙しいでしょうから、相談役はどうですか?お酒の改良や開発で困ったときに力になってあげて」
「まあ、他の部門と同じだね。困った時のお助け役」
「それから本葉。あなたも色々な製作に携わって忙しいと思いますが、酒造り班を任せて良いかしら?子蟻たちを上手く率いて、生産体制を整えられる?」
「私?もちろんだよ!初めての大役嬉しい!」
本葉は自ら研究班入りを希望して以来、トラブルや暴走が多く、なかなか大きな仕事を任せて貰えなかった。センスは良いのだが、周りを見ることができなかったのだ。
そんな彼女も、この冬は紬葉や絵葉、彩葉と共同で製品開発に携わり、成長著しかった。
「おめでとう本葉。ついに独り立ちかな?」
双葉の言葉に大きく頷いた。
「そうですね。同期の絵葉はもちろん、妹の彩葉までもが大きな仕事を任されているのです。私もしっかりしなくては、妹たちに示しがつきません!」
その宣言に、拍手が沸き起こった。
「あの本葉が敬語を……」
結葉は感動していた。
そうしてスタートした本葉班長の酒造り班。
意外なほど順調に滑り出した。
そこには、姉たちの密やかなサポートもあった。
本葉に任せるにあたり、結葉はしっかり者の子蟻を多く配属した。
葉月は、酒造りがしやすいように、改めて醸造所や蔵を掘り、配置の相談に乗った。
一葉は地上を駆け回ってお酒にできそうな素材をたくさん採集した。そして蜂の女王と交渉して、お酒と蜂蜜を定期的に交換する約束も取り付けてくれた。
そして双葉は、以前蜂蜜がなくても葛酒を作り出した研究を進め、酒母を作り出すことに成功していた。
「酵母を上手く培養して酒母を増やすなんて!これでさらに色々なお酒が作れるよ!」
その言葉通り、本葉は次々と新素材のお酒を開発していく。
まずは「仙桃の雫酒」
その名の通り、仙桃の雫に酒母を配合して作った。
蟻人と、限られた客人のみに振る舞われる幻のお酒として、「仙桃の果実酒」と双璧を成す事となる。
もう少し手軽なお酒として普及していくのが「甘露酒」
アブラムシ牧場で採れた、香り高い甘露に酒母を配合した。
「深い森の香り」「キャラメルのような香ばしさ」が評判となる。
蜂蜜のミードとは違った味わいが、多くのファンを掴む事となる。
そして本葉が、春の野に出て自ら選び、開発したのが「タンポポの花酒」だ。
春に一斉に咲くタンポポの花びらだけを集め、蜂蜜と水を加えて発酵させた。
仕上がりは、まるで春の木漏れ日のような、美しい透明感のある黄金色のお酒となった。
女性の間で、果汁を混ぜて飲むのが大流行した。
余談だが、本葉に負けじと双葉が開発したのが、「胞子酒」
春の初め、湿った岩や木の根元にあるコケは、一斉にニョキニョキと「マッチ棒」のような細い柄を伸ばし、その先端に胞子を蓄えた小さな胞子嚢をつける。
その胞子嚢をパチンと弾くと、中から甘く青々とした濃厚胞子が飛び出す。「胞子酒」はこの胞子を蜂蜜水に混ぜて発酵させるのだ。非常に強い野生の酵母が含まれており、仕上がりはエメラルドグリーンの、森の香りが深い神秘的なお酒に仕上がった。
その他にも、様々な果実酒や花びら酒が作られていくのだが……
「全然足りない」
「作っても作っても、なくなる!」
「美味しくすればするほど、私の飲む分が減ってしまう!」
おいしさが評判となり、お酒は蟻人の特産品として引っ張りだこになっていった。
それでも本葉は、しっかりと子蟻たちをまとめ、酒造りをさらに進化させていく。
その先のお話は、また別の機会に。




