124 古の盟友
昔々、神様は神使のカラスと、神様にそっくりな分身と共に、この星に降り立った。
この星を気に入った神様は、世界樹のタネを植え、生活を始めた。
やがて神様の分身は、カエルと恋に落ち、ツガイとなった。
その後、カラスとクモの姿をした分身をお作りになり、神域をお定めになった。
分身たちは、力を合わせて神様と世界樹に仕え、代々神域を守った。
同じ頃、遠方から蟻人の一団が神域の地下に移住してきた。
彼女たちは勤勉で文明を持つ種族だった。
女王を中心に、地下に王国を築いていった。
王国といっても、排他的でも独占的でもなかった。
むしろ周りの生き物たちに、知識も物資も惜しみなく分け与える、善良な種族だった。
蟻人たちは自然と神域に溶け込んでいき、周りの生物たちも蟻人の知恵に頼る。
神使のカラスや分身たちも、蟻人を盟友として受け入れた。
その頃神様は、重要な用事で天空に戻ってお留守だったが、皆で助け合って神域は、どんどん発展していった。
しかしある夜、空に突如として強き光が現れ、ほどなくすると消えた。その直後、大気は大きく震え、地までも揺れた。
その冬は例年になく長く、寒さはいつまでも去らなかった。雨の日が続き、空は薄暗いままだった。
草木の成長は著しく悪く、世界樹もまた、かつてないほど力を失ったように見えた。
それでもみんなで一つ一つ対応して、なんとか乗り越えられそうだと思っていたのだが、世界樹の地下では異変が起こっていた。
硬い殻を持つ地下の虫に、奇病が蔓延してしまったのだ。
感染した虫は、体が白い綿のようなものに覆われて死んでしまう。
体表が硬い殻で覆われている、蟻人も発症した。
彼女たちの薬の知識を持ってしても、病気の進行を遅らせる以上のことはできなかった。
多くの命が失われてもなお、原因はおろか治療法も見つからなかった。
打てる手が尽き果てて、結局世界樹の地下は、封鎖するしかなかった。
南の山の蟻人の巣は無事だったが、多くの仲間を失った女王蟻人の悲しみは深く、彼女たちはこの地域を去ることを決めた。
誰も反対できなかった。感染が広がる可能性も否定できなかったからだ。
地下の蟻人の巣は封鎖されたが、クモ族を中心に、代々みんなで大事に守ってきた。
そうクモ族の長老が話してくれた。
「そういうわけで、蟻人族とクモ族は古からの盟友だというのに、うちのバカ息子ときたら!蟻人の女王さまに怪我を負わせるなどありえん!やはり門番を罷免した方が!」
「そんな。怪我をしたのはお互い様なのですから、その事は水に流しましょう」
「ええ、守弦には力を貸していただいております。門番交代はむしろ困ります」
蜜葉乃と仁が慌てて長老を宥めた。
「それより、今後の交易の話を進めませんか?」
一葉も話題を変えた。
「そうですな。地下の蟻人の巣はどうされますかな?こちらに移住されることも検討されては?」
仁と相談した後、蜜葉乃が答えた。
「今はまだ、こちらの拠点まで維持するだけの人手も知識も足りません。何人かは調査の為に滞在させるかもしれませんが、回答を保留させていただけますか?」
「ええ、もちろんですとも。すぐに決められることではないでしょう。あそこは蟻人のものです。いつでもご自由になさってください」
その申し出を、蜜葉乃は受け入れることにした。
「何世代にも渡って守っていただき、本当にありがとうございました」
そうしてこの後の話し合いは和やかに進んでいった。
「クモ族としては、お酒と染色した糸は是非にもお願いしたい。いくらあっても構わない」
どうやら、長老は酒を、守弦の母親は染色された糸を大層気に入ったらしい。
何と引き換えても良いと言い出して、側近たちを慌てさせた。
「蟻人は、後で品物を選ばせていただいても良いでしょうか?素晴らしいお品ばかりで目移りしてしまいますわ」
蜜葉乃の言葉に、一葉と絵葉が目を輝かせて相談を始めた。
「寝具も素敵だし、食器も椅子や机も素晴らしいわ」
「絵を描く道具も外したくありません」
「クモの糸で編んだロープや道具類も捨てがたい」
「今回はボートに乗る量だけでお願いします」
仁が言った言葉が、彼女たちに聞こえたのかどうかはわからないが、聞き流されたことは確かだ。
仁は守弦の方を見て、ため息を吐いた。
結局この後、蜜葉乃たちは嬉々として品物を選びに行った。
守弦の母が嬉しそうに倉庫に案内してくれた。
その間に仁は急遽、守弦の案内で川を下り、複数のボートに交易の品と人員を乗せて戻ってくることになるのだった。




