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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
三章

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123/130

123 開かれた石刻の広間

「糸月が先走ったせいで、混乱させてしまいました。申し訳ない。まずは見ていただく方が早いかもしれません」

 守弦はそう言って、蜜葉乃、仁、葉月と、急遽呼び出した絵葉をクモのエレベーターに乗せた。今回の糸はとても長く、一行は地上に降り立った。


「こちらです」

 守弦はそういうと、木の根の隙間から地下に潜っていく道を案内した。

 その穴は、垂直移動の得意なクモの族のものとは違い、斜めの斜面になっていた。


「ここはもしかして?」

 坑道班の一員である絵葉が最初に気づいて、声を上げたと同時に、視界が開けた。

 そこは、地下に作られた広い広場のようだ。構造が泉の広場によく似ている。


 守弦が頷いた。

「ええ、蟻人の巣です。今は、一部を他の虫たちが使っている程度で、大部分が空き部屋ですが」

「なるほど。本当に盟友だったのですね。こんなに近くで生活していたなんて」

「クモ、蟻人、カエル。それから神使のカラスを中心に、神域ではみんなが力を合わせて生活してきました」

 説明を続けながらも守弦は部屋を横切り、地下の巣を案内して回った。

「当時の蟻人の拠点は、元々こちらでした。けれども、世界樹の世話もすることが増え、あちらにも坑道を掘ったと聞いています」


 蜜葉乃と仁は、腑に落ちたようで、頷きあっていた。

「実は、立派な坑道が張り巡らされている割には、部屋が少なすぎると、仁とも話したことがあったのです」

「ええ、あれだけの坑道を整備するには、かなりの規模の人数が必要だったと思うのです」


 絵葉も同意した。

「そうなんです。大きな空洞や、泉の広場のような大きな部屋が残っている割には、女王様や、育房の部屋が出てこなくて。生活感が薄いのです。最もまだ発見できていないだけかもしれませんが」


「なるほど。お渡しした地図以外に詳細は残っていません。なぜ書き残さなかったのかはわかりませんが……」


 そんな話をしているうちに、坑道は地下深く潜っていった。

 やがて倉庫街を抜けて再び大きな広場のような部屋に出た。

 部屋には水路が流れている。

「この水路は、最終的に青い池につながっているのです。穏やかな流れで、木片なんかに乗れば今の蟻人の巣の近くにも流れつけます」


「冬ごもりの部屋の近くの、カエルがつなげた水路!?」

 一葉が目を輝かせて守弦を見た。

「……私はよく使うルートですが……今度一緒に川下りをしてみますか?

「いいの!?」


 その様子を見た蜜葉乃までもが、目を輝かせて仁を見た。

 蜜葉乃の願いならなんでも叶えてあげたいところだが……女王が木の枝に乗るのはどうなんだ……?

 仁が困り果てていると、守弦が助け船を出してくれた。

「カエルに連絡をとってみましょうか?魚たちに蟻人のボートをここまで運んでもらって、帰りも横を泳いでもらってはいかがでしょう?カエルが上手くメンバーを調整してくれますよ」


 蟻人のボートなら、一葉も青い池まで行き慣れている。

 蜜葉乃を乗せても、安全だろう。

「もちろんキジバトも上空から見守ってくれます」


 守弦の言葉に、仁も頷いた。

 蜜葉乃も一葉も大喜びだ。


 仁はコホンと小さな咳払いをして続けた。

「遊びではありませんよ。今後交易路として使えるかの視察です」

「わかっています。もちろん視察です」

 蜜葉乃嬉しそうな顔に、仁も表情が緩んだ。


「ここは元々、交易路として使われていたようですから、ちょうど良い機会ですね」

 守弦はそう言って、来た道とは違った坑道へと案内を続けた。


「ここまでは、他種族の手で運用を続けてきたのですが、これからお見せするエリアは手が入っておらず、修繕が必要です。かなり精密な作りで、正直なところ蟻人以外では維持改修できないと思うのです」

 そう言って案内された道は、徐々に狭まってきた。大きめのクモである守弦は、少し脚を曲げて窮屈そうに進んでいる。

「私はここで待っています。これは蟻人が受け継ぐべき遺構でしょう。蟻人だけでご覧下さい。手入れしていませんので気をつけて」

 そう促されて進んだ先には、精密な模様を彫られた木製の扉があった。

 仁は辺りを注意深く見回し、扉に手をかけた。

 長い間手入れのされていないドアは軋み、もうもうと土煙を上げながら少しずつ開いた。


 土煙がおさまり、中を観た蟻人たちは、その先に広がっていた荘厳な光景に、思わず息を呑んだ。


「……すごい」


 そこは、ただの地下空間ではなかった。

 白い石灰岩を削り出して造られた巨大な広間だ。

 どこから灯りを採っているのか、部屋の中は明るかった。

 壁も、柱も、床までもが白い石で整えられていた。


 天井を支える太い柱には、細かな彫刻が施されている。

 植物の蔓や花。

 見たことのない生き物。

 どの像も長い年月を経てもなお、その姿を失ってはいなかった。


 床には白い石が規則正しく敷き詰められ、広間の中央には、かつて何かが置かれていたと思われる台座が残されている。


 その先には、いくつもの道が地下へ、さらに奥へと続いている。


「……蟻人が、ここを……?」

 目の前にあるものを理解するほど、驚きは大きくなっていく。


 ここはただの蟻人の巣ではない。

 紛れもない文明の跡だ。


 そして、その文明は…………

 今、自分たちが暮らしている巣よりも、はるかに進んでいた。


 白い石灰岩の壁を見上げる。

 静まり返った広間の奥から、遠い昔の蟻人たちの声が聞こえてくるような気がした。



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