111 貴方に届け
お風呂の後は、お待ちかねのパーティだ。
パーティの準備を頼まれて困り果てたカラスは、結局天空を頼った。
神使のカラスが、天空にある神様の宮に連絡を取ると、家具や食料、使用人までもが速やかに送られてきた。
「急なお願いで申し訳ない」
カラスの謝罪に侍女頭らしき女性が首を振った。
「やっと末神様も、星にお城を建ててくださいました。世界樹の種を植えた日からずっとお待ちしていたのです」
彼女たちの采配で城は速やかに整えられ、パーティの準備も整った。
立派なお城でのパーティに、緊張を隠せない住民たちだったが、温かいお風呂の後の美味しいご飯と美味しいお酒。すぐにいつもの宴会の様相になった。
カエル族が演奏と歌を何曲も披露すると、みんな思う存分歌って踊った。
楽しい時間が過ぎていき、みんなが休憩をとり始めた頃。
蟻人たちが、ズラリと並び、作ったばかりの一弦箏で、拙いながら一生懸命な演奏を披露した。温かい拍手が会場を包んだ。
初めて見る一弦箏に、みんな興味深々だ。
最前列では、神様のからかいに、仁が生真面目に答えている。
「蜜葉乃ちゃんが緊張して演奏する姿もかわいいね」
「当たり前です。蜜葉乃様は、世界一ですから」
神様は笑って、今度は守弦に声をかけた。
「守弦もハープの名手って聞いたよ」
「名手かどうかはわかりませんが、夜弦が作った歌は何曲も教えられていますね」
「えっ?夜弦って歌も歌えたの?絵が上手としか聞いてないよ?」
「ええ、歌もハープも上手かったと伝わっています。スケッチ旅行に行った先では、歌で寝床を確保していたようですから」
「えっ、ナンパ目的の歌って事?」
神様は苦笑しながら続けた。
「その結果が、あの子どもの数か……初めて聞く夜弦の真実だな」
うっかり余計な事を神様に話してしまったかもしれない。
「では一曲、夜弦の残した名曲を歌いましょう」
そう言って、守弦は静かにハープをかき鳴らし、歌い始めた。
名は聞かないで 私は旅人
描きしものは 美しき花
貴方に出会うためだけに
今日も彷徨う 我の心
遠く離れて思うのは
その瞳に映る 我が姿
月が昇れば 風に乗せて
貴方のしあわせ願い歌う
旅の先から想いを込めて
一筆ごとに 焦がれゆく
明日はいずこか 知らねども
今宵は貴方の そばにある
遠く離れて思うのは
その瞳に映る 我が姿
月が昇れば 風に乗せて
貴方のしあわせ願い歌う
途中から、なぜかナキウサギの一家も歌っていた。
演奏を終えた守弦は、不思議そうに尋ねた。
「クモ族に伝わる歌なのに、なぜナキウサギが知っているんだ?」
「なぜって言われても、昔からナキウサギの村で歌われてきた歌ですよ」
ナキウサギの父親が答えると、お兄ちゃんが嬉しそうに言った。
「これってプロポーズの歌だよね!父ちゃんも母ちゃんにプロポーズの時に歌ったって言ってたよね!」
ナキウサギの母親が、恥ずかしそうに頬を染めながら頷いた。
「夜弦はあちこちに旅をしていたから、ナキウサギの集落にも行ったんだろうね。僕の部屋に、ナキウサギの集落の絵もあるもの」
神様が懐かしそうにいった。
「やっぱり女たらしの歌であってるじゃないか!」
カエルが言うと、ナキウサギたちが訂正した。
「プロポーズの歌ですよ!ナキウサギはこの歌でプロポーズするんですから」
どっちの言い分が正しいか、議論が始まった。
守弦はその様子を見守っている神様だけに聞こえるように、そっと囁いた。
「この歌は『三日月の歌』と言う題名です。夜弦が神様を想って作った歌と伝わっています」
そう言って守弦は、再び同じ曲を弾き始めた。
今度はみんなが歌う。
サビの部分は繰り返しだ。すぐに覚えたのだろう。
盛り上がるみんなのそばで、神様が静かに涙を流していた。
カラスがそっと神様の肩に乗った。
「夜弦を思い出したのですか?」
「まあね。夜弦は一番長く、僕の分身でいてくれた子だから」
「他の分身たちは、いつもあっという間に独立してしまいましたからね」
「まあね。たしか千代が独立したのは、君が口説いたせいだよね」
「……まあ、運命には抗えませんから」
神様がクスッと笑った。
「カエル族といい、クモ族といい、年月を経ても神様を慕う歌を残すとは。神様は愛されていますね」
カラスの言葉に神様が驚いた顔を向けたが、すぐに納得したように同意した。
「そうかもしれない。みんないい子だったよ。また分身を作ろうかな。夜弦みたいに長くそばにいてくれる子だといいんだけど……」
「独立してしまっても、みんな神様の側にいるじゃないですか」
「……そうだね。千代もずっと側にいてくれたね。これからもよろしくね」
「まあ、千代の一番は夫の私と決まっていますが。一緒に神様を支えますよ」
何度も頷いた後、神様は立ち上がり、みんなの輪の中に入っていった。
一緒に曲を口ずさむ。
楽しいパーティの夜が更けていった。




