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葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
二章

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112/130

112 秘密の部屋

二章最終話です。

 神様が予告した通り、残りの冬は例年以上に寒さが厳しかった。

 吹雪が多く、積雪も例年の何倍にも及んだ。

 そんな中でも、神域のみんなは助け合って寒い冬を乗り越えて行った。


 掘り出した葛の根っこはみんなの命を繋ぐ食糧となった。

 後日、付近の探索を地下から続けた葉月が、他の葛の根っこを発見した。

 もちろん情報は共有され、クマとイノシシが地上から匂いを頼りに掘り当てたりもした。


 寒い寒い冬も、ようやく終わりが見えてきたようだ。

 少しずつ吹雪く日が減り、太陽の温かさを感じる日が増えてきた。


 そんなある日、神様は母神から呼ばれて神使のカラスと共に、天空に出かけて行った。

 守弦は城で二人を見送ると、足早に蟻人の巣に向かい、仁と双葉を呼び出した。


「今日であれば、以前約束した保管庫に案内できます。行ってみますか?」


 保管庫。そこには地下世界の過去の記録が残っている。

 夜弦と過去の蟻人が残したもので、クモ族が代々護ってきた場所だ。

『凄惨な記録も含むので神様には内緒にする事』を条件に、仁と双葉が見せてもらう約束をしていた。

 守弦は、神様が星を留守にする日を待っていたのだ。


「ぜひ。世界樹はずいぶんと元気になった気がするけど、奇病の研究は手付かずだからね」

 双葉が望み、仁と共にすぐに出発することになった。


 蟻人が急足で歩くと、二時間ほどの距離。

 保管庫は世界樹の真下だった。

「この上は世界樹で、夜弦が埋められているんです。神様が彼を埋葬した後、結界を張ったので、真下のこの扉は許可された限られた者しか見つけられません」

 そう指さした先には、世界樹の細かな根っこが広がっている。

 よく目を凝らすと、根っこに隠れて扉があった。

「クモ族のサイズの扉ですから、神様も知らなければ見つけられないでしょう」

 そういいながら、守弦はそっと扉を押した。


 意外なことに、中は広く明るかった。

 世界樹の中の空洞に作った部屋だ。

 世界樹の幹の隙間から、光が漏れ出ているのか、辺りをほんのり照らしている。

 壁一面に棚があり、絵や書類が整然と並べられていた。


「……これは、すごい数ですね」

 仁が感嘆を漏らした。

「クモ族総出でクモの糸紙を作ったと伝わっています。夜弦が絵を描き、蟻人が記録を残したそうです」


 促されて双葉は資料を見て回った。

 患者の症状の詳細な絵。日々悪化する症状の変化。

 違う棚には、神域の風景の様子も描かれていた。

 紐で綴じられた本は、その時の日誌のようだ。

 パラパラとめくると、こんな記述だった


『夜、空に突如として強き光が現れ、ほどなく消えた。その直後、大気は大きく震え、地までも揺れた』

『この冬は、例年になく長く、寒さはいつまでも去らなかった。気温は上がらず、雨の日が続き、空は薄暗いままだ。

 草木の成長は著しく悪く、世界樹もまた、かつてないほど力を失ったように見える』


「これは調べるのにいったい何日かかるのか……」

 双葉が途方にくれた。だが、やっと見つけた貴重な資料だ。もしもまた奇病が蔓延した時に後悔したくはない。

「何年かかっても調べるよ。大切な資料を護ってくれてありがとう」

「やっと、この資料が役立つ日が来たのです。クモ族は護っただけで、活かす術がありませんでした」


「とても貴重な資料ですよ。これを護るから『門番』なんですね」

 仁の言葉に守弦が頷いた。

「保存庫も、護るべきものの一つです。あとは、地下に生物を長居させない事、神様を影から見守る事、神域を護ることです」

「誤解から始まった蟻人とクモの関係を修復できて、本当に良かった」

「全くその通りです。春にはクモの集落に戻るのが慣例です。去年は怪我で帰らなかったのですが、今年は戻ります。色々重要な報告がありますから」

「集落とは、南の山ですか?大変ですね」

「ご心配なく。実はカラスが送迎してくれるのでひとっ飛びなんです」

 知らないところで、カラスが活躍していたようだ。


「カラスって、すごいね」

 双葉の言葉に、守弦が説明を始めた。

「一番偉いのはもちろん神様ですが、常に寄り添う神使のカラスは、二番目に偉いとも言えますね」

「神使?」

「その名の通り、神様の使いです。神様が独立される前からずっとお仕えしているそうですよ」

 え?そんな偉いカラスを乗り物にしていいのかな。私も乗ったことあるんだけど……そんなことを考えていると、守弦が笑って行った。


「背中に乗せてくれるのは大抵息子さんですよ。神使のカラスと、神様の元分身の千代が夫婦になって、子カラスが生まれたんです。今は子どもが何羽って言ってたかな?」

「神使と元分身の結婚って……そんなことがあるんだね」

「カラスの一目惚れらしいです。酔っ払って話してましたから」

 真面目そうなカラスの意外な一面に、みんなで笑った。


「話は逸れましたが、保管庫の場所は分かりましたね。いつ入っていただいても構いませんし、仁と双葉が必要だと思う者は連れて来ても構いません。ただし、持ち出しは厳禁。神様は勿論、保管庫のことは絶対に内密にお願いしますね」

 少し見ただけでも、凄惨な記録だった。

 これを見れば優しい神様が心を傷めるのは間違いないだろう。

 確かにこれは一部の者だけで管理するべき部屋だ。仁と双葉も同意した。


「では、私は帰ります。扉さえ閉めれば、鍵も特に必要ありません」

 そう言って、守弦は保管庫から出て行った。


「蟻人の巣からここまで二時間かかったよ。通うのはちょっと遠いなあ」

 双葉の言葉に仁も同意した。

「泉の広場からまっすぐ道を作れば、一時間もかからないと思います。神域には敵もいないようですし、道を整備するべきかもしれませんね」

「一人で資料読み解くのも大変そうだし。誰か助手を探す必要があるよ」

「色々整える必要がありそうですね。双葉が研究資料を置いたり、実験をする部屋も専用に作る必要があるでしょう」

「秘密が多い研究になるからね」


 たくさんの資料に、双葉はまだまだ名残惜しいようだったが、まずは環境整備も大事だ。

 今日は戻って話し合おう。

 そう説得されて二人は保管庫を後にした。









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